もはやハイドロプニューマティック・サスペンションの時代ではないことが前提である今、シトロエンがその旗艦モデルを一体、どう造り込んできたか? 過去のレガシーから期待されるものと、未来に指し示すべきものの狭間において、唯一無二のデザインと乗り心地という力業を実現した一台、それがC5 Xといえる。
これまでの伝統を丹念に踏襲したがゆえの斬新さ
少し前に現れた新しいクラウンに似ているという声もあるが、C5 Xのコンセプトたる「C-エクスペリエンス」は6年前、2016年のパリ・サロンで発表された。対してクラウンがSUV化されるという報は2020年、つまり一昨年の秋頃に始まった。Dセグ相当のサルーンをクロスオーバー化するアイディアの、独自性を問うことはあえてしないが、むしろ両者は似ても似つかない。フラッグシップとして従来の積み上げの連続性の上にあるか、危機感から既得の概念に背を向けたかで、相容れない異質なものだ。確実にいえるのは新しいシエンタのデザインといい、トヨタのベンチマーク対象の欧州車がフランスやイタリアになりつつある傾向だ。
最初から話が逸れたが、C5 Xをひと言で表すなら「志操堅固」だ。フラッグシップモデルは、退屈な高級さの度合いや変化のための変化を競うでなく、独自独特の造り込みで醸し出される世界観のソリッドさに拠るものであることを、C5 Xは明示している。
【写真22枚】帰ってきたシトロエンのフラッグシップ、C5 Xの詳細を写真で見る
厚みのあるボンネットと端正なフロントマスクはスポーティサルーンそのもので、流行りのSUVクーペよろしくリアウインドーの角度は寝かされている。が、シューティングブレークめいて地を這う姿勢ではなく、大径タイヤにリフトされた地上高クリアランスが際立つ。他の何にも似ていないからこそ、これがC5 Xであると認識せざるを得なくなる。でも数寄者視線でよくよく眺めれば、ロングノーズでキャビン・バックワード気味のシルエットはオリジナルDSからCX、XMやC6に共通するシトロエンのフラッグシップ伝統のカタチでもある。
外観だけではない。車内で乗員を迎えるのは、クッション厚15mmものアドバンストコンフォートシートだ。柔らかく身体を浮かせるようなサポート感と、水平基調のダッシュボード周りから広々と開けた視界は、シトロエン以外の何物でもない。欧州言語でよく、居心地のよさゆえ辞し難くなる場所を「カリプソの洞窟」というが、C5 Xの車内空間はまさしくそれで、はなから脱出不可能……という世界観なのだ。
今回試乗したのはガソリン仕様で、お馴染み1.6Lターボのピュアテック180ps仕様で、トルクは230Nm。走り出すと動的質感にもひとクセ、ひと工夫ある。静止状態からアクセルを踏むと、踏みしろ初期が敏感なのもあるが、急加速でなくてもリアサスが軽く沈み込んでから加速態勢に入る。まるで最初から液体で浮かんでいたかのように。測ったわけではないが、通常のサスなら1Gで車体を懸架するところを限りなく0.99999999……Gで支え、加速度がついて1G+αではじめて足まわりが踏ん張る、そんな感覚だ。無論、往年のハイドロ足めいたストローク量ではないが、速度が増すほど直進安定性まで含め冴えわたるハンドリングのトレース性、手元に伝わるインフォメーションの解像度高さは、ミステリアスでさえある。
ガソリン仕様のダンパーはPHC(プログレッシブ・ハイドロ―リック・クッション)、いわゆるダンパー・イン・ダンパーだが、ドライブモード切替に連動して減衰力が可変するタイプではない。それでも1.5トン少々の軽さゆえ、角のない乗り心地は、高速道路のような平滑な道は無論、中速コーナーの続く郊外路に焦点が合っている。しかもルーフとリアデッキのダブルウイングも空力的に効くのか、ほぼ風切り音すらない静粛性も相まって、C5 Xはそれこそ路面を滑っていくかのように走る。シトロエンにしか生み出せない何かを雄弁に語るからこそ、C5 Xは旗艦モデルとして確たる輪郭と格を備えているのだ。
【Specification】シトロエンC5Xシャイン・パック
■全長×全幅×全高=4805×1865×1490mm
■ホイールベース=2785mm
■車両重量=1520kg
■エンジン種類=直4DOHC16V+ターボ
■排気量=1598cc
■最高出力=180ps(133kW)/5500rpm
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/1650rpm
■燃料タンク容量=52L(プレミアム)
■トランスミッション=8速MT
■サスペンション(F:R)=ストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F&R)=205/55R19
■車両本体価格(税込)=5,300,000円
問い合わせ先=ステランティスジャパン ☎0120-840-240
この記事を書いた人
1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。
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