バスに乗る旅と言えばどのような旅を思い浮かべるでしょうか。
はとバスの旅のような、例えばこれからの季節ならサクランボ狩りなどの果物狩りを楽しんだり、観光地を巡ったりするバスツアーをまず思い浮かべる方が多いと思います。余談ですが私は、果物狩り全般、いわゆる“狩りもの”の旅が好きです。この場合、バスはあくまでも旅の手段です。
【画僧92枚】バス好きでなくとも楽しめるバスツアーのフォトギャラリーはコチラ
一方、バスそのものが目的であるツアーもあります。それには、バス好きの個人が好きなバスを事業者から借りて貸し切りツアーを主催するバスファンによるバスファンのためのツアーとバス会社が主催するオフィシャルなツアーの2種類があります。
従前は個人貸し切りツアーもバス会社のそれもさほど違いはありませんでしたが、2022年前半のバス会社主催の方に参加してみてちょっとした変化を感じました。
これならもしかしたらバスファンではない人が参加しても楽しめるのでは? と思ったのでシリーズで紹介しようと思います。
「ただバスに乗るだけならバスファン個人貸し切りツアーに勝るものはないので、事業者が主催するアドバンテージを活かした『ならでは』な企画で差別化したい」
とは、ツアーの仕掛け人である京阪京都交通運輸部運輸課の西村さんの弁です。
2022年前半に行われたツアーにはこれまでにない特長が2つありました。それは次の二点です。
① 添乗しているその道の研究者や専門家から、路線や沿線の歴史を時代背景と共に学ぶ
② 他のバス会社とのコラボで二社のバスに乗る
どんなツアーだったのでしょうか。私が参加したツアーを5回に分けて紹介してみようと思います。今年後半の楽しみの参考になれば幸いです。
第1回は、1月29日に行われた“京阪京都交通バスファン感謝ツアー~<路線探訪>園篠線を巡る旅~神姫グリーンバス×京阪京都交通”です。
園篠線歴史探訪
車内で配布された数多の資料の中から抜き出したこの沿線の歴史を簡単に紹介いたします。
園篠線(えんじょうせん)とは、かつて西日本JRバスが運行していた京都府南丹市園部町と兵庫県丹波篠山市を結ぶ路線の名称でした。
この越境路線(県をまたぐ路線)の歴史は、福住村に本社を置く園篠自動車株式会社が園部駅~福住(現・兵庫県丹波篠山市福住)間のバス路線を開業した大正12年(1823年)12月に始まります。その後、省営自動車(後の国鉄バス)が昭和9年(1934年)3月28日に篠山(現在の篠山口駅)~原山口(兵庫県丹波篠山市西野々)間を、7月に原山口~園部間を開業し、園部から篠山まで全通しました。
その後、過疎化のため徐々に廃線が進み平成14年(2002年)9月30日に西日本JRバスの路線としては姿を消しました。
しかし、兵庫県から京都府への一定の通学需要があったため、神姫バス(後に神姫グリーンバスに移管)と京都交通(現・京阪京都交通)が路線を引き継ぎ今に至ります。
バスには、立命館大学衣笠総合研究機構アート・リサーチセンター客員協力研究員公共交通アドバイザー 博士(文学)の井上学氏が同乗。京阪京都交通の西村さんから聞くマニアックな話に加えて、沿線の歴史や地域事情を研究者から聞けるという、学びの要素が大幅に増えたのが新しい点であり、単なるバスファンツアーではないプラスアルファがあるツアーとして紹介したくなった理由でもあります。
鉄道遺構や園篠線起点の碑を訪れる
ツアーは、JR亀岡駅北口→丹波篠山市内→JR園部駅西口のルートを、国鉄福住駅跡地、園篠線発祥の地を訪ねながらできるだけバス路線に沿って進みました。
途中二つの史跡を訪れました。
まず福住。園篠線の中間地点であり、現在の両バス路線の接続地点でもあります。
福住からは福知山線の篠山口を結ぶ国鉄篠山線もありましたが1972年3月に廃線になっており、かつてここに駅があったことを示す駅跡の碑が立っています。
ここで、現在の実際の路線バスで旅するが如く京阪京都交通バスから神姫グリーンバスに乗り換えました。
二つ目は本篠山バス停(兵庫県丹波篠山市小川町)付近の河原町通り入り口に立つ園篠線発祥の地の碑です。今回は碑の見学と歴史解説を聞くだけでしたが、この先にある河原町妻入り商家群は「国重要伝統的建造物群保存地区」にも指定されている街並みなので、別の機会にゆっくり訪れようと思います。
フォトランとグッズ販売
福住では京阪京都交通と神姫グリーンバスの廃品とグッズ販売があり、ツアーの終点である篠山城付近でのフォトラン、市野々バス停(兵庫県丹波篠山市市野々・[15]/[16]系統立金線の終点一つ手前)での撮影会が行われたのでたっぷり楽しめました。
特に、初めてだという神姫グリーンバスの廃品販売がトピックです。初めてのためか珍しいグッズがかなり素朴な価格で並んでいたので、好きな人にはとてもいいチャンスでした。
フォトランでバスが周回した篠山城跡北を東西に延びる二階町通りもいい雰囲気でした。
充実の資料とおみやげ
車内で配られた資料は路線(沿線)の歴史解説冊子、往時の路線図、時刻表、バスの写真などとても充実しており、それだけでもなかなかの値打ちものでした。特に歴史解説には沿線の歴史とバス事業者や営業所の歴史が詳しく記載されているので、バスファンに嬉しい資料となっていましたが、そうでない歴史好きの人にもたくさん発見がある資料になっていました。また、運転士個人撮影の写真ポストカードがおみやげとして添えられていました。そんな心遣いもすてきです。
ツアーに使用されたのはこの車両
京阪京都交通の三菱ふそうエアロスター(KC-MP7171M・1998年式)前後扉車は京阪バスからの移籍車で、かつては比叡山への路線を中心に活躍していた車両。「Bタイプ」と呼ばれるすべて二人がけの着席重視の座席配置の車両。いわゆる「ワンロマ(ワンマン・ロマンス)」タイプの車両です。現在は臨時輸送や乗務員教習車として活躍中。回送幕は京都サンガF.C.のJ1昇格を祝う特別デザイン幕でした。
神姫グリーンバスの日産ディーゼル(KL-UA452KAN改・2004年式)は姫路市企業局交通事業部(姫路市営バス)が事業を神姫バスに移管した際に移籍した車両。日産ディーゼルのシャシーに西日本車体工業ボディを架装した車両です。日産ディーゼル(現・UDトラックス)は大型バス製造から撤退していますし、西日本車体工業もその際に廃業してしまったのでどちらも新車ではもう見られません。私が大好きな松下奈緒のCMでおなじみの「JAバンクちょきんぎょ」ラッピングが施されています。出口表示横には篠山営業所所属を示す“篠”表記があります。
せっかくやからバスで京都駅まで
「どんな理由でもかまわないので月一度はバスに乗ってください。それが事業者を助けることになりますし、路線の維持にも繋がります」
との西村さんの言葉を聞いていることもあるし、バスツアーの帰りだったので、解散場所のJR園部駅北口からJR京都駅までバスに乗ってみました。直行バスはないためJR亀岡駅で乗り換えになるのですが。京阪京都交通、南丹市営バス、ぐるりんバス、南丹市デマンドタクシーの標柱が並ぶバス停は珍しくもあり、バス事業の現状を表していてややさびしい気持ちになります。なぜならだいたいこのような流れでバス路線がなくなっていくから。
バス会社の路線→変わっていないように見えるけど実は路線維持のための補助金を受給している→市営バス化→コミュニティバス化→デマンドバス化→デマンドタクシー化という流れ。その流れが一つのバス停で見えるのはJR園部駅西口バス停が初めてです。
さて、気を取り直してこのようなルートで帰りました。所要時間と運賃を参考までに紹介しておきます。
[40]JR亀岡駅南口ゆき(16:49発17:59着・所要70分・1,200円※)
[2](七条通)京都駅ゆき(18:36発19:40着・所要64分・640円)
(※[3]亀岡駅南口ゆきに乗れる場合は所要35分・480円)
園部から京都へはJRでも行けますので参考まで。
JR園部駅発JR京都ゆき(16:54発17:38着・所要44分・640円)
どう贔屓目に見てもバスは不利ですが、バスはゆっくり走るので沿線の景色や人の動きもよく見えるため、「お、こんなところにこんなものが!」や「あ、あんなところにおいしそうな食事処が!こんど行ってみよう」という発見も多いです。
速達性では敵いませんが、時間はあるし目的地でも急いでやらなければならないことは特にないという時にでもバスに乗ってみれば新発見があるかもしれません。
ツアーで走行したルートは、紹介した通り路線バスが通っていますので、もしこの記事で興味をおもちになったら、調べるのが若干手間ではありますが、時刻表を見ながら旅してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、帰りに乗った[40]系統のバスは、過去の記事で紹介した狭隘路線を走ります。参考までに紹介しておきます。
【2020秋・バスファン向けツアー】その1京阪京都交通の“幕車”で狭隘路線を走る
https://carsmeet.jp/2021/03/19/188464/
その記事のカバー写真にもなっているバスもドライブインももうありません・・・景色も、車両も、なくなってしまう前に見て乗っておこうと思っています。
今回の気づきまとめ
1.新しいことを知る、学ぶことは楽しい
ともすれば興味ある分野や共感できることにしかアクセスしない昨今は、得る情報が偏っていることは大いに考えられます。これだけ情報があふれる世の中ですが、知っている気になっているけれど実は知らない、偏ったことしか耳に入っていない可能性も高いのではないでしょうか。ネットが自動で選んで「あなたが知りたいのはこんな情報、こんな意見でしょう」と、勧めてくる情報だけに接していることが多いから。
そんなご時世だから、ふと聞こえてくる新しいことは新鮮だし純粋に楽しい。
2.地域の歴史を知った
年を取ると歴史を知ることは楽しいし興味が持てるようになってくるものです。と、言うか、今回気づきました。そんな気づきが得られたのは大きかったと思います。
3.昔は県境越えのバス路線は全国各地に普通にあった
県境をまたぐ、それも人口がそれなりに多い集落や町があり、そこからそれぞれの県や市の中心部に向かうバス路線があり、双方を結ぶ越境バス路線もありました。「バスが繋がらない!」と悲鳴を上げるシーンをバス旅番組で頻繁に目にしますが、あの時代ではそんなことはなく、何不自由なく旅が続けられていたことでしょう。
と、いうような感じで、バスファンツアーらしい、バスそのものやバス業界のマニアックな話も充分楽しみましたが、それ以外の気づきや学びも多いツアーだったと思う次第です。
(取材・写真・文:大田中秀一)
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