1月末、ルノーより面白い企画の案内が届いた。
輸入車唯一のフルハイブリッドシステムである『E-TECH』を搭載したルーテシアを用いてロングランを行い、どのメディアが一番の高燃費を叩き出せるかの勝負を行うという。しかも優勝したメディアには、フランス本国のルノー施設取材がプレゼントされるというおまけつき。副賞に目のくらんだ筆者は早速その挑戦に乗ることにした。
目指すは”日本のフランス”、愛媛県松山市にある重要文化財「萬翠荘」
今回の燃費チャレンジの概要はこうだ。
①ハイオク満タンのルーテシアE-TECHハイブリッドを用いて、神奈川県横浜市にあるルノー・ジャポン本社前から、愛媛県松山市の萬翠荘までの約800kmを無給油走行。
②出発日時、走行ルートの設定は自由。
③ただし到着時間は萬翠荘の開館時間である、火曜日から日曜日のそれぞれ9:00~18:00の間とする。
④伴走車(サポートカー)は1台まで使用可。
⑤ゴール時点でメーターに表示されている平均燃費の値が一番良いチームの勝利。
⑥燃費の値が複数チームで同じ場合は、所要時間の短いチームを勝利とする。
要するに横浜から松山までの800kmをルーテシアで走って、誰が一番燃費良く走れるかを競うのである。燃費の算出方法にはメーターの燃費表示を使用する。ちなみにルーテシアのメーターの燃費表示は日本でよく使われる「ガソリン1Lあたりの走行距離」ではなく「100kmあたりのガソリン消費量」の値が表示されているので気を付けたい。
これは欧州では一般的な表記で具体的には「4.0L/100km」「5.2L/100km」といった具合だ。日本的な表記に書き直すと前者は25km/L、後者は約19.2km/Lということになる。ちょっと感覚が異なるが数字が小さくなればなるほど燃費が良いということだ。
Googleマップでルートを検索してみたところ、道中のほとんどは高速道路となりそうだった。一般的に時速60~70km/hくらいの一定速で走るのがクルマにとって最も燃費の良い走行と言われているので、なるべく道の空いている夜のうちに走り切ってしまうのがベストと判断。スタート時間は自由であるが、ゴールに辿り着かなければならない時間に指定があるため、逆算して23時をスタートと定めた。
いざ800km先のゴールへ!
筆者が本チャレンジを行ったのは3月中旬。幸いにも天気は晴れで、風もそこまで強くはなさそうである。22時半を過ぎて日中ほど活気がなくなった横浜駅を後にしてルノー・ジャポン本社へと向かう。こんな時間に行って平気なものかと最初は思ったが、ちゃんとスタッフさんがルーテシアと共に待ち構えていた。改めてルール説明をしてもらい、燃費計の値がリセットされていることを確認したらいざスタート。約800kmの長い旅路の始まりである。
ここでサクッとE-TECHハイブリッドをおさらいしておこう。エンジンには1.6Lの直4自然吸気エンジンを搭載し、そこにメインとサブ、2つモーターが組み合わされる。ギアボックスにはルノーF1由来の技術とされるドグクラッチが用いられ、他にはないダイレクトな変速と走行フィーリングを実現している。走行状態にもよるが発進から低速走行時は100%モーターによるEV走行、そして速度が上がるにつれエンジンが協調をはじめ、高速走行時には最も効率が良くなるエンジンをメインに走行するといった具合だ。
走行モードもいくつか用意されており、ルーテシアには「My Sense」「Sport」「Eco」の3モードが用意されている。もちろん本チャレンジでは常にEco一択なのでスタート直後に変更。更にシフトにも通常のDレンジと、回生が強めになるBレンジが用意されているが、こちらもアクセルオフでのエネルギーをなるべく回収しておきたいため常にBレンジで走行した。
ルノー・ジャポン本社を出てからはすぐにみなとみらいICから首都高へ、そのまま保土ヶ谷バイパスを経由して東名高速道路へと至る。あとはひたすら70~80km/hで走り続けるだけだ。
E-TECHのクセをつかめ
しばらく運転し続けると、だんだんとE-TECHの”クセ”が見えてくる。今回の速度域では基本的にはモーター走行のようで、メーターには走行用のバッテリー残量表示があるが、大体残量が半分くらいになるとエンジンがかかり、充電を開始。2/3程度まで充電されると、エンジンはストップし、またモーター走行に戻る……(以後繰り返し)。
メーターにはトータルの燃費計の横に、瞬間燃費のインジケーターがあるのだが、モーター走行時は当然0として、エンジンがかかると悪化方向へと転ずる。結局はこの2つの走行時の平均値がトータル燃費の値となりそうだ。
最初のうちは道路の微妙な高低差を読んで、アクセルワークで少しでもエンジンがかかるタイミングをずらして効率を上げられないかと模索していたが、労力の割にあまり効果がなさそうだったので、早々にACCを用いての定速走行に切り替えた。
東名高速到達時点での燃費計の数字は4.2L/100km(23.8km/h)、この時点でWLTCモードの(25.2km/L)に迫る勢いだ。その後も燃費の値はじわじわと上がっていく。普段なら抜かしまくっているトラックや高速バスにバンバン抜かれながらも、横浜を出てから2時間ほど(午前1時)で新東名に到達、ここで燃費の値はなんと3.7L/100km(27.0km/L)をマーク。既にWLTCモードの値を超えたが、またまだ伸びそうな勢いで引き続き定速走行を続けていく。
午前3時半くらいになったところでようやく伊勢湾岸道に入り、名古屋港のあたりを通過していく。燃費の値もどんどん伸び3.1L/100km(32.3km/h)の表示に。夢のリッター35kmが見えてきたところだが、ここではじめてトラブル発生。なんとこの先の新名神で工事渋滞との情報が看板に表示されているではないか。渋滞自体は5km程度で通過に35分と出ている。普段ならこのまま進んでしまうだろうが、今は燃費チャレンジの最中。ちょっとのスピードダウンは命取りだ。こういう時に伴走車がいたら連絡を取りつつ代替ルートを調べられたのだろうが、あいにく今回はソロ参戦。走りながらさんざん悩んだ挙句、少しでも止まらずに走り続けた方が吉と判断。もう少し前から工事渋滞が分かっていたら東名→名神経由も考えられたが、時すでに遅し、新名神を諦め名阪国道経由で先に進むことにした。
突然のルート変更、吉と出るか凶と出るか
国道25号バイパス、通称名阪国道はその名の通り、国道25号線のバイパス路で、三重県の亀山市から奈良県天理市までを結ぶ一般国道である。総延長は73.3kmで名古屋~大阪間を結ぶ最短ルートなのだが、途中大和高原など通過するため高低差は400m近くある箇所も存在する――
新名神の渋滞を避け、名阪国道へと突入した筆者だったが、そこに待ち受けていたのは激しいアップダウンだった。モーターで走行していても上り坂ではどんどんバッテリーを消費し、すぐにエンジンがかかってしまう。
名阪国道突入直前では一瞬3.0L/100km(33.3km/L)が表示されていた燃費計もさすがに悪化に転じ、3.2L/100kmになってしまった。名阪国道も後半は下り坂が多くなり、そこで3.1L/100kmまで戻すことが出来たが、なかなかに痛いロスである。
名阪国道を抜けてついに大阪へ突入。時計は既に6時を回り、だんだんと空が明るくなってきた。ここまでくると燃費計の値も最初の頃のようには動かなくなり、運転に変化が乏しくなってくる。前日にばっちり昼寝をしておいたのでまだ眠気はないが、まだ先には大阪、神戸の都市圏が待ち構える。朝ラッシュの渋滞を考えるとこのまま駆け抜けるのがベターと判断、7時間座りっぱなしの身体に鞭打ち、先へと進んでいく。
……そして7時30分、ようやく明石海峡大橋に到達。ここでやっと本州とおさらばである。燃費計の値は相変わらず3.1L/100km。相変わらずのACC定速走行だが、この辺がこのクルマの限界点なのかもしれない。微妙に設定速度を変えたり、バッテリー残量に余裕のある時はEVモードに入れてみたりなどもしたが、劇的な改善とはならなかった。
8時過ぎには鳴門大橋を通過して四国に上陸。とはいえまだ松山までは200km弱ある。ここまでノンストップで走ってきたが、さすがに疲労が少し顔を覗かせてきたので高松自動車道の「津田の松原SA」で1回目の小休止を挟むことに。
ついにゴールの松山に、そして結果は如何に
とはいえ同燃費の場合は時間が早い方が勝ち、というルールがある以上、長々と休んでいるわけにもいかないので、早々に再び走り始める。高松道~松山道は混雑こそしていないが、意外とアップダウンがある。燃費計の値とにらめっこしながら、ラストスパートとばかりに気合を入れて走る。
そして10時30分過ぎ、松山ICを降りてついに松山市へ。既に本来の到着予定時刻はオーバーしているが萬翠荘までは残り6kmほど、下道ではEVモードを多用しながら燃費の値が悪化しないように祈りつつ、松山市街地を抜けていき……
ついに萬翠荘へとゴール!! 到着したのは11時で、タイムはちょうど12時間。途中休憩が5分ほどだったので、ほぼ半日ぶっ通しで走り続けたことになる。我ながら狂気の沙汰である。
そして注目の燃費は……3.1L/100km!! 結局、名阪国道の最後の下りを降りきった後から、燃費計の値は動かず、32.3km/Lが今回の記録となった。
唯一の心残りをあげるとすれば、やはりあのまま新名神を進んでいたらどうなっていたのだろうということ。アップダウンはあちらの方が少ないのでもう少し燃費が伸びていた可能性は捨てきれない……と、たらればの話をしてもしょうがない、個人的にはベストを尽くした、そう思っている。
それにしても実際にルーテシアでここまでの値が出るのには正直驚いた。序盤でアクセルワークを駆使してもACCとそこまで燃費が変わらないと書いたが、これも言い換えれば個人の技術によらず、誰が運転してもこの値を出せるということになる。
後は座して結果を待つのみ、ちなみに結果発表は4月中旬に行なわれるようだ。フランス、行けるかなぁ。
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