運転の楽しさと安心感を両立
SUVをスポーツカーのように走らせるのは物理的なハードルが高く、それはアストンマーティンがDBXをプラットフォームから作り上げたことからも分かると書いたが、実はポルシェも同じようなことをやっている。
BMWのX6が“クーペルックのSUV”という新しいマーケットを開拓し、ポルシェもカイエンにクーペを追加することを企てた。それが先代カイエンの開発終盤にさしかかった頃だったという。現代の設計技術を持ってすれば、その段階からクーペを作ることは事実上可能だった。しかし、リアの開口部が広いクーペでもノーマルボディと同じ操縦性を実現するには十分なボディ剛性が確保できず、先代カイエン・クーペの開発は断念。でも現行カイエンの開発では当初からクーペの要件も盛り込んだボディ構造にしたという。出せば売れると分かっていても、自分たちの納得がいかない商品は作らないというポルシェの潔さにはほとほと感服する。
クーペとしての流麗なフォルムを成立させるために、Aピラーはカイエンよりもわざわざ約1度寝かされている。Aピラーの角度が変われば、当然のことながらドアやサイドウインドーはクーペ専用となるが、Aピラーから前のフロントフェンダーやボンネットなどはカイエンと共有している。もちろん、ルーフとBピラーから後ろはすべてクーペ専用の設計である。また、リアに向けてなだらかに下るルーフラインのせいで後席のヘッドクリアランスに影響が出ないよう、後席のヒップポイントを20mm下げることでこれに対処している。カイエン・クーペは格好だけでなく、快適性にも配慮した設計となっているのである。
試乗車はカイエン・クーペのトップレンジである“カイエンターボ・クーペ”で、550ps/770Nmを発生するV8ツインターボを搭載。トランスミッションはPDKではなく、ZF製のトルコン付き8速ATである。オプション満載の個体で、後輪操舵のリアアクスルステアリング、アクティブスタビライザーのPDCC、トルクベクタリングのPTVプラスなどが装着されていた。
久しぶりに試乗したけれど、あらためてやっぱりカイエンは一頭地を抜いた存在だなあと実感した。同時に今回、DBXが仮想敵としていたのはおそらくカイエンだったのだろうと確信した。それは、各種電子デバイスの制御方法が両車ともとてもよく似ているからだ。つまりドライバーにデバイスの介入を意識させない緻密な制御、あるいは過度な介入が必要ない基本設計の優秀さが、両車には見て取れる。
カイエン・クーペはSUVには付き物の重心の高さがまったく気にならないし、減速から始まる旋回の過程で起こるばね下/ばね上のさまざまな動きの繋がりが極めてスムーズだ。妙な動きは皆無だし、タイヤはしっかりと路面を掴んで離さないから、運転の楽しさ向こうに頼もしい安心感が常に感じられるのである。
DBXは、ハンドリングについてはカイエン・クーペに迫るいい線まで到達していると思うけれど、ATの制御とブレーキは若干及ばない。カイエンに限らず、PDKかトルコン付きATかに関係なく、ポルシェの自動変速の制御プログラムはトップレベルにある。例えばスロットルペダルを戻しても、路面や車体の状況に応じてシフトアップしたりダウンしたりステイしたりとその対応がいつも完璧で、自分でパドルを使って操作するよりよっぽど最適なギアを選んでくれるのだ。ブレーキはいまさら言うに及ばずで、制動力の出し方や微妙なコントロール性の高さなど、絶対的信頼が置ける。SUVでもブレーキは宇宙一である。
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