体重移動は一切ナシ
ライディングの新発見
まだ補助輪が付いていたバージョン1は、ジョイスティックで遠隔操作するラジコン式で、100km/hがやっとだった。だが、自律走行が可能になった2017年のバージョン2では200km/hを超えた。コーナリングスピードも上がり、当然、補助輪はなくなった。スタートしてから戻ってくるまで、人間は「見ているだけ」でよく、帰還すると停止寸前に格納式のアウトリガーを出す。どうせならステップから足を下ろして地面に着き、上体を起こし、ヘルメットも脱いでほしいところだが、本来の目的以外の余計なことをさせなかったのは、メカの重量増でスピードが犠牲になることを嫌ったからである。
MOTOBOTの本来の目的とは、「対向車のいないサーキットを中高速で単独走行すること」である。そのため“目”はない。超音波やレーダーは搭載していないし、カメラによる画像解析も取り入れていない。コースに障害物が現われても、避けることはできない。
さらに、MOTOBOTは体重移動もしない。6つのアクチュエーターでステアリング、スロットル、変速、ブレーキのために手足は動かすが、重心移動の動きはいっさいしない。バイクのサーキットライディングにはつきものの体重移動なしで、ロッシ選手の背中が見えたのは、逆にいうと驚きである。
「体重移動しないと、限界があるのでないか? という声は、東京モーターショーの会場でもよくいただきました。開発段階で検討はしました。でも、重心移動をさせるには、それなりの重量のあるオモリと、それを動かすアクチュエーターがいる。そうすると、重くなって、遅くなる。人が動いているさまは、見た目のインパクトが大きいので、レースでは重心移動がメインで乗っているとイメージされがちですが、やってみると、ハンドルだけでかなりのところまでイケる。ライダーがやっている体重移動は、ステアリングの動きにかなり置き換えられる。それが今回の大きな発見でした。たしかに最後の最後に重心移動させると速くなりますが、それを最初からやってしまうと、複雑な制御開発がさらに複雑になる。まずはハンドルだけでいけるところまでいって、さらに重心移動なのか、あるいはほかの新しい機能なのかは、これからです」
プロジェクトの成果が
明日のヤマハに生きる
これまでにMOTOBOTは4台つくられた。バージョン2の1台は現在、静岡県磐田市にあるヤマハ本社のコミュニケーションプラザに展示されている。取材に訪れたときも、マレーシアからの見学者に囲まれていた。
サンダーヒルレースウェイを走るためのデータしか持っていないため、袋井のテストコースも含めて、日本国内で走ったことはない。新しいサーキットで走らせるには、コースのデータ収集で1週間はかかるという。クルマなら、なにか起きても止まればすむが、2輪には転倒リスクがある。ワンオフの高価な実験材料を壊さないためには、実走行の前にコンピューター上で高い精度の走りを実現しておく必要がある。2輪ならではの自動運転技術開発の難しさだろう。
3年計画のMOTOBOTプロジェクトは、ひとまず終わったところだ。プロジェクトが今後どのような形でヤマハのものづくりに具体化されるのか、口の堅いエンジニアは教えてくれなかったが、成果は確実にあったという。
しかし、ムーンショットは達成されていない。ロッシ選手との差は32秒。撃ち落とすべき月はまだまだ高いところにある。コースのライン取りと車体制御の精度をもっと高めれば、重心移動なしで15秒差くらいまでは詰められるのではないかというのが開発チームの観測だ。
目がないから、混走は無理でも、MotoGPの前座で究極のリーンウィズコーナリングを披露する。あるいは人間ライダーを従えてペースバイクを務める。MOTOBOTのそんな姿を見てみたい。
【ヤマハ発動機コミュニケーションプラザ】
静岡県磐田市のヤマハ発動機本社にあるコミュニケーションプラザは、世界で使われているさまざまな分野の製品やエポックメイキングな歴史製品の数々、そしてヤマハ発動機の最新技術や活動、情報が集約。入場は無料。開館日などはWEBをチェック!
※MOTOBOTは常設展示ではありません。
住所:静岡県磐田市新貝2500
https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/
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