【Tipo】もったいない? でもカッコいいだろ!? ヒストリック・レーサーで疾走る愉しみ。1961年式アルファ ロメオ・ジュリエッタ・スプリント

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ヒストリックカーの楽しみ方の一つとして、憧れたクルマを自分好みのレースカーに仕上げ、サーキットを疾走ることを目標とする人も多い。例えそれが、もったいない! と思われるクルマでもだ。

ドリフトだって自由自在、憧れのクルマで走る快感!

ヒストリック・アルファといえばボクにとっては「ジュリア」が何より憧れの存在で、正直ジュリエッタと言われてもピンと来るのはせいぜい”SZ”や”スパイダー”と言った役付き有名モデルが関の山だった。

ミラノの紋章を戴いた盾型のグリルこそ威厳があるけれど、1900シリーズの流れをくむフランコ・スカリオーネのデザインはいささか古くさいし、やっぱりジウジアーロはクルマの、いやアルファ・ロメオのデザインを一気にモダン化した天才だよなぁ! と、若い頃は思っていた。いや、当時はこんな風に分析できなかったけれど。

そしてそんな青二才の自分に、ジュリエッタのすごさを教えてくれたのが、何を隠そう今回このジュリエッタ・スプリント・レーサーを作ったスクーデリア・オールド・タイマーの手塚雅一さんだった。当時ボクは自分が持っていたGT1300Jr.を速くすることに夢中で、新進気鋭のヒストリックカーチューナーだったオールドタイマーにことあるごとに出入りして、色々なことを教わった。なんせ1997年当時で、ジュリアに車高調サスを組み込んでしまうショップなんて、こことガレージGOTOくらいなものだったのだ。

そんな手塚さんがジュリエッタ・スプリントのサスペンションを見ながら話してくれたことは、今でも覚えている。その足周りはジュリアと違って、要所要所にピロボールが使われていること。そこにいちいちグリスをさす必要があって、手が掛かるけれど性能が高いこと。この時代から量産車にダブルウイッシュボーンを採用し、フロントスプリングは路面からの入力を受け止めるべくロワアームのハブ側付け根から対角線上に配置されていること。ダンパーもその同軸上にあり、スプリングの伸縮軌跡をジャマしないこと。

このほかにもアルファ75まで続くツインカムなど、とにかく1960年代においてはまんまレーシングテクノロジーと呼べる内容がジュリエッタにはふんだんに盛り込まれていて、量産車としては考えられないくらいお金が掛かった造りをしていた。そこには戦前、アルファがまだ超高級車メーカーだった頃の香りが残っていた。だからジュリアなどはむしろその反省から、大幅にコストダウンを強いたクルマだったのだ。

もったいない? でもカッコいいだろ!?

そんなジュリエッタ・スプリントを、惜しげもなくレーサーにしてしまうのだからオールドタイマーにはいつもながら呆れる。そしてこれを問い質しても、決まって言うのは「だってやっぱり、レーシングが一番カッコいいだろ!?」なのだ。ジュリエッタなんてこのご時世、投機対象でもあるだろうに。

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一番の目玉は、オールドタイマーが手塩にかけたフルチューンエンジンだ。これはオリジナルの1.6Lではなく、2000GTV用の2Lユニットがベースとなっている。

ビッグバルブ用ポートチューンを施したヘッドには高角度カム(暫定仕様)が組み込まれ、腰下にはOS技研製のハイコンプピストン、純正流用の偏芯コンロッド、ダイナミックバランスを取ったクランク。更には点火タイミングをチェーンではなく、ギアトレーンで取って、そこに正確性を与えている。

そしてもうひとつ。今この2Lエンジンでオールドタイマーは、一つの実験を試みている。それは点火プラグ位置の最適化。GTAやGTAmのようなツインプラグでも狭角ヘッドでもない通常の80度ヘッドで、半円球の燃焼室とおにぎり型ピストンが作り出す圧縮混合気を、デトネーションを起こさず燃やす工夫を重ねているのだという。

実際これ以外は内外装のストリップダウンを行っただけ。足周りなどはダウンサスにコニのクラシックダンパー。タイヤはダンロップ・CR65と、詳しいレギュレーションはわからないが、そのまま「サイドウェイ・トロフィー」に出て走れてしまいそうな、とても素朴な仕様となっていた。というよりとにかく広角ヘッドで最大の問題となる、点火系チューニングをテストしたくて、他に手を付けている時間がなかったというのが本音なのだろう。

だがそれが、かえってジュリエッタ・スプリントらしいクラシカルな味わいを引き立てていた。ソフトな足周りは現代のタイヤに比べ剛性が低いCR65をいきなり潰すようなことはなく、実にゆっくりと荷重を掛けてくれる。だから基本何をやっても滑るのだけれど滑り出しが穏やかで、ブレーキングさえ気をつければ、余裕を持ってこれをコントロールすることができるのだ。そして慣れていくほどに、ジュリエッタとの対話ができるようになる。

エンジンはきっとまだ本調子ではなく、オールドタイマー製ユニットとしては、高回転域で弾ける感じがもの足りなかった。とはいえ2000ccのトルクがあるからサーキット走行に退屈するようなことはまるでなく、むしろ柔軟なアクセル追従性をもってその挙動に対応する手助けとなった。

ウォーム・アンド・ローラー式のステアリングはタッチも曖昧。それに細身のステアリングが拍車を掛ける。しかし全ての動きを予測しながら、低い限界を目一杯使って最大限に速く走ろうとする行為は知的かつ野蛮なパズル遊びのようで「次はどのくらいまで攻められるかな……」なんて考えながら走ると、いつまでも飽きないのであった。

ちなみにそのタイムは1分26秒中盤と、ボヨンボヨンの足周りとしてはなかなかのタイム。そしてφ48DCOEのウェーバーをセッティングし出すとさらにエンジンは高回転でパンチが出るようになり、手塚さんの走りで最終的に2秒縮んだというから、24秒くらいは出せるのかもしれない。ならばここから足周りを固めれば……いやいや、CR65の剛性レベルを超えても意味はないわけで、ダンパーでロールスピードを早めるくらいがちょうどいいのだろう、22秒くらいは狙えるのだろうか?

いまやクラシックカーは世界的に貴重な……いや、残念ながら完全な投機対象となってしまっている。けれどこうした純粋なレーサーを走らせると、そんなことがまるでウソのように本来のピュアな姿を取り戻すことができる。だからボクは思う。本来の魅力を失ってまで得る価値なんていらない。本当に欲しい人にクラシックカーが手に入る世の中が、もう一度くればいいと。

撮影:内藤敬仁 取材協力:スクーデリア・オールド・タイマー ティーポ348号より転載

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