エンジンには初の気筒休止システムを搭載
ショートストロークの6速MTを1速に入れてクラッチを繋いで走り出すと、排気量の余裕でエンジンは低中速域でもトルクがあり、先代よりも格段に走らせやすいことに気付く。音も静かで、本体よりむしろ補機類のヒュンヒュンという音の方が目立つ。
このエンジンには初の気筒休止システムが搭載されていて、低負荷時には自動的に3気筒に切り替わる。インジケータなどはないが、排気音が若干くぐもった感じになるのですぐに解る。気になる場合はアイドリングストップをオフにすれば解除できる。あるいは、アクセルを積極的に踏み込んでやればいい。
回転が高まるにつれてエンジンは快音を発するようになり、特に5000rpmを超えた辺りからは、目の詰まったメカニカルノイズと豪快なエキゾーストノートで気分を昂ぶらせる。しかも、それがダイレクトに耳に届くのが718スパイダーの魅力である。
レスポンスの良さはまるで右足の動きに直結しているかのよう。この鋭い反応、ツキの良さによるクルマとの無類の一体感は、ワインディングロードが主戦場となるであろうこのクルマにとっては最高の武器と言える。
乗り心地は硬めではあるけれど、オープンにしては………という注釈要らずの剛性感高いボディ、シャシーのおかげで嫌になることはない。実際、取材という名目で京都まで1泊で弾丸往復もしたのだが、身体はまったく問題なかった。むしろ気になったのはウルトラ・ハイ・パフォーマンス・タイヤを標準装備とするがゆえのロードノイズ、そして心許ないウェットグリップで、普段使いや長距離走行を視野に入れるならば、タイヤ選択は再考してもいいかもしれない。
もっとも、そのタイヤもまた刺激的なコーナリング性能に寄与しているのは事実だ。ほとんどロール感なく面白いほどに向きが変わり、アクセルをやおら踏みつけても路面とのコンタクトを容易に失うことのない高いスタビリティを発揮するフットワークのおかげで、どんどんペースが上がってしまう。このクルマに乗る時は、自制心を失ってはいけない。
日本の交通環境では、2速で150km/h近くも出るようなギア比をもう少し低くしてもいいかもしれないと感じる以外、走りに不満はない。一方、使い勝手の面ではソフトトップを閉じる時に手で思い切りテンションを掛けていないと電動式のロックが空振りして、開閉手順をやり直さなければならなくなるのが面倒に感じた。女性ユーザーは心して付き合ってほしい。また、ひっそりと発表当初より選択できるボディ色が減ってしまったのも残念だ。
しかしながら、こんなプリミティヴな刺激を堪能させれてくれるクルマが今の時代に登場し、限定車ではなく今もオーダー可能なのだから、贅沢を言ってはいけない。718スパイダー、スポーツドライビングの歓びを知る人なら、必ずやそのハートに刺さるサイコーに刺激的な1台である。