「軽さ」でシビックに軍配だがやはり所有する満足感に違いが
シビック・タイプRは、フロント横置きの2L直列4気筒ターボから、最高出力320psと最大トルク400Nmを絞り出す。6速MTで0→100km/h加速が5.7秒、最高速度は272km/hとなるが、M2コンペティションとの直接対決では、シビック・タイプRの健闘が光った。その主な理由は「軽さ」だ。M2より260kgも軽いボディは、極めてコントローラブルかつ扱いやすく、最新世代のVTECターボは高回転域までスムーズに吹け上がり、前輪駆動ながら確実にそのパワーを路面に伝える。
一方、BMW M製3L直6ターボは、アルミ製ブロックとはいえ単体で205kgもある。ゆえに終始その重さを意識させながら、有り余るパワーで強引に駆けぬける、ややクラシカルなドライブフィールだ。ただしFRだからこそ、スロットルで挙動コントロールする楽しみが残されているし、強化ディスクを備えたMスポーツブレーキの制動性能は頼もしい。
前期モデルのM2クーペが搭載したスタンダードモデル用N55系のハイチューン版から、現行M3/M4と同じS55型Mエンジンに換装され、出力/トルクともに大幅増強。エンジンルームにはカーボンファイバー製ストラットブレースが加えられたほか、19インチYスポーク鍛造ホイールも装備。
今回のテストではそれぞれのモデルに乗り換えながら合計1800kmを走破したのだが、シビック・タイプRはオンロードドライブはもちろんサーキットでも十分に楽しむことができた。特に乗り心地と快適性はその外観とは裏腹に素晴らしく疲れ知らずなドライブを実現した。一方、M2コンペティションのダイナミック性能は、クラシカルな味わい深さだが、シビックの軽さと比較するとその車重が全体の印象をスポイルしてしまった。というわけで、客観的な視点での比較テストでは、シビックタイプRがM2コンペティションよりも楽しかったという大金星を挙げたのである。
シビックがクォーツ式なら、M2はいわば機械式時計。
ただし、本誌的な主観を入れてみると、個人的なこだわりに対する満足感が異なる。たとえば時刻を知るだけであれば腕時計はセイコーでもカシオでも、手頃な価格で高性能な日本製を買うことができるし、実際にこれで十分である。一方、クォーツ式に精度では敵わないが、多少の手間を要しても機械式時計を好んで購入する人もいる。これはいわゆる個々のライフスタイルであって、コモディティ(普及品)でない製品を手に入れ、それを所有することで満足感を味わうのである。BMW Mでいえば、そのブランドが持つ歴史、技術、そして開発担当者らの息遣いが感じられるといことだ。
ホンダ独自のバルブ制御技術で高レスポンスを実現したタイプR専用2L VTECターボに、6速MTを組み合わせた前輪駆動の5ドアハッチバック。大型リアスポイラーをはじめブリスターフェンダー、3連オーバルのエキゾーストエンドなど、ベースモデルとはかけ離れた専用エクステリアを纏う。
最後にリセールバリューについて考えてみよう。日本でのM2コンペティションは6速MTで876万円、7速DCTで901万円。一方、シビック・タイプRはおよそ半分の450万円となる。ところがシビックは中古になると急激に価格がダウンする。先代そして先々代のシビック・タイプRの中古相場の傾向を見ると、4年後には間違いなく半額以下になるだろう。一方BMW Mに関しては、冒頭に述べたようにM3CSLのように、将来的にコレクターズアイテムとなる可能性を秘めている。まあ、クルマを楽しむ本来の姿ではないけれど、夢を見るのも悪くはないだろう。
リポート:木村好宏/Y.Kimura フォト:T.Kirkpatrick BMW COMPLETE 2019 vol.72より転載