【嶋田智之の月刊イタフラ】エンジニアに訊く「アルピーヌA110」開発エピソード

現代のA110はどうあるべきか

【嶋田】アルピーヌのプロジェクトはほとんどゼロからのスタートで、当初は何もなかったと聞いてましたけど、どんな感じだったんですか?

【バイヨン】「最初の1年間くらいは、10数人のメンバーでディスカッションをしたり、コンピュータを使ったシミュレーションをしたり、でした。どういうクルマにしたいのか、どういうクルマにならなきゃいけないのか。どういう乗り味に? 性能の目標はどこに置く? CADだったりデータを出したりしながら、そんなことばっかりやってました。そして2013年の春に初めてできたクルマは、ロータス・エキシージのスタイルで、中身はアルピーヌのオリジナルというプロトタイプ。これはイギリスでテストしました。以降は全てのテスト車両に乗ってますけど、その最初のプロトタイプが最も心に残ってますね。それまでデータの中にしかなかったクルマが、走らせてみたら“これだ!”と感じられたので。それもメンバー全員がそう感じたんです」

【嶋田】サスペンションのエンジニアということは、どういう特性にしていくのかを決める立場にあったということですよね?

【バイヨン】「僕ひとりで決めたわけじゃないですけどね(笑)。ご存知でしょうけど、全てのスタートはクラシックA110だったんです。初代A110がずっと継続して作り続けられていたらどうなっていたかというところから、現代のA110はどうあるべきか、というのを考えました。初代のいいところはキープしながら、改善しなければいけないところも考えた。サスペンションももちろんそうで、僕達のチームで計算したり分析したりしながら形式を決め、ダンパーやスプリングの方向性を決め、という感じで進んでいきました」

【嶋田】ということは、クラシックA110もかなり研究した?

【バイヨン】プロジェクトがスタートしてから2カ月、ルノー・ヒストリークにある1600Sを借りていました。僕もひと月借りました。その間ずっと日常的に試乗したり、ビデオの映像や写真を見たりして、どういう動きをしているかを研究しました。映像と自分がドライブしたときのフィーリングを比較してみたり、とか。新しいA110はどうあるべきか、おかげで深く考えることができましたよ」

【嶋田】最初に歴史的な名車であるクラシックA110に乗ったとき、何を感じましたか?

【バイヨン】「もちろん感激しましたよ。このクルマ、凄い! って。でも同時に、実は僕にとってのクラシックカー初体験だったんですけど、こういうクルマは今は無理だな、今は認められないな、って感じたんです。まずドライビングポジションとかが人間工学的にダメ。ブレーキも高速のスタビリティもステアリングの反応の仕方も現代の水準では良しとされない。ギアボックスもすごく難しい。安全性も……。走ってるうちに、そういうところがどんどん目についてきました。もちろん、楽しさはたっぷり感じましたよ。例えば加速だったり、ドライバーとの一体感だったり。クルマからのインフォメーションが身体にちゃんと伝わってくるというのも、とても感動的でした。そういうところをいかに新しいA110に受け継がせながら、どう現代のクルマとして成立させていくのか。皆でそんなことばっかり考えてましたね」

【嶋田】新しいA110がクラシックA110から受け継いだのはどんなところですか? まぁ、お約束の質問で(笑)。

【バイヨン】「わかりやすいでしょう(笑)。俊敏性、ファン・トゥ・ドライブであること、コンパクトさ、それから運転しているときの軽やかなフィーリング。クラシックA110は、そういうところがとても魅力的なんですよね。だから、そういうところは強く意識しましたし、最初にクラシックA110に乗ったときから新しいA110が発売になるまで、まったくブレませんでした。もちろんスタイリングも」

【嶋田】逆に新世代のA110なんだから、ここはこうなってないとダメだ、というところはありましたか?

【バイヨン】「クラシックA110には、ステアリングにすごく遊びがありました。それから、スライドはするけど、舵角を入れていかないとコントロールできない。ブレーキもストロークがとても大きくて、そのうえ場合によってはフロントの左がロックするし場合によってはリアの右がロックするし、といった具合で効き具合も安定しません。あとは高速域での安定性にも難がありました。新車当時はレベルの高いクルマだったと思いますが、現代の水準にあてはめるのには無理がありますよね。当然ながら、そういうところは改善しないといけないと考えながら開発を進めてきました」

【嶋田】クラシックA110も当時のスポーツカーとしては乗り心地がいいクルマといえるけど、新しいA110も抜群に快適で毎日使えそうです。あれだけ曲がるクルマなのに、気になる硬さがない。電子制御でもないのに、どうやって曲がることと乗り心地がいいことを両立させたんですか?

【バイヨン】「何かひとつ、これだという理由を挙げることはできないですねぇ。例えばタイヤのスペックだったり、サスペンションのスペックだったり、全体の構造だったり……ワンポイントではなく、そういうひとつひとつが結びついて、トータルで乗り心地の良さとよく曲がるテイストが両立できてるので。このふたつを両立させることは、最初から決めていたものだったんです」

【嶋田】最初から決めていたものといえば、A110らしいスタイリングを崩さないということもあったそうですけど、シャシーに関わるエンジニアとして、リアウイングが欲しいとは思いませんでしたか?

【バイヨン】「デザインを崩さないという目標は、シャシーを担当する自分達にとってのチャレンジにもなりました。ウイングをつけないということは、その分シャシーに求められる部分が大きいわけですからね。でも、それがかえっていいモチベーションになりました。ウイング類以外で空力もしっかり確保できてるし、いいバランスを生み出すことができたと思ってます」

フォト:山本佳吾 K.Yamamoto/嶋田智之/アルピーヌジャポン

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嶋田智之
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2018/10/14 17:15

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