音声SNSのClubhouseをきっかけに思い立ったこの企画。前編ではほぼ生の体験記をお伝えしましたが、後編では体験から得たことやあれこれ考えたことをお届けしようと思います。
結論、一充電あたりの走行可能距離は気にしなくていい
MX-30EV MODELで2171キロの旅に出ていろいろ気づいたことがありました。
① 一充電あたりの走行可能距離は気にしなくていい
この結論というか気づきは画期的だと思わず膝を打って自画自賛しています。EVの重要な性能として注目されますし、評論する場合も満充電で何キロ走れるのかをエンジン車と比較しながら「そんなんじゃ足りないね」と言う部分。EV評価する場合のとてもわかりやすい指標です。
でも……飽きるほど充電器の横でボーッとしながらふと思いました。“一充電あたりの走行距離が長い=空になってから満充電になるまでの時間が長い=その場所から動けなくなる時間が長い”だよな、と。
もちろん充電器の能力にもよるのですが、今のところメジャーなのは30kWhクラスなので設定されている一回30分で15kWh充電できます。MX-30EV MODELの搭載電池容量は35.5kWhなので、いい感じに減った状態から満充電にしようとすると(実際は急速充電の場合は電池保護のために満充電にはなりませんが)2回充電しなければなりません。ということは合計1時間です。
このクルマの一充電走行可能距離はWTLCモードで256キロ、JC08モードで281キロと長くはないのですが、仮に電池容量を倍にして倍の航続距離を走れるようにしたとしましょう(実際は重い電池が倍になるのでその分電費が落ち倍は走れませんが)。ノンストップで500キロ走った先に待ち受けているのは4回、2時間の急速充電です。しかも、30分に一回充電作業のためにクルマに戻らなければなりません。また、普通充電では夜から朝までの時間では充電量が足りません。
これは今回の体験を元にした試算なので、50kWhクラスの大容量充電器だと結果は変わります。とは言っても、充電時間は短くなるものの作業回数はさほど変わらないでしょう。
移動の途中に分割して充電するのか、一日の終りにまとめて充電するかの違いにしかなりませんし、1時間ないし2時間充電にかかりきりになるのは現実的ではないでしょう。
このことから、日常は一充電走行可能距離に関係なく急速30分充電を複数回に分けて、自宅や職場に充電器がある人は駐車中にそこで普通充電をしているのだと思われます。
だとすると車載の駆動用電池容量は、現時点で最も一般的な急速充電器30kWhクラスの充電器での一回分15kWhで特に問題はないと言えます。それ以上の電池容量は、充電のことをちょっとの間だけ忘れていても途中で電欠しないための保険でしかなく、せいぜい倍もあれば充分じゃないかと思います。
ちなみにこの旅の平均電費は6.7km/kWhなので急速充電一回分15kWhで100キロくらいは走れるわけです。余裕を見て電池は200キロ分の35kWhあれば普通の人の普段使いには充分じゃないかと思うに到りました。
こう書くと何やら今回借り出したMX-30EV MODELに配慮した結論にしたなと疑われてしまうかもしれませんが、そうなっちゃったんだから仕方ありません。すみません長々と。充電中あまりに暇だったのでいろいろ考えてしまいました。
道中で出会うことが多かった日産リーフのオーナーを観察していると、本を読んだり弁当を食べたりしていました。慣れた人は充電時間が生活ダイヤに組み込まれているので特に痛痒を感じていないように見えました。
② 疲れにくい気がする
途中で気づいたのですが、疲労感がないし眠くもならない。もしかするとエンジン音と振動がないからかもしれません。だとしたらこれはEVならではの良さと言えます。
③ 運転を調整して航続距離を伸ばす楽しみがある
復路はEVの人たちに教わった走法を試しました。時速80キロを超えると空気抵抗の影響で極端に電費が落ちるらしいのでレーダー・クルーズ・コントロールを90キロに設定してゆるゆると左車線を走りました。
ある区間でのことです。走り始めた時の目的地までの距離が166キロ、バッテリーの残量が69%/140キロでしたがこの走法を試すと差が徐々に縮まり途中で逆転、現着時には残量4%/10キロになっていました。新東名を120キロで走り続けた時との差がすごい。長い下り坂ではそれだけ回生充電するので走行可能距離が伸びたこともありました。
④ 80キロ定速走行でも実は所要時間差は小さい?
上記166キロを走る間に気づいたことがあります。
ナビによる予想到着時刻の5分遅れで現着したことにまず驚きました。道中暇だったので他車を観察していたのですが、がんばって車線変更を繰り返しているのにいつまでも視界にいるし、見えなくなってもしばらくすると目の前に現われたというクルマを何台か見ました。以前から薄々感じてはいたけれど、やっぱりかと思いニンマリ。
⑤ アクセルコントロールで稼ぐ
旅の後半のハイライトは東名御殿場から厚木までの下り坂。アクセルオフで回生充電したいところですが、さすがにそれだと速度が落ちてくるのでちょっとアクセル。エネルギーメーターの針が充電でも放電でもないあたりにあるくらいに。するといくら走っても残存容量も距離も減らないということが起こりました。大井松田から秦野中井までちょっと登っていますが、登る前にドカンと踏んで勢いを付けると、踏んだ瞬間は減りますがそのあと取り返すのでイーブン。これもEVならでは。
以上、様々な経験から「EVの乗り方は俺に訊け!知らんけど」と言いたい気分になっています(笑)
電費と燃費の差はどうか(データと考察)
せっかくデータを取っていたので紹介と共に考察します。
旅の走行距離:2,171km
充電回数:22回
充電時間:18時間43分53秒(充電カード請求書から)
充電量:323.7kWh(同上)
充電料金計:10,745円(同上)
会員充電料金:月会費4,620円/月(急速・普通併用プラン)、急速16.50円/分、普通2.75円/分
(参考:ビジター充電料金:急速55.0円/分、普通8.8円/分)
支払った充電料金は、ガソリン代を170円/Lとして比較すると、充電料金だけの場合でガソリン車の燃費34km/L相当、月会費も足した場合で24km/L相当の計算になります。
もしビジターとして充電したとすれば充電料金計は35,752円になり、10km/L相当だったことになります。
ここでもう一つ気づきました。月会費は固定費なので必ずかかります。この4,620円をガソリン代170円/Lで割ると27リットル分。細かい損益分岐点計算をせずにざっくり乱暴に言うと月の燃料消費量が27Lに満たない使い方の場合はエコノミー的にはエンジン車勝ちと言えましょう。会員にならずビジターとして充電する場合は燃費が10km/Lのエンジン車に乗っているのと同じことになります。
尚、この結果は今回使ったカード発行元の場合であり、各社料金体系が異なることを申し添えます。また、自宅や職場の充電器の有無、ソーラーパネルの有無、充電器のスペックなどの個々人のインフラの具合によっても値は大きく変わります。あくまでも一例として捉えてください。
エンジン車との経済性比較をする場合、多いパラメーターやxyzどころではない変数を睨みながら計算することも楽しみにできますね。
と、いうことで、“ポルシェ・タイカンのように800V高圧アーキテクチャーのクルマが出て、270kW、850VのCCS急速充電スタンドが普及して100kmの航続分を5分で充電できるような世の中になるまでは、EVの航続距離を気にする必要はさほどないのではないか”という結論に到りました。
そうそう、ちょっと脱線してタイカンですが、オフィシャルサイト内に“航続距離インジケーター”という興味深いコーナーがあります。
モデルを選び、市街地、郊外、高速各道路の走行率配分、外気温度環境、エアコンモード、タイヤサイズを変えていくとそれに応じて推定航続距離が表示されるのですが、「EVの電費はこういうことでこう変わるんだ」となんとなく雰囲気がつかめます。興味ある方はぜひ覗いてみてください。
https://www.porsche.com/japan/jp/models/taycan/taycan-models/taycan/?_fsi=AJvoxCjr
旅のお供はこのクルマ
正式名称はマツダMX-30 EV MODEL。グレードはEV Highest Setという最上級タイプ。
これまでに乗ったEVのどれよりも普通で、EVならではの感じが実に薄い。でもきっとこのクルマはそこに価値があるんじゃないかと思います。
不整路では、クルマに蔵書を満載して運んだときのような、重量物が載っている感が強い挙動ですがMX-30比で190キロも重いのでそれはそうなるでしょうという感じ。
G-ベクタリングコントロールプラスのおかげでコーナーは楽しい。ペダル配置が絶妙で運転操作も確実だし疲れないのはマツダ車共通の美点。
静かだしNTN(なんて滑らか)だし。私は6気筒、12気筒エンジンのしゅるしゅるとした感覚が好きなのですが、ダウンサイジングの時代になり、それを求めると1000万円支払わなければならなくなってしまいました。しかしEVなら価格に関係なくこの感覚が味わえます。
使っていて最大の美点はピラーレス観音開きのフリースタイルドア。狭いところなどで後席に荷物を載せる時にとても便利でした。
詳しくはこちらを。
https://www.mazda.co.jp/cars/mx-30evmodel/
EVに合うのはどんな人?
この旅は、ユーザーとしてもi-MiEVに乗っている電動車輌サポート協会理事でもある埼玉の方、狭山茶園の経営者、静岡に移住して放置茶園を再生しようとしている夫婦、宏光EV(上海通用五菱製宏光Mini EV)をバラして検証する大学教授、神戸でインドネシアの紅茶やチョコレートを輸入販売している姉妹、デロリアンをEV化して乗っている広島の方、岡崎でA MiEV製作に関わった人たちを訪ね、一畑電車でデハ二50形の運転体験デビューなど盛りだくさんでした。
そんな旅で人に会って話して聞いて走りながら、自宅に戻って余韻に浸りながらこんなことを考えていました。私が思うのはこんな感じの人。
① 新しいものやことが好きで、そのためには高価な出費をすること、多少の不便は受け入れられるし、ライフスタイルや考え方を変えることは厭わない
② 計算が好き
③ EVは走行時CO2排出がゼロなのでSDGsや将来の地球環境にはEVはマストだと信じ切っている
④ 自宅が一戸建て、職場に充電器がある
⑤ 元々2台以上のクルマを所有している(その内の1台はEVに変えても問題なさそうという意味)
⑥ クルマの音は小さければ小さいほどいいと思う、あるいはその環境にある
⑦ 屋内などその場での排気ガス排出をゼロにしたい
⑧ 走行中にいい音楽を楽しみたい
⑨ 車外の空気感や自然の音を楽しみたい
⑩ NTNが好きだけれど昨今のダウンサイジング2、3、4気筒化で1000万円支払わなければそれが手に入らなくなってしまったと嘆いている(私はこれです)
この2年は何かとがまんを強いられ、不便不都合な世の中でしたが、Clubhouseに出会ったことで却って世界が広がりました。出会っていなければ、お茶の深い世界を知ることも、EVに乗ろうと思うこともなかったと思います。
ついでにこの1年で多くのEVに乗りましたが、この世界もクルマとしていろいろおもしろいなと思い初めています。“エコにもSDGsにも触れないEVの世界の話”を機会があれば改めて紹介したいと思います。
前編はコチラから
(取材・写真・文:大田中秀一)
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