安心して走りを楽しめる、まさに適材適所のAWD
北海道の鷹栖プルービンググラウンドでホンダがメディア向けに開催した雪上試乗会の、走行前のプレゼンテーションで言うには、AWD技術は、“あらゆる環境における「安心と信頼」に加え「コトの拡大」に貢献”するものでなければならないと定義しているという。「安心と信頼」は、すぐに理解できるとして「コトの拡大」とは、さて何だろうか。
コトとは最近よく使われるモノの対義語で、つまり家族や仲間とゆったり乗れるとか、沢山の道具を載せられるといったことだったり、あるいは気持ちよい走りを楽しむといったことを指す。前者を叶えるには、広い室内や荷室を確保できる小型・軽量設計を、後者のためには運動性能向上を追求していくというのが、その言葉の意味するところである。
ホンダ車の現行ラインナップを見ると、Nシリーズからレジェンドまで、ほとんどのモデルにAWDが設定されており、それに合わせてAWDシステムも様々な種類が用意されている。今回の試乗会では、それらを取っ替え引っ替え乗って、実力と特性を体感した。
CR-V PROTOTYPE(次期型CR-V)
いちばんの注目株は年内に日本での発売を予定している新型CR-Vだろう。使われているのはリアルタイムAWD。前輪駆動を基本に、その前輪が空転しそうになると電気モーターを作動させ油圧を発生させ、それによってピストンをクラッチに押し付け、駆動力の伝達を行なうという仕組みだ。
このAWDシステムはお馴染みのものだが、新型CR-Vはそれにi-MMDを呼ばれるハイブリッドシステムを組み合わせたのが新しい。これはアコードにも積まれているもので、通常はシリーズハイブリッドとして電気モーターで走行し、高速域のみエンジンによる直接駆動を行なう。
実はAWDより前に、このパワートレインの印象の方が鮮烈だった。路面μの低い雪や氷の上では電気モーター駆動の滑らかかつ俊敏なレスポンスが活きて、コントロールがとてもラクなのだ。
肝心のAWDシステムは、とても素直でクセがなく、しかし確実な駆動伝達を実現している。挙動が自然で、いかにも制御しているという感覚は薄いのだが、実は空転はほぼ未然に抑えられている。この上質なコントロール性は十分にセールスポイントになる。
NEW LEGEND(新型レジェンド)
続いては、マイナーチェンジを受けたフラッグシップサルーンのレジェンドを試す。前輪を3.5リッターV型6気筒エンジンと7速DCTに内蔵された電気モーターで駆動し、さらに後輪を左右別々計2基の電気モーターで駆動してトルクベクタリングを行なうスポーツハイブリッドSH-AWDを搭載するレジェンドだが、今回の変更ではその制御が改められている。
新旧を比較すると、新型はトルクベクタリングによる過激なまでの旋回性が抑えられ、クルマを前に進めるトラクション性能を、より強調したということで、確かに動きはより自然になった。構造用接着剤の多用によるボディ剛性の大幅な向上、サスペンションのセットアップ変更も、それを後押しするポイント。大胆にステアリングを切り込み、アクセルを大きく開けるとグイグイ曲がっていく先代は、テストコースでそういう運転をすれば楽しいが、リアルワールドで安心してハイペースを維持できるのは断然、新型である。
大ヒット軽ミニバンの侮りがたい走安性
軽自動車、スモールカーにはシンプルなビスカスカップリング式AWDが使われている。とはいえ、その中身は小型化により搭載性が高められ、後輪への駆動力伝達のレスポンスがよく、不要な時のビスカスカップリングの引きずり特性が改善されて燃費にも貢献するという具合に地道に進化を果たしており、VSA(横滑り防止装置)との協調制御も行なわれる。
こちらはN-BOXやフリードで試したのだが、特にフリードの安定性の高さ、コントロール性のよさには感心させられた。思えばフリード、通常のドライ路面でも走りの質は望外に高い。やはり、これもAWDだけでなく車体含めたトータル性能が秀でているという話になりそうである。
そんなにあるの? と思った3種類のAWDシステムには、見ていくとそれぞれにメリットがあり、つまりこの幅広いラインナップの中でAWDを展開していくには、これが適材適所ということなのだろう。世間的には決して“AWDと言えばホンダ”とはなっていないが、いやはやどうして、なかなかやるじゃないかと実感した、今回の試乗だったのだ。
取材協力:本田技研工業 http://www.honda.co.jp/
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