プレミアムEV市場を瞬く間に席巻したイーロン・マスク氏率いるテスラの、全世界に向けてコミットしたミドルサルーンが満を持して日本上陸を果たす。正式発表前から大きなバックオーダーを抱えたポテンシャルと魅力の源泉を日本の一般公道でチェックできたので、そのインプレッションを報告しよう。今回の試乗車は航続距離560kmのロングレンジバッテリーを搭載した後輪駆動で、国内にはラインアップされない北米仕様だ。
ファーストカーにしたい優れた走りと先進性
都市部に最適なサイズで価格は511万円から。テスラ・モデル3は多くの人が気になっているだろう。日本での納車は10月以降とのことなので、もうしばらく時間が掛かりそうだが、今回はアメリカ仕様に試乗する機会を得た。日本向けに用意されるのは、航続距離409kmで0→100km/h加速5.6秒、車両価格511万円の「スタンダードレンジプラス(RWD)」と、560kmで4.6秒、655万2000円の「ロングレンジAWDデュアルモーター」、530kmで3.4秒、703万2000円の「パフォーマンスデュアルモーター」の3種類で、今回はRWDのロングレンジという日本には設定されない仕様だったが、インプレッション的にはスタンダードレンジプラスとさほど変わらないだろう。
ボディサイズは全長4694×全幅1849×全高1443mm。BMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラスとほぼ同等だが、愛嬌のあるデザインだから、実車を目の当たりにするとずいぶんとコンパクトな印象を受ける。テスラはこれまでもハイパフォーマンスなBEVというだけではなく、ガラケーからスマホへ進化したかのような優れたユーザービリティやHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)にも注目が集まっていたが、モデル3のコクピットに収まってみると物理的なスイッチ類がほとんど排除され、徹底的にシンプルになっていることに驚かされた。
ステアリングとそのコラムに付くウインカーおよびギアセレクターのほか、ドアのウインドー操作用以外にスイッチ類は見当たらない。モデルSにあったハザードランプボタンは頭上のルームランプのところに収められていた。あとは中央にデンと構える15インチのタッチパネルですべてをコントロールするのだ。走りに関する面ではクリープのオン/オフ、回生ブレーキのスタンダード/ロー、加速のコンフォート/標準、操縦モードのコンフォート/標準/スポーツなどが選択できる。
モデル3の中では速いほうではないといえ、加速は十二分に鋭い。Dセグメントなら高性能なBMW330iなどと同等なのだ。電気モーターの加速感は発進からドカンとくるものだが、今回のモデル3はそれほど強烈ではなく上質で頼もしいものだった。
感心したのがブレーキのフィーリング。BEV(電気自動車)やハイブリッドなど回生協調ブレーキをもつモデルは、思っていた以上に減速が急激に立ち上がるいわゆるカックンブレーキや、踏力を変えていないのに減速度が変わってしまうなど、課題がある場合が多いが、モデル3はペダルの踏み込みに対してほどよく穏やかに減速が立ち上がり、踏力によるコントロールもやりやすかった。
BEVはパワートレインのノイズがほとんどないから静粛性が高いのは当然だが、それと引き換えに風切り音やロードノイズが耳に付きやすくなることもある。モデル3はザラザラとした荒れた路面で少しタイヤからゴーガー音が聞こえることもあったが、これはアメリカ仕様でM+S(マッド&スノー)タイヤを履いているからだろう。風切り音も100km/h上限ではよく抑えられていた。
サスペンションはダンピングがよく効いている印象。高速で大きな突起を通過してもボディが上下に揺さぶられたりせずにフラットな姿勢を保つ。モデル3用に新開発されたプラットフォームは強固でボディ剛性感も十分に高く感じられるのだ。それなりの重量だが、バッテリーが床に敷き詰められて低重心だからハンドリングも正確で俊敏。コーナーに向けてステアリングを切り込んでいくと、あまりロールを感じさせないまま素直に曲がり込んでいくのは、BEVの重量バランスのなせる技だ。エンジン車にありがちなノーズの重さを感じさせないのが心地いい。
BEVならではの走りの良さやテスラらしい先進性はモデル3でも健在。充電環境さえ整っていれば、ファーストカーとしても活躍してくれそうだ。
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