ロングドライブで「マクラーレンGT」の快適性とスポーツ性能を堪能
穏やかな英虞湾の眺望が望めるアマネム伊勢志摩の一角に設けられた駐車エリアに色とりどりの十数台のマクラーレンが並んでいた。それらのハンドルを握るのは欧米からやって来たマクラーレンのオーナーたちだ。
例年より早い桜の開花が全国で告げられる3月下旬、日本への来訪を楽しみにしていたゲストたちは、京都~伊勢志摩~箱根~東京を巡る約一週間の「マクラーレンJAPANラリー」 を楽しんだのであった。
これはマクラーレンが世界中で様々な体験のできる機会を提供している。「マクラーレン・エクスペリエンス」のコンセプトに基づき、カリフォルニアを拠点とするマクラーレンのリテーラー(ディーラー)が開催したプログラムであった。
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「マクラーレン・エクスペリエンス」では、マクラーレンオーナーでなければ得られない特別な体験を提案している。日本で開催されている「トラック・デー」もその一つで、各国で行われているようだ。
本国サイトによるとマクラーレン・エクスペリエンスには2つのテーマがあり、「ピュア・マクラーレン」はその名の通り、マクラーレンの性能を味わうことや、ドライビングスキルの向上、さらには欧州で今年からスタートしたアルトゥーラGT4を使った新たなワンメイクレースに出場するためのドライビング指導などのサポートを行うとある。
もう一つがマクラーレンを所有することで拡がる「ライフスタイル」の体験だ。今回のように海外で様々なカルチャーを体験しながらのドライビングエクスペリエンスもそれにあたる。マクラーレンというスーパースポーツモデルを所有することは単なる所有にあらず。非日常的な場所や魅力的な人々と出会う機会の提供、一生の思い出に残る体験などをVIPのホスピタリティの下で体験できるお金では買えない価値も得られるということなのだろう。
今回、なかにはプライベートジェットでやって来たという話もあるほどの欧米のゲストがマクラーレンで各地を巡り、京都、伊勢志摩、東京の宿泊はすべて「アマン」というから、それだけでもゴージャスな旅であると想像できる。各地で食文化に触れ、歴史を尋ね、“桜のシーズン真っ最中”の日本の道を走る数日を楽しまれていたのは言うまでも無い。
マクラーレン「JAPANラリー」を主催した「マクラーレン・ビバリーヒルズ」は世界で最もマクラーレンを販売するリテーラーだそうだ。カリフォルニアを中心に多くの顧客を持つこちらは、これまでも国内でトラックデーやラグジュアリードライブなどを企画しているという。海外イベントは新型コロナウイルスによりなかなか実現できなかったが、今回、一年越しで実現したのだった。「若い人はサーキットイベントを好むアグレッシブな方たちも多いけれど、今回のようなカルチャーエクスペリエンスをふだんとは異なる場所でマクラーレンと共に楽しみたいという方も多い」とマクラーレン・ビバリーヒルズのパリス氏は言う。ちなみにユタでドライビングエクスペリエンスを開催した際は、結果的に女性ドライバーだけだったそうで、パリス氏も驚いたそうだ。「USでは沢山の女性オーナーがいます。ユタではドライビングアドベンチャーに加え、SPAやショッピングを楽しまれていました」とパリス氏。
せっかくなので「マクラーレン・ラスベガス」のカスタマーがどのような点が気に入ってマクラーレンを選んでいるのかを尋ねてみた。「テクノロジーやレースヒストリーに惹かれマクラーレンを選ぶ方が多いですね。スタイルの洗練ぶりもランボルギーニやフェラーリとはまったく異なります。フォルムにもメカニズムにもF1からのテクノロジーが載っていること、またそれらが非常に優れていることをカスタマーは真に理解して購入されているところが、他のモデルを選ぶ場合とは違いますね」とパリス氏。
パリス氏のそんなお話に深く頷いていた私は、今回、このツアーの伊勢志摩パートをマクラーレンGTと共に同行させていただいた。過去にも何度かマクラーレンGTとロングドライブの経験があるおかげで、私にとってはマクラーレンGTで走る新しい道”との出会い=ドライブが楽しみでならない、“マクラーレン・エクスペリエンス”となった。
マクラーレンは身に纏うもの、備わるものの「すべてに理由がある」という開発思想のもとスピードを追い求め続けているが、マクラーレンGTに至ってはヨーロッパ大陸も横断可能なグランドツアラー=“GT”として実用性や快適さも併せ持つ、ファミリーの中では最も万能なモデルという位置づけとなる。とは言えサーキット指向のパフォーマンスも与えられている。”快適“だとか”実用的“などと表現をするは「このイチゴショートケーキは何個食べても太りません」のような抵抗こそ抱くものの、普段は多くは語らぬラゲッジスペースだってフロントに150L、さらにエンジンをより低く搭載することでリアにも420Lの収納スペースを生み出し、ゴルフバックやスキー板も搭載可能としている。そして、そんなリヤはテールゲートをガラス張りとすることで後方視界もより広く保たれているのだ。
極力無駄の省かれたシートは少々調整スイッチの配置に難はあるものの、電動でシートヒーターも搭載され、シートポジションはメモリ機能を使えばなんてことはない。GTのシートは専用開発されており、ロングドライブでも快適さを保つよう人間工学に基づきパッドも調整されている。私は過去にも何度となく長距離ドライブをしたことがあるが、路面や挙動を感じられるスポーツシートながら、身体への負担をネガティブに感じたことは一度もない。おまけにインテリアデザインは装飾的な要素は省かれているものの、二人分の空間を包み込むように且つマクラーレンのマークを想起させるパターンを取り入れ、レザーやメタルで上質に仕上げられている。選ぶレザーの質感や色によってエレガントな雰囲気に仕立てることも可能だ。またステアリングのレザーの握りも良いが、滑らかに仕上げられた金属のスポーク部分を親指の腹で撫でてみて欲しい。クセになるほど気持ちいいのだ。
伊勢志摩というと海のイメージが強かったのだが、今回は山間部のワインディングをたっぷりと走るルートだった。マクラーレンの独特かつ驚くほど前方の視界の良いコクピットでポジションを合せると、自分がこのマシンの中心に在り、司令塔となる感覚が一層強まる。コクピットの後方に搭載されるエンジンは4LV8ツインターボ。最大出力と最大トルクは620PS/630Nmでこれに7速DCTを組み合わせている。
私が何よりも好感を抱くのは、このエンジンが0→100km/h は3.2 秒で到達する加速性能を持つ一方で、低速域、低回転域での扱いやすい点だ。アクセルペダルの微妙な操作に対して実にリニアなレスポンスが得られるおかげで、街中のストップ&ゴーもスローペースの走行も、そして郊外のワインディングの再加速も滑らかに、確実で十分なトルクが得られるのだ。もちろんドライバーが強く速い加速を望めば野太いエキゾースト音と共に意のままに叶えてくれるのは言うまでもない。
“新しい道”との出会いにワクワクするのは、マクラーレンGTが、いや乗員がいかにも路面を「ビターっ」と張り付くような感覚と共にコーナリングを味わえるからに他ならない。快適な乗り心地を保ちながらコーナリング性能にも優れる点は、油圧式のダンパーを組み合わせたプロアクティブ・ダンピング・コントロールの効果が大きいようだ。状況に応じ最適な制御を行うソフトウエアとセンサーを組み合わせ、センサーが常に路面を読み、次に起こりそうなことをわずか2秒で予測し対応することでボディは、フラットな姿勢を保つ。ボディの動きは快適さを優先しながら、接地荷重とタイヤと路面の接地面はグリップレベルが向上するように制御をしてくれるおかげで、コーナリング中のアンジュレーションや荒れた路面もキレイにいなしてくれる。装着タイヤは”MC”マーク入り(専用開発)のピレリP ZEROで、フロントが225/35 ZR20、リヤは295/30ZR21を履く紛れもないスポーツカーだが、ステアリングの操舵フィールは女性でも快適に操作できる。
その上でハンドリングやエンジン制御はドライブモード「ノーマル」「スポーツ」「トラック(サーキット向け)」をそれぞれ好みの設定にすることでキャラクターは一変する。今回はどちらも「ノーマル」でほとんどの行程を走ったが、十分にエモーショナルなドライビングが楽しめた。
マクラーレンGTはGTカーであってもサーキット指向の性能を持つ。そこでコンマ数秒のタイムを縮める走りも可能だ。でも万人にとって何よりも魅力的なのはドライバーの感覚に実に寄り添う快適さとレスポンスが常にハイレベルで保たれ、得られること。極上のドライビングを味わいながらドライブを楽しめるスーパーカーはやはり特別な存在。とはいえマクラーレンGTは多くのドライバーにとって、その距離感はちょっぴり身近なものになる。
ところでパリス氏に今回のツアーの感想をうかがってみた。「ビジュアル面で言えばパシフィックノースウエスト、オレゴンなどと多く場所はアメリカにも似ている。でもカルチャーや建築、ヒストリーは全然違う。アメリカの歴史は若いからね」。
日本人であってもまだまだ未開拓の土地や文化、そして道は沢山あるだろう。マクラーレンを所有することで拡がる世界や非日常体験はもちろん、日常使いも可能と言いたいマクラーレンGTは、日々のカーライフにさえ豊かさをもたらしてくれることは間違いない。
【Specification】マクラーレンGT
■全長×全幅×全高=4685×1925×1215mm
■ホイールベース=2675mm
■車両重量=1466kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC+ターボ/3994cc
■最高出力=620ps(456kW)/7500rpm
■最大トルク=630Nm(64.2kg-m)/5500-6500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/35R20:295/30R21
■車両本体価格(税込)=26,950,000円