2代目フィアット500とクラシック・ミニは、共に本誌でこれまで数多くご紹介してきた。カワイイ外観と走りの楽しさで、共に誕生から60年以上を経た今も、多くの人を魅了してやまない。ここでは1967年式フィアット500Fをピックアップし、同車の魅力に迫ろうと思う。
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多くの人に親しまれているのは、可愛い顔だけが理由じゃない
その中からまず、1967年式フィアット500Fに乗り込む。微妙にブルーがかったホワイトが、小動物のようなボディに落ち着きを加えている。インテリアはライトブルーとホワイトの2トーン。イタリアらしいおしゃれなコーディネートだ。500Fなのでインパネは鉄板むき出しで、メーターも丸型ひとつだけだが、質素だとは思わず、むしろ個々のディテールへのこだわりに豊かさを感じる。
運転席に座ったままキャビンの四隅に手が届くと言えば、室内空間は理解できるだろう。なのに後席にも大人が座れる。安全対策が厳しくなかったとはいえ、ジアコーザの生み出したパッケージングに感心する。
エンジンのこもり音を逃がすために用意したと言われるキャンバストップは、この小さな空間に広がりをもたらしてくれるし、それ以前に太陽を愛する国イタリアのベーシックカーであることを教えてもくれる。
キーを捻り、シート間にある細い2本のレバーの右側を引きつつスロットルペダルを軽く煽ると、後方からバタバタッという空冷ツインの活発なサウンドが届いてくる。儀式というほど大仰ではないけれど、この手順を踏んでいくだけで500だよなあという気分にさせてくれる。
【写真14枚】シンプル&スモールを極めた中に研ぎ澄まされた運転の愉しさ、フィアット500の詳細を写真で見る
カー・マガジン編集部にいた時代は、650ccに排気量を拡大していた車両の長期レポート担当者だった。プライベートではシトロエン2CVに乗っていたのに、遅くてしかたがないと思っていた。ところが最近は今回乗ったオリジナルの500ccでもそれほど遅いとは感じなくなった。
自分が歳を取ったのか、低速移動の電気自動車や自動運転車を取材する機会が増えたからか、真相は不明だが、時代がそれほど速さを求めなくなったこともあるだろう。
直立した細いシフトレバーは、ストロークは短くタッチは確実だが、ノンシンクロなので変速時にはクラッチを含めて繊細な操作が不可欠となる。その代わりタイミングが合うと吸い込まれるように次のギアに入る。ヒストリックスポーツカーのような喜びを届けてくれるのだ。
乗り心地は多くの人が想像するほど悪くはない。ボディの剛性感がしっかりしているためもあり、路面の感触は伝えつつショックは絶妙にいなすという、よくできたイタリア車のフィーリングを味わわせてくれる。ここでもまたジアコーザを尊敬したくなる。
ステアリングが軽いのは軽量リアエンジンならでは。しかもホイールベースは1840mmと、最新のクルマの全幅に思えるような数字。おかげで交差点でも痛快。くるっとターンインしたら、スロットルペダルを踏み込めば、後方からバタバタッという活発な排気音を響かせながら加速していく。
シンプル&スモールを極めたからこそ楽しさが研ぎ澄まされている。スーパースポーツであれば一瞬で終わる10km/h分の加速に、いろんなドラマが詰め込まれている。いまなお500が多くの人に親しまれているのは、可愛い顔だけが理由じゃない。
(後編・ローバー・ミニ・クーパーに続く)
【SPECIFICATION】1967年式フィアット500F
■全長×全幅×全高:2970×1320×1335mm
■ホイールベース:1840mm
■トレッド(F/R):1121/1135mm
■車両重量:520kg
■エンジン:空冷直列2気筒OHV
■総排気量:499.5cc
■最高出力:18PS/4600rpm
■最大トルク:3.1kg-m/2200rpm
■サスペンション(F):ウイッシュボーン (R):スイングアクスル
■ブレーキ(F&R):ドラム
■タイヤ(F&R):125R12
チンク伝説のドM企画!?
小さくて非力なチンクに、巨漢4人がフル乗車して、真夏に長距離ランをすれば面白いじゃん! というドMなアイデアが実現したのは1999年9月号。総体重300kg以上の男4人で、東京―大阪間を完走した。人間さえ耐えられれば、チンクは実用に使えるし、丈夫なクルマであることを証明した。
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