少し穏やかに運転を楽しみたい/メルセデス・ベンツ Cクラス派・渡辺慎太郎
もちろんこれは人によってさまざまだと思うけれど、自分なんかは50歳を過ぎた頃からクルマに対する趣向に変化が生じ始めた。それまではドライバーの入力に対してビビットに反応するクルマに惹かれる傾向にあった。いわゆる“スポーティ”と呼ばれる類である。ところが、そういうクルマに毎日乗っていると体力的にも精神的にもちょっとツライというか、もう少し穏やかに運転を楽しみたいと思うようになってしまった。混んでいるけれど早く目的地に着く急行に我慢して乗るよりも、空いていてゆったり過ごせる鈍行を進んで選ぶようになった心境に、ちょっと似ているかもしれない。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition/撮影車はスムーズでパワフルな1.5L直噴ターボ+BSG+48V電気システムを搭載したC200に、AMGラインのダイナミックなフォルムとともに、スポーツサスペンションを装着したローレウスエディション。
あらためて最近のクルマの説明を見返してみると、SUVでもミニバンでもセダンでも“スポーティ”という言葉がそこかしこに躍っている。たいていの場合は見た目の印象をそっちの方向に持っていくお化粧レベルだが、中には操縦性までもしっかりチューニングしているものもある。「そんなに世の中の人は、猫も杓子も“スポーティ”なクルマを欲しがっているのだろうか?」といぶかしく思ってしまうのは果たして自分だけなのだろうか。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
メルセデスのCクラスが現行モデルへ移行したとき、彼らが特に強くアピールしたのは“アジリティ(=スポーティ)”だった。メルセデスのグレード構成でスポーティな位置付けにあるアヴァンギャルドを主力商品とし、そのなんとなくBMWの3シリーズにジワジワと擦り寄っていくかのような姿勢に、個人的には「なんだかなあ」と腑に落ちない気分になった。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
ところが一昨年のマイナーチェンジを機に、メルセデスはCクラスの立ち位置を若干見直す。ランフラットタイヤの標準装着をやめて乗り心地を向上させるなど、快適性をより重視した乗り味としたのである。BMWのほうへ行ってしまったCクラスが、メルセデスに戻ってきたわけだ。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
いっぽうで、その直後にフルモデルチェンジを果たしたBMW3シリーズはさらに濃厚なスポーティへ舵を切った。電子制御式LSDをオプション設定するなど、よく曲がるためには手段を選ばないといったくらいの気合いの入れようである。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
両社のこうした傾向は個人的には誠にウエルカムだと思っている。ドイツの“3強”はどれもなんとなく同じような方向へ進んでいる時期があった。BMWはラグジャリーへ、メルセデスはスポーティへそれぞれ向かっていったら、どちらもアウディみたいになってしまった——極端に言うとそんな感じだった。やっぱりメーカーごとに独自のキャラクターが立っていてくれたほうが何かと喜ばしい。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
現在の自分の心境と合致するのは、マイナーチェンジを受けた現在販売中のCクラスである。中でもC200は1.5Lの直列4気筒ターボとBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)を組み合わせたユニットで、スターター・ジェネレーターを駆動力としても活用する。これが、発進からターボのトルクが立ち上がるまでの領域をカバーしてくれるので、動き出しからスムーズかつ力強い加速が期待できるのである。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
このクラスとしては珍しくオプションでエアサスも選べるが、コンベンショナルなサスペンションでも乗り心地は上々だ。タウンスピードから高速巡航まで、減衰が比較的ゆったりとした同じような乗り心地を提供する。路面状況や速度によって乗り心地がコロコロ変わると疲労が増幅するが、Cクラスでは無縁である。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
ドライバーの入力に対してあくまでも忠実な反応を示すハンドリングもCクラスの特徴のひとつ。3シリーズにように、まるでドライバーの意志を先読みするかのごとくグイグイと積極的に曲がっていく様とは対照的である。ステアリングをゆっくり回せばゆっくりと旋回を始め、素早く切り返しても操舵応答遅れなくしっかり追従してくれる。まるで従順な執事のようでもある。
MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
メルセデスはいまやどれも1枚の“板”にメーターパネルとセンターディスプレイを組み込んだHMIが採用されているので、2眼式のメーターが妙にレトロチックに映るが、機能性に問題はない。Cクラスで唯一、個人的に不満に感じるのはグリルの意匠である。“アヴァンギャルド顔”にはいまだにどうしても馴染めない自分は、やっぱりボンネット上にそそり立つスリーポインテッドスターを拝みたいのである。
BMWのほうへ行ってしまったCクラスが、メルセデスに戻ってきた。
リポート=石井昌道/M.Ishii(3シリーズ)、渡辺慎太郎/S.Watanabe(Cクラス) フォト=郡 大二郎/D.Kori ルボラン2020年8月号より転載