フランクフルトモーターショーに現れた「ミッションE」から約5年、ポルシェ初のピュアEVとなる「タイカン」が国内導入をスタート。一方、アウディBEVの日本上陸第一弾の先陣を切ったのは、e-tronスポーツバックだ。ここでは最新EVの2台を乗り比べ、それぞれの個性や魅力を露わにした。
最新EVの足を引っ張る日本の充電インフラ
タイカンが4回でe-tronは5回。この数字が何かというと、筆者が試乗中に行った急速充電の回数だ。まったく同じルートを走ったわけではないし、タイカンについては(日本だと)超高速とされる出力90kWの充電器を併用しているので、数字そのものに大した意味はない。だが、それぞれで数百キロ程度という試乗から得た感触で言わせていただくと、航続距離は両車1充電あたり200km台というのが現実的な線になる。筆者の場合、EVに乗るときに限って「今シーズン1番の寒波」となるだけに、電力消費が大きくなるエアコンは常時フル稼働。また、エコランめいた走らせ方は一切しなかったので、多少気を遣えばどちらも300km以上走ることは難しくないだろう。だが、後述するがロングドライブにも適した両車の走りのキャラクターを思うと、やはりEV特有の“アシの短さ”はなんとも惜しい。
また、改めて実感したのは進化するEVに対して日本の充電インフラがもはや旧態化していること。ポルシェは出力150kWという超高速充電網の独自展開を公表済みだし、大容量バッテリーのリーフe+を擁する日産も90kW充電器を各ディーラーに導入しつつある。だが、メーカーの努力には限度がある。EVを一層本格運用するため、そして2030年代にクルマの脱内燃機関化をスタートさせるというのなら、公共の充電器でも超高速化と設置台数の拡大は急務だろう。日本のCHAdeMO、もはや「茶でも」などと駄洒落を言っている場合ではない。
――と、EVに興味を持つ人には冒頭から冷や水を浴びせるような話で申し訳なかったが、結論から先に言うと今回の2台で明確な×と個人的に思えたのはこの点だけ。そもそも内燃機関のクルマより控えめな航続距離も、筆者のような泥縄式の行動スタイルではなく、「ご利用は計画的に」を実践できる人ならリカバーは可能なはず。なによりも今の時代、高性能かつラグジュアリーなEVで来たるべき未来を“先食い”する行為は、ベテランのクルマ好きにとっても抗しがたい魅力と言えるのだ。
スポーツカーを名乗るに相応しいタイカンの走り
たとえば、EVスポーツカーを標榜するタイカンの走りは、絶対的な速さだけでなく早くも立派なエンタテインメントの域に達している。スポーツカーの定義は人それぞれだが、とりあえず間違いないのは、このクルマが紛れもないポルシェだということだ。
今回試乗したのは、タイカンの中でも最強モデルとなるターボS。総出力は通常時625psで、オーバーブースト時は761ps。最大トルクも実に1050Nmとなれば速いのは当然として、恐るべきなのは高速域における加速の伸びだ。EVに使われる電気モーターは、高回転になるほど効率が落ちるもの。そのため、出だしの強烈な加速感に対して高速域のそれは常識の範囲内というのが相場。
ところがタイカンの場合、アクセルを踏み続ける限り血の気が引くような加速が衰えない。それは、大排気量エンジンの高性能車から音・振動に代表される雑味をすべて取り払い、なおかつ加速自体も2倍増しと表現すればわかりやすいだろうか? その、進行方向に向けて吸い込まれるような加速を一度でも知ってしまうと、隙を見つけてはアクセルを踏み込みたくなるのは本当の話だ。
それを受け止めるシャシーの出来映えも見事なもの。ガッチリした骨格と前後21インチという大径タイヤの組み合わせは、路面からの情報を正確に伝える一方、乗り心地は速域を問わず快適。低速では相応の入力が伝わるが、それを不快に思うことはなく、いったん速度が上がってしまえばホイールベースが長い4ドアに相応しい落ち着いたライド感が満喫できる。また、4輪操舵の強みを活かして見ためによらず小回りが効くことも魅力のひとつ。ステアリングの手応えは低速域こそ若干重め、かつ動きが渋い感触もあったが、大柄なボディサイズさえ厭わなければ贅沢な日常の伴侶としても十分に通用する。高性能であっても気難しい部分が一切ないあたりは、いかにもポルシェらしい。
そして、いざ積極的に走らせる場面になるとサイズ感は実寸よりさらに小さくなる。ステアリングはスッキリと軽い感触に変貌を遂げ、操舵に対する反応もシャープ。コーナーの立ち上がりでアクセルを開ければリアを適度に膨らませつつ……という古典的なスポーツカーらしい動きも実感させてくれる。これは緻密に駆動配分を制御しているタイカンが筆者を“遊ばせてくれた”結果だろうが、純粋な動的資質は間違いなく本格派のスポーツカー水準だ。
ポルシェといえばブレーキ性能の高さにも定評があるが、EVのタイカンでもそれは変わらない。ターボSに装備されるPCCBは2トン超えの車重を意識させない制動力を発揮しつつ、セラミックブレーキにありがちな神経質な点もない。EVらしい回生ブレーキを積極的に行っている印象はなく、むしろアクセルオフ時は滑らかなコースティングの方が印象的だが、それゆえに制動感覚も終始自然な仕上がりだった。