マセラティならではの醸し出される色艶
アストンマーティンというブランドは、英国のマセラティだと個人的には思っている。基本的には育ちがよく大変お行儀もいいのだけれど、ほんのりと色艶をまぶしているように見えて、その色艶がどことなくマセラティに似ていると感じるからだ。実際、アストンの人々はマセラティを意識しているんじゃないかと推測する。
そんなアストンも憧れる(?)マセラティもまた、史上初となるSUVを世に送り出した。レヴァンテは性能ももちろん悪くないけれど、性能よりは“雰囲気押し”のようにも窺える。ボディサイズはDBXとほとんと同じだが、キャビンに充てられたスペースはDBXよりも小さく、ボンネットを長く取ってFRに見えるようなスタイリングをあえて形成している。ラインや面はいずれも柔らかく、DBXやカイエンよりもほのかに女性物のパフュームの香りがしてきそうな雰囲気が漂っている。
DBXとカイエンターボ・クーペと並べるなら、本来ならば両車と同じV8ツインターボを搭載したレヴァンテGTSかトロフェオがふさわしい。そのほうが価格的にも拮抗するが、今回の試乗車はV6ツインターボのレヴァンテSだった。
マセラティのV8は「フェラーリのV8」と言われることがあるけれど、厳密には正しくない。確かに、マラネロにあるフェラーリのエンジン工場でフェラーリのV8と同じラインで生産されているし、ブロックなどの基本アーキテクチュアはフェラーリのF154型と共有している。しかし、ピストンやコンロッドなど一部のパーツはマセラティ専用に新たに開発されたもので、もちろん制御プログラムのソフトウエアもフェラーリとはまったくの別物。「フェラーリのエンジン工場で組み立てられるマセラティのV8」という表現のほうが適切である。
V6ツインターボは同じグループのアルファなども使用するユニットで、4輪駆動システムもまたステルヴィオなどと共有している。なので、パワートレインの動力性能にマセラティ特有の何かを見つけるのは難しいが、エンジン音は紛れもないマセラティのそれである。官能的な旋律で歌い上げる音色はSUVらしからぬとも言えるけれど、マセラティだと思えば納得して意味もなくスロットルペダルを踏み込んで、もっとそのサウンドを聴いていたくなってしまう。
ハンドリングはいわゆる“スポーティ”な味付けになっていて、操舵初期から敏感に応答するヨーゲインが高いセッティングである。重心が高くばね上の重いSUVでこれをやると、リアに応答遅れが生じたりアンダーステアが簡単に露呈する場合が多いのだけれど、レヴァンテにはそれらがまったく感じられない。驚くべきは、DBXやカイエンと異なり、レヴァンテはアクティブスタビライザーもEデフも後輪操舵も装備していないのである。エアサスと機械式LSDとブレーキを使ったトルクベクタリングだけでこの操縦性を実現しているのだ。
クルマという工業製品として各性能をデータと官能評価を元に点数を付けたとすれば、レヴァンテがカイエンやDBXに並ぶのは難しいかもしれない。ハンドリングはカイエンほど正確ではなく微細なコントロールも効かないし、トルクベクタリングの介入はDBXより唐突な時もある。しかし、そういった“雑味”も含め、レヴァンテという銘酒の味としてちゃんと成立させている。エンジン音は唯一無二の響きだし、ステアリングを切る度に胸が高鳴ってくる感触はこのクルマしか味わえない。
よく出来たDBXやカイエンを「つまらない」と思わせてしまうような魔性の魅力を、レヴァンテは持ち合わせている。
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