すでに日本でも発表されているように、BMWのハイエンドクーペ、8シリーズがフェイスリフト。今回ようやく本国での試乗が実現した。スポーティかつエレガントな内外装の仕立てに大きな変更がないのは、それだけ従来モデルの完成度が高かったということ。新型では装備の充実ぶりと、懐の深さを増した走りに注目したい。
【写真9枚】細かなブラッシュアップでより完成度が増したBMW850iクーペを画像で見る!
見た目の新鮮さは乏しいが円熟味を増した走りは◎!
現行8シリーズ(G15)がデビューしたのは2018年。ポルシェ911やメルセデスAMG GTが実質的な競合だが、ドイツではまずそのスタイルが好評を持って迎えられ、2019年にはドイツのゴールデンステアリング賞で「もっとも美しいクルマ」に選出。ロングノーズ・ショートデッキのFRプロポーションを基本としつつ、ライバルとは一線を画すエレガントなフォルムが高評価に繋がった。
その8シリーズのLCI、いわゆるフェイスリフトは今年初頭に発表されたが、世界的な半導体不足、さらにはウクライナ製となるワイヤーハーネスなどの欠品により生産の立ち上がりが遅れ、今回ようやく試乗する機会を得た。
とはいえ、2022年モデルの内外装は従来モデルからほぼ変わらずで、大きな変更はアイコニック・グローと呼ぶ照明付きキドニーグリルが標準装備となった程度。試乗車はドラヴィットグレーメタリックという淡いグリーン×グレーの落ち着いたボディカラーと、タンレザーのインテリアを組み合わせたM850i xDriveクーペで、いかにもジェントルマンGTに相応しい雰囲気を漂わせる。
とはいえ、パフォーマンスは依然トップクラスで、長いボンネットの下には4.4L V8ツインターボを搭載、最高出力は530ps、最大トルクは750Nmを発生させる。トランスミッションは8速ATで4輪を駆動、0-100km/hは3.7秒、最高速度は250km/hでリミッターが介入する。
やや太めのステアリングに軽く手を添え、まずは操作系を確認する。インフォテインメントシステムは最新のカーブドワイドスクリーンではなくBMW OS8で、ドライバー正面のコクピットディスプレイに加え、センターコンソールにはM8専用だった12.3インチのディスプレイが追加料金なしで装備されるようになったのは嬉しいニュースだ。iDriveダイヤルも継続して採用される。
まずは、ドライブプログラムをコンフォートにして走り始める。空車重量1965kg、全長約4.9m、全幅約1.9mのビッグクーペは、ほんのわずかにスロットルペダルを踏み込んだだけで、低いV8サウンドを響かせながら瞬時に交通の流れをリードする。アウトバーンにおける160km/h程度の高速巡行では、きわめて安定した直進性と4輪操舵による高い路面追従性、そして確かな制動性能によりドライバーは終始ストレスフリー、グランドツアラーの本領を発揮してみせる。
もちろん、南ドイツらしい緩急様々なコーナーが連続するワインディングに入りスポーツモードを選択すると、M850iクーペはさらに路面からの情報が研ぎ澄まされたステアリングにより、スポーツドライビングの醍醐味をも存分に楽しませてくれる。フロントに重量が嵩む4L V8を搭載するためハンドリング特性は弱アンダーステアだが、前述の4WSの助けもあり、その身のこなしは驚くほど軽快でスポーティ、まさにオン・ザ・レール感覚でコーナーの連続を次々と駆け抜けていく。
このニュー8シリーズ、キープコンセプトの内外装からするとLCI、すなわち”インパルス(衝撃)”というほどの内容かどうかは疑問だが、深みを増したパフォーマンス、アップグレードされた標準装備を考えれば納得。長く付き合えそうな一台に仕上がっている。
【Specification】BMW M850i xDriveクーペ
■全長×全幅×全高=4851×1902×1346mm
■ホイールベース=2822mm
■トレッド=前1627mm、後1642mm
■車両重量=1930kg
■エンジン型式/種類=N63B44D/V8DOHC48V+ツインターボ
■総排気量=4395cc
■エンジン最高出力=530ps(390kW)/5500-6000rpm
■エンジン最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-4600rpm
■燃料タンク容量=68L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前ダブルウィッシュボーン/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/35R20、後275/30R20