30年以上を経て、漸くの1/24キット化
(前編より続く)
まさに記録より記憶に残る「狂気の怪物」デルタS4、1/24としては少量生産で高価なレジンキットはあったものの、プラモデルとしては初の製品化となった。この年代のラリーカー、ツーリングカーと言えばお馴染みのBEEMAXによるキット化である。
同社の1/24としては初のフルディテールキットで、前後のカウルはチルト、脱着が可能。室内はもちろん、複雑な形状の鋼管フレームや、ミッドに搭載されたアバルト製直4ユニット、巨大なインタークーラーとそれらを繋ぐ配管類もリアルに再現される。箱を開けるとびっしり詰まったランナーと細かなパーツに圧倒されるが、ことラリーファンにとっては、30年以上待ち侘びたデルタS4のキットである。神々しさすら感じる。そこにあるだけで喜びであり、BEEMAXに感謝したい。
ひとまずインストに従って、エンジンユニットから制作を始めた。所々でディテールアップの小細工もしながら進める。新しいキットの割には若干のバリやヒケも見られるが、丁寧に処理していけば概ねカッチリと組み上がっていく。一見複雑なフレームや足周りも意外や組みやすく、四輪接地も一発で決まった。何より憧れたデルタS4である、楽しくて仕方がない。
前述の通り、ボディも前後カウル/コクピット部と大きく3ピースに分かれているが、フィッティングに問題はなかった。デカールは特にBEEMAXの美点であり、薄く柔軟性に優れるが破れにくく、発色、隠蔽力、ツヤ等、申し分無い。大判のデカールも、ゆっくり落ち着いて作業すれば、塗装に頼らずとも簡単に特徴的なマルティニカラーが再現できる。
キットと同時発売のディテールアップパーツも痒いところに手の届く内容で、今回の作例でも、全てでは無いが要所要所に使用した。同時購入となると少々値が張るが、こだわる向きにはお勧めしたい。
祝杯と、そこに至るまでに潜む魔の手
さて、完成したデルタS4を手に、1986年当時のラリーシーンに思いを馳せる。より強く、より速く、華やかにスポットライトを浴びるその背中には、暗い影が落ちている。生前トイヴォネンはデルタS4について、「コースに留めておくだけで精一杯。神経がおかしくなりそうだ」と語っていた。
闇に飲み込まれず魔の手から逃げ切れば、そこに祝杯が待っている。生と死が表裏一体だったのかもしれない。危険な香りに人々は熱狂し陶酔したのだろう。その片鱗を感じ取って頂けたなら幸いである。
※BEEMAXからのキット化は2018年、この文章はその当時に書かれたものです(「モデルカーズ」誌280号掲載)。その後このキットはプラッツ/nunuブランドに引き継がれて、バリエーションモデルも発売されています。
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