【比較試乗】軽量か? オープンか? 911カレラはどちらがオススメですか?「911カレラ・カブリオレ vs 911カレラT」

ともに最高出力385psを発揮する水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載するカレラシリーズ。ここでは、同じエンジンを積んだ2台をピックアップ。軽量化を施したカレラT、オープンエアを堪能できるカレラ・カブリオレ。それぞれの推しポイントはいかに?

ポルシェ911カレラ・カブリオレ/デイリースポーツカーとして最高のモデル

最近新たにモデルに加わり初試乗したカレラTは、幅広いファンに推せるモデルであり、911のスポーツカーとしての資質をもっとも理解しやすいとも言えるのだが、カレラ・カブリオレの魅力には叶わない。以前からカブリオレやタルガが放つ煌びやかな雰囲気に憧れがあり、いつかは手に入れたいと思っているのだ。

石井昌道/カレラ・カブリオレ推します。いつかは手に入れたいと思っているので(笑)

雰囲気だけではもちろんなく、ボディ剛性が高く、走りにネガを感じさせないのも911ならでは。997あたりまでは、さすがはポルシェ、オープンボディのわりには剛性感も十分、といったところだったが、現行モデルなんかはワインディングロードをちょっとやそっと攻めたぐらいではクーペとの違いがわからないほどだ。

911カブリオレにはガラス製リアウインドーを備えた自動展開式のファブリック製コンバーチブルトップが装備。軽量でありながらも極めて堅牢に仕上げられている。開閉に要する時間はいずれも12秒、速度が50km/hまでであれば走行中でも開閉が可能だ。

911の好きなところはパフォーマンスが高いだけではなく、デイリースポーツカーとしても大切にされていることだ。通勤で毎日乗り、ときには出張で高速道路をかっ飛んでいくビジネスエクスプレスになり、週末はサーキットまで行ってタイヤやブレーキはそのままだって走りを存分に楽しんで帰ってこられるタフさもある。大人2人の移動体としては利便性も十分に確保され、荷物置き場的なリアシートもデイリースポーツカーとして重要なアイテムだ。モデルチェンジによって乗り心地が良くなると、軟弱になったと嘆く人もいるが、自分としてはデイリースポーツカーの正常進化であり、現行の992は理想的な姿だろうと思っている。
カレラ・カブリオレならば911との日常生活に、パッと花が咲いたような豊かな気分が加わるのがいい。今回はようやく残暑も収まってきたワインディングロードをオープンで走り回って最高に気持ちがいいオープンエアモータリングを堪能できた。アクセルを踏み込めばフラット6のエンジンサウンドが風の音と混じり合って聞こえてくるのも気分がいい。

ポルシェ911カレラ・カブリオレの価格は1845万円だ。

比較試乗したカレラの4台の911(カレラ・カブリオレ、カレラT、カレラ4GTS、GT3)のなかではもっともサスペンションがしなやかに感じられてストローク感もある。だから乗り心地も抜群に良くて、本当に毎日乗るなら嬉しい特性だ。だからといって安楽なだけのではなく、コーナーを攻めていけばしっかりと911の魅力を堪能できる。むしろ、オープンエアの気分的な効果としなやかなサスペンションによって、他よりも低い速度域からドライビングを楽しめるというのがカレラ・カブリオレの推したいポイントだ。クローズドと乗り比べてみたところ、ほんのわずかにオープンのほうがハンドリングはいいように感じられたが、ボディ剛性というよりも重心が下がるからかもしれない。
ルーフを開ければ走りの楽しさが倍増し、日常を彩ってくれるカレラ・カブリオレは究極のデイリースポーツカーなのだ。

ポルシェ911カレラT/スポーツカーとしての大切な何かがある

911カレラTでワインディングに繰り出し、思わず「軽ッ!」と口走った。だがその軽さは、実際の車両重量から来ているものではないと思う。ご存じの通りこの911の素性は358psのベーシックカレラをベースに遮音材や内装を簡略化した軽量化にある。ただしその削減重量は8速PDK車に対してたったの35kgでしかなく、もはやそれはMTとPDKの重量差+α程度のものでしかない。

山田弘樹/カレラT推します。7速MTでその性能を存分にしゃぶり尽くしたい!

だとすれば一体何が、このカレラTに軽さを与えているのか? ひとつは、電動パワステの操舵感だ。比較試乗したカレラ4GTSと比べると、このシンプルなRWD911のステアフィールは肩透かしを食らうほど軽い。
だがしかし、それがきっちりとタイヤが路面を捉える感触を、手の平に伝えてくるのだからたまらない。またその足下にはPASMが装備されており、前輪20/後輪21インチにもなるスポーツタイヤの反発を抑え込みながら、そのグリップを引き出している。

カレラTに採用されるスポーツエキゾーストシステムのテールパイプは、ハイグロスブラックで塗装され一段とダイナミックな印象に。リアシートと遮音材の削減に加え、軽量ガラスや軽量バッテリーを採用したことで、さらなる軽量化を実現。

さらに試乗車は、ダメ押しのオプションとしてリアアクスルステアリングを装備していた。これがタイトコーナーはもちろん駐車場の取り回し段階から逆位相で小回りを利かせ、高速コーナーでは同位相となって走りを安定させる。
もはやそこには911がリアヘビーのやっかいなスポーツカーだという面影すらない。感服するのは徹底的に電子制御化された末の走りにまったく違和感がなく、911のポテンシャルを自然に味わえること。走っていて、その走りは笑みがこぼれるほど楽しいのだ。
唯一惜しいのは、3速ギアがややロングレシオなこと。この3Lユニットはツインターボにして高回転で一段と突き抜けるキャラクターを持っているのに、それが冗長な3速の加速でスポイルされてしまうのが実に惜しい。

そういう意味では8速PDKの方がこのエンジンのポテンシャルをストレスなく引き出せるだろう。しかし385ps/450Nmとはいえシリーズでは一番低いパワー&トルクを、前述した電子制御の庇護のもと、鍛え抜かれた992ボディと共に絞り出す走りに対しては、MTのひと手間だったりリズムが合っている。これ以上操作に混乱したくないから、MTを8速にしろとは言わない。エミッションの問題はあるかもしれないが、このギア比だけ見直してくれたら最高である。確かにカブリオレという選択も911カレラを粋に楽しむひとつの手段だが、生真面目な筆者は7速MTでその性能を存分にしゃぶり尽くすという選択を推したい。このカレラTという911は、素朴な中にも宿るスポーツカーとしての大切な何かがあり、私が所有する1995年式の空冷カレラと、どことなく似ている。

リポート=石井昌道/山田弘樹 フォト=柏田芳敬 ルボラン2023年12月号より転載

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