総合力を高めながらアルファ流を貫く
スポーツセダンであることを主張するのが、使うことを義務付けられたような大きなパドルシフトだ。これを見たとき、急に156時代のセレスピードを思い出した。感性と一致しないオートモードがわずらわしくて、いつも手動で変速していた。今や8速ATになり、もはやDに入れっぱなしで何の不満もない。しかし手動変速してエンジンと対話してこそアルファだと思う。パドルが大きすぎてウインカー操作が不便と思わずに、それを踏まえてウインカー作動に余裕を持たせるのがアルファ流の安全運転である。
低速域でのブレーキタッチが唐突で急激に減速Gが立ち上がることがあったり、アクセルのオン/オフによる挙動変化が大きすぎたり、さらには操舵感の軽い電動パワステに12:1と極端にクイックなステアリングギアレシオが相まって、街中でスムーズに操るとなると神経を使う面はある。雑に扱えば同乗者は不機嫌になるだろう。しかし、機械の動きを感じ取りながら丁寧な操作を心がければ、クルマ側も呼応してくれて実に心地のいいサルーンとなる。「自動運転機能をフル活用しつつ、雑に扱っても快適かつ快速」というのが正義と感じる人には勧められない。しかしクルマが好きで運転することそれ自体を楽しいと感じるのなら、この操作に対する呼応感は魅力的だ。先のパドルシフトに加えて、剛性感のあるオルガン式ペダル、アルファ特有のDNAドライブモードシステムなど、運転に集中しながら楽しむための準備はきっちり整えられている。
ネガティブな要素を前向きに捉え、ポジティブな要素を思いっきり享受してこそアルファ乗りかもしれない。超軽量素材を駆使し、前後重量配分を50:50に近似させたFRパッケージなだけに、先述した忙しない動きに馴染んだその先にあるスポーツドライビングの世界は格別だ。フロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンクを採用するサスペンションは、基本的には極太タイヤや電子制御に頼らずに安全性能を確保しつつ、いかにもFRらしい挙動を持って軽快に駆けぬけていく。この爽快な動きにはスーパーの有する200ps/330Nmの動力性能で充分だ。往年のアルファ製自然吸気とは趣を異にする小気味いいビート感を伴って、軽やかな車体をグイグイと押し出す。同じスーパーでも2.2ターボディーゼルは、より豊かなトルク特性を感じさせながら、積極的に高回転まで使いたくなる特性は変わらない。その上にはヴェローチェ、そしてクアドリフォリオと用意されるが、しかしスーパーがエントリーではないのもアルファらしい。
フロントヘビーに代表されるFF固有のデメリットと闘い続けて築き上げたアルファらしいファン・トゥ・ドライブの世界は、FRという骨格を得たジュリアでより光り輝いたようだ。これを旧来のアルファ好きのものだけにしておくのはもったいない。ドイツ勢を筆頭とする定番FRセダンの乗り味に慣れ親しんだ人こそ、まずは乗ってみることをオススメする。好き嫌いは別にして、100人いれば100通りの“アルファらしさ”を発見できるはずである。
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