ついにフィアット初となる電気自動車「500e」が上陸を果たした。2008年に日本でもデビューし、今も売れ続けている500がもつ独自のスタイリングはEVになっても健在だ。価格はPopの450万円~で、カーリースのみでの販売となるという。
見た目がキュートな電動チンクエチェント
本誌の読者さん達に”そもそもチンクエチェントとは……”なんて話をしても先刻御承知だろうから、しない。ただ、上陸したばかりのフィアット500eが、現行チンクエチェントの代替役じゃなく、1957年の誕生からの20年間で400万台近くが送り出された稀代の名車、2代目チンクエチェントまで立ち返ってその世界観を解釈しなおし、これから先の近未来にフィットするよう開発された全く新しいクルマだということは、伝えておくべきだろう。
500eは、何から何まで新しい。プラットフォームもこのために旧FCA時代から開発が進められてきたものだし、それをはじめ全体の96%が新たに設計しなおされている。スタイリングももちろんで、どこから見てもチンクエチェントなのだが、過去の名作をそのままコピーしたところはひとつもなく、新規に”らしさ”を追求したデザイン。こういうことをすると、イタリアは抜群に上手い。
サイズは全長3630mm、全幅1685mm、全高1530mm。現行のエンジン車より全長と全幅が60mm長く、全高が15mm高い計算だ。ホンダeより小さい5ナンバーサイズ。日本の環境でも扱いやすい。
大ヒット作だった2代目は、当時スクーターしか移動の手段がなかったイタリア人の新しい暮らしを考えて作られた、シティカー的な要素が強いクルマだった。この500eも、基本はそういうクルマだと思う。車体を大きくしてバッテリー搭載スペースを稼げば航続距離の面で有利になるのに、あえてそうしないことからも、それが解る。狭いフロアに42kWhのバッテリーを敷きつめ、118ps/220Nmを発揮するフロントのモーターで駆動するレイアウト。航続距離はWLTCモードで335kmと結構がんばってる。EVは乗り方次第なところもあるけれど、一般的な1日ドライブぐらいは立派にこなしてくれることだろう。
走らせてみた感触が、とてもよかった。発進から高速巡航まで、制御が細かく行き届いていて、走らせやすいうえに極めて滑らかで気持ちいいのだ。ノーマルモードではエンジン版の現行チンクエチェントのように加減速も含めてとても自然な感覚で走れるし、レンジモードに切り換えれば、発進から停止までをアクセルペダルだけでまかなえて、より強力な回生を得ることもできる。スポーツモードは持たないけれど、歴代フィアット500の中で最も強力な加速を楽しむこともできる。その爽快さは、アバルト595にはちょっと及ばないけどわりと近いかも、なんて感じた瞬間があったほどだ。
1970年式の2代目を普段のアシにしてる身としては、ステアリングを操作して前輪が反応すると同時に後輪まで反応するような曲がる楽しさこそがチンクエチェントの醍醐味だと感じてるのだが、現行のエンジン版チンクエチェント同様、それはこのEV版チンクエチェントにもしっかり受け継がれてる。しかもコーナリングスピードは歴代ナンバーワンだ。走る楽しさと気持ちよさを、たっぷりと持ち合わせてるのである。
オープントップ版の屋根を開けて春風を浴びながらゆっくり流したときの、街の息吹がすべて耳に入ってくる静寂さも心地好かった。
……この嬉しさは何だろう?
チンクエチェントを駆る歓びは、パワートレーンのいかんを問わない普遍的なものなんだな、と思う。
【Specification】500e Pop
■全長×全幅×全高=3630×1685×1530mm
■ホイールベース=2320mm
■トレッド(F:R)=1470/1460mm
■車両重量=1320kg
■フロントモーター=交流同期電動機
■定格出力=43.0kW
■最高出力=118ps(87kW)/4000rpm
■最大トルク=220Nm/2000rpm
■一充電走行距離(WLTCモード)=335km
■サスペンション(F:R)=マクファーソンストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ドラム
■タイヤサイズ(F&R)=195/55R16
■車両本体価格(税込)=4,500,000円
■問い合わせ先=ステランティスジャパン ☎0120-404-053