【国内試乗】RR+7速MT+軽量化! これぞリアルスポーツカーの理想像「ポルシェ 911 カレラT」

911カレラTは、911カレラと911カレラSの中間に位置づけられている。“T”はツーリングを意味し、ピュアで爽快なドライビングプレジャーが得られるモデルに仕上がっているのだ。その走りっぷりを一度味わったら虜になるかも!?

リアルに引き出される911ならではの魅力

以前の試乗では素のカレラがイチオシと断言した。理由は、911の魅力のすべてが実感でき日常の足としても使える快適性と実用性を備えているからだ。でも、前言を撤回。’22年10月に日本市場への投入が発表された911カレラTをイチオシにしたい。ようやく試乗の機会を得たことで、断言変更にいたってしまったのだ。

911の魅力は、RRをリアルスポーツに仕立てるポルシェの真価が実感できること。

そもそも、911は際限がないかのように続々と新モデルを追加。’22年11月には何とオフロードの走破性も重視した911ダカール、’23年8月にはレースマシン的な911GT3RSをベースに一般路での走行を考慮した911T/Sを投入。いまや、911のラインナップは限定車を含め26モデルもある。
それでもカレラTを新たなイチオシにしたのは、911の魅力をリアルに引き出してくれるからだ。エンジンは、カレラと同じ3Lの水平対向6気筒ツインターボを搭載。性能もそのままで、最後出力は385ps/6500rpmで最大トルクは450Nm/1950ー5000rpmを発揮する。

911カレラTは、LSD機能を備えたPTVが追加されるほか、スポーツクロノパッケージ、車高10mmダウンのPASMスポーツサスペンションを標準装備。リアアクスルステアリングもオプションで装着可能。

ところが、カレラTの走りは体感として別モノ。なぜなら、後席を除き遮音材の一部を省きガラスとバッテリーを変更することなどにより軽量化。標準で組み合わされる7速MT仕様の場合で、カレラよりも35kg軽い。正確にいえば、カレラは8速PDKを組み合わせるのでカレラTの同仕様で比べると数値としての車重は1580kgと変わらず。ただ、カレラTはカレラよりもワンサイズワイドなタイヤを履くことによる重量増を踏まえれば軽量化は事実だ。
その効果だけではなく、遮音材やガラスが専用設定となることを見逃してはならない。エンジン音の聞こえ方が、カレラとは明らかに異なる。音質が澄み音量も大きくなり、中回転域からはレースマシンのエンジンに通じる機械音が重なってくる。そして、6500rpmを超えると排気音が中周波から高周波に変わり一気に7400rpmまで吹け上がる。

パワーユニットは911カレラと同じ385ps/450Nmを発生する3L水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載。

音の聞こえ方により、エンジンがターボではなく自然吸気式に変わったと誤解が生じるほど。吹け上がりが一段と鋭くなったように感じ、加速の勢いも際立ってくる。スポーツエキゾーストシステムを標準装備するので、走行モードがスポーツなら音量がさらに増す。7速MTをシフトダウンするとオートブリップが作動し、これまた鋭く回転合わせをしながら歯切れのいいエンジン音が響く。
単純に、遮音材やガラスを変更しただけではこうはならない。余計な雑音まで耳に届いてしまうことを防ぐために、高度な開発に取り組んだに違いない。見方を変えれば、この音こそ911のエンジン音なのだ。それを、まさにリアルに引き出してくれるわけだ。
実は、加速性能を比較するとオプションで選択できる8速PDK仕様の方が速い。0→100km/h加速は、8速PDK仕様が4秒で7速MT仕様は4.5秒となる。それでも、7速MT仕様に魅了される。自らのシフト操作によりエンジンの実力を引き出すことで、魅力がリアルにキラめく。

フロントは20インチ、リアは21インチのチタニウムグレー カレラSホイールを装着。試乗車のタイヤはピレリPゼロ。

しかも、MTの操作に不慣れなドライバーがいきなり911Tを選んでも問題はなさそうだ。シフトダウンでオートブリップが作動するだけではなく、発進時はアクセルを踏まずにアイドリング状態のままクラッチを繋ぎ始めると回転数が自動的に上昇。それでもエンストしたら、クラッチを切ることでエンジンが自動的に再始動。坂道発進では、ブレーキが介入し後退の心配にかられずに済む。もう、至れり尽くせりだ。

目指すべきなのはいい911としての進化

なおかつ、カレラだけではなくカレラTも日常の足としての役割を兼ねる。エンジン性能はそのままなので、低回転域から充実したトルクを発揮。力強さの余裕があるため、メーターに表示されるシフトインジケーターは1500rpm以上になるとシフトアップを促す。高速道路では、80km/hを超えると7速までシフトアップが完了。7速100km/hのエンジン回転数は1600rpmとなり、優れた燃費まで期待できそうだ。

インテリアは、スポーツシートプラスとGTスポーツステアリングホイールを装着。リアシートは除かれ、遮音材を削減。軽量ガラスや軽量バッテリーも採用する。通常のカレラに比べると35kg軽い1470kgと911の中では最軽量だ。カレラにはない7速MTが標準で、8速PDKも用意される。ちなみにMTとPDK仕様の価格は共通となっている。

サスペンションは、ダンパーの減衰力を連続可変制御するPASMスポーツを標準装備。スプリングとスタビライザーも強化され、車高はカレラよりも10mm低い。だからといって、硬さを意識することはない。路面が荒れているとタイヤがドスッという打音を発することもあるが、突き上げなどの不快感とは無縁でいられる。
ちなみに、走行モードをスポーツにしてもダンパーの制御はノーマルのままだ。スポーツプラスにすると、減衰力が高めの領域で維持されるスポーツに変わる。それでも、路面が平坦なサーキット専用といった設定ではなく一般路でも我慢を強いられることはない。コーナーを駆けぬける場面では、ボディの動きが抑制される。

ただ、むしろ走行モードはスポーツでダンパーの制御がノーマルの方が911ならではのボディの動きがリアルに引き出せる。駆動方式は、リアにエンジンを搭載しリアのタイヤを駆動するRRなので前後重量配分は38:62となる。完全なリアヘビーで、だからこそ荷重によりリアタイヤの高いグリップ力が獲得でき強烈な加速と減速が実現可能となる。
逆にいえば、フロントの荷重が極端に減ってしまう。コーナー脱出時にアクセルを踏み加速に入るタイミングが早すぎると、フロント荷重が抜けてタイヤのグリップ力が失われるような緊張感をともなう。いいクルマを目指すなら避けるべき特性であり、実際にカレラはそうしている。

だが、カレラTは違う。現実としては、リア左右のタイヤに伝える駆動力を連続可変制御するPTVをデファレンシャルに組み合わせているのでアンダーステアに陥ることはない。にもかかわらず、フロントの荷重が減る感覚がリアルに伝わってくる。緊張感がいい意味の刺激となり、911なのだからそれでいいとさえ思えてしまう。
なおかつ、コーナー進入時にはステアリングを切り込む過程でブレーキを残すことでフロントの荷重が増える。その感覚が得やすいことも911ならではの特性だったはずであり、またしてもカレラTは魅力をリアルに引き出し記憶を蘇らせてくれるのだ。

そう、かつて911は993型の時代にいいクルマを目指してしまった。そのため、911らしさが損なわれた感がある。ただ、996型からは再びいい911を目指して開発が繰り返された。
ところが、カレラTを走らせるとカレラはいいクルマそのものに思えてくる。911の魅力とは何か、アンバランスなRRをリアルスポーツに仕立てるポルシェの真価が実感できることなのだ。

【SPECIFICATION】PORSCHE 911 CARRERA T
■車両本体価格(税込)=17,570,000円
■全長×全幅×全高=4530×1852×1273mm
■ホイールベース=2450mm
■車両重量=1470kg
■エンジン種類/排気量=水平対向6DOHC24V+ツインターボ/2981cc
■最高出力=385ps(283kW)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1950-5000rpm
■トランスミッション=7速MT
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:245/35ZR20、後:305/30ZR21
問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911

【ANOTHER RECOMMEND】BMW M2
駆動方式にこだわるのはBMWも同じだ。2シリーズクーペがFFになっても不思議ではなかったがM2が存在していたからこそF Rを守った。7000rpmオーバーまでブン回せる直6ツインターボも横置きでは搭載できなかった。

リポート=萩原秀輝 フォト=郡 大二郎 ルボラン2024年1月号より転載

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2024/01/04 11:30

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