フランス車を選ぶのは、ステイタス性や経済性ではなく「味わい志向派」が多い。なのでディープ方向に進むのも自然の成り行きといえる。日本へ正規導入されていないのであれば、現地仕様車を積極的にチョイスする人も増えてきているようだ。
フツーのフランス車じゃ満足できない!?
日本で購入できる「フツーのフランス車」といえば、たいていの人は正規ディーラー車のことを思い浮かべるだろう。プジョーやシトロエンがディーゼルを導入し、ルノー・スポールの最新鋭モデルがいち早く日本市場に割り当てられる今や、確かにフランス車は以前よりもフツーに買える身近な選択肢になりつつある。
とはいえ、日本に適したATが本国デビュー当初はラインナップされない、あるいは日本での型式認証のコストのせいで、導入が遅れたり導入そのものを見送られるモデルもある。つまり「フツーのフランス車」とは、フランス本国や欧州におけるラインナップという見方もできる。実際、ルノーもPSAも欧州ではコミューターから大型セダンに商用車まで扱う「総合自動車メーカー」だが、日本でそのすべてを展開できる訳ではないのだ。
だがフランス車全体の品質感がひと昔前とは比べものにならないほど安定し信頼性も向上した今や、並行輸入という選択肢もありうる。少し前まで「並行モノ」といえばワルそうなベンツか派手なアメ車などで、正規モノと同じか似た仕様をより安く……という業務形態だった。だがフランス車の並行輸入は「日本に入っていないこのモデルが欲しい」というピンポイントな要望に応えるトータル・サポートというか、個人輸入のヘルプに近いものをイメージした方が近い。
その分、お店側も在庫を抱えて販売する訳ではないので、見積もりから納車まで数週間から数ヶ月を要し、価格設定も本国の税抜き車両価格+αを見込まざるを得ないが、色や装備仕様、あるいはM/Tを含むパワートレインまで、本国同様にキメ細かく選べるメリットもある。日本市場に合わせた最適化やローカライズといった、最大公約数的なトリミングからまったくフリーで選べるフランス車、そこが並行輸入ならではの魅力だ。
RENAULT ESPACE ENERGY dCi 160 EDC Initiale Paris
まずはカーボックス横浜の並行輸入による、ルノー・エスパスから。「イニシアル・パリ」とはヴェルサティスの頃から伝統的に、洗練とコンフォートを旨とするエレガンス系ルノーの高級ラインのことで、現在はその下に「インテンス」「ゼン」「ライフ」がある。つまり4つあるうちの最上級グレードである。
外観というかシルエット的には少し前のホンダ・オデッセイを思わせるが、いざ座り込んでみると視線は高く、車内ではイニシャル・パリ専用のナチュラルで柔らかな、濃茶のナッパレザー内装が迎えてくれる。すぐ下のインテンスよりヘッドレストも分厚く、快適さを強調するが、最大の特徴はルノー独自の4輪操舵「4コントロール」と、複数の走行モードをタッチパネルで選べる可変ダンパーのシャシーだ。
38.7kg-mのトルキーな1.6L、dCi160psディーゼルはスルスルと、車重1.7トン強の体躯を苦もなく引っ張りあげる。タッチパネルでスポーツモードを選べば、多少足周りとステアリングの反応は締まる。無駄な動きがないのに、鷹揚さを残す柔らかな感触はさすがルノーだ。2列目シートは大人も耐えうるクオリティだし、3列目も相変わらず子供なら実用圏内。全長4857mmに全幅1888mmは、確かに慣れが必要なサイズかもしれないが、4輪操舵ゆえ意外に小回りは利く。フランス車好きのみならず、大きめのミニバンは欲しいがアルファードやヴェルファイアはちょっと……という人にも、救世主的存在といえる。
かくしてフランス風ノームコアが凝縮されただけでなく、香るように控えめな高級感がトッピングされたモノスペースが日本でも乗れるという事実は、かなり魅力的といえる。
過去に4世代存在
エスパスは2014年のパリサロンでデビューした現行世代が5代目という、今やルノーの大看板モデルのひとつ。マトラ設計の初代モデルは1984 年に登場し、2世代目は3.5L V10ユニットを搭載したコンセプト、エスパスF1でも話題を蒔いた。グラスファイバー・ルーフの3世代目までは生産委託という形でマトラのロモランタン工場で生産されたが、4世代目からルノー設計&生産となった。
SPECIFICATION【RENAULT ESPACE ENERGY dCi 160 EDC Initiale Paris】
■全長×全幅×全高:4857 × 1870 × 1680mm
■ホイールベース:2870mm
■車両重量:1659kg
■エンジン:水冷直4DOHC16V コモンレール直噴ツインターボ
■総排気量:1598cc
■最高出力:160ps/4000rpm
■最大トルク:38.7kg-m/1750rpm
■トランスミッション:6速EDC
■サスペンション(F/R):ストラット/トーションビーム(4輪操舵)
■ブレーキ(F/R):ベンチレーテッド・ディスク/ディスク
■タイヤ(F&R):235/55R19
CITROËN C4 CACTUS Musketier
続いて紹介するのは、大阪のYMワークスが並行輸入するシトロエンC4カクタス、ムスケティアのカスタム・コンプリート仕様だ。ムスケティアはドイツでプジョーやシトロエンなどを手がけるチューナーで、YMワークスは20年以上も扱ってきた実績がある。加えて横浜デポを設置し、東日本でもクルマの販売デリバリーはもちろん、購入後の整備メンテナンスの窓口機能が整った。
日本にない欧州モデル全般の情報を紹介しながら、実際に並行輸入&購入までアクセスできるサイト「corecars.jp/」も運営しており、今回紹介するC4カクタス・ムスケティアはそうした事業のデモカーという位置づけだ。
まず目を引くのは、ノーマルより格段に戦闘的なエクステリアだ。その内容は、前後カンガルーバー、蛍光イエローのアクセントをあしらったビス打ちのフェンダーにサイドステップ、さらに車高を+2.5㎝上げるオリジナルのスプリングと15インチホイール、トドメに楕円を接合した造形をもつ4本出しテールエンドのマフラーが挙げられる。ガンメタのボディカラーに控えめな蛍光イエローという、地味ハデなコントラストだけでなく、カクタスを少しマッチョなSUVルックに仕立てたカスタム・パッケージといえるだろう。
YMワークスは英国の拠点から並行輸入する点も強みで、右ハンドル仕様で内装はノーマルのまま。パワートレインは正規モデル同様の3気筒1.2L、ピュアテック82ps仕様に5速ETGの組み合わせで、カクタス特有のN、D、Rというボタン式セレクタを押して、シフトのアップ&ダウンは随時パドルで操作できる。1→2速間のラグをヌルい、あるいはゆったり感じるかで、5速ETGは好みの分かれるトランスミッションだが、並行輸入の強みはパワートレインも欧州の豊富なラインナップの中から選べる点にある。
現に横浜デポで聞いたところでは、デモカーは正規モデルとひとまず同じパワートレイン仕様だが、ディーゼル+6速M/Tの問い合わせが多いとか。元から個性的なC4カクタスだけに、さらに特別さを求めるオーナーはいるはず。こだわりを究め尽くすのも、フランス車のディープな楽しみ方だ。
Musketier ORIGINAL PARTS
ムスケティアはプジョーやシトロエンを中心とするドイツのカスタム&チューナー。ムスケティアならではのディテールをクローズアップ!
カンガルーバーは無骨だが、セミマットな質感がガンメタのボディに馴染んで地味ハデな雰囲気に。楕円を組み合わせた4本出しテールエンドに、リアにもカンガルーバー。
ホワイトレター・タイヤはマキシスのブラヴォー・シリーズ、AT-771というオン/オフロード兼用のバランス重視モデル。セミマットの7本スポークホイールはムスケティアのオリジナルだ。カクタス独特のエアバンプに合わせたサイドステップ。イエローのアクセントでコーディネート。刺激的なグリーンのオリジナル・スプリングはノーマル比で車高を2.5cmアップ。
SPECIFICATION【CITROËN C4 CACTUS Musketier】
■全長×全幅×全高:4155×1735×1530mm
■ホイールベース:2595mm
■車両重量:1070kg
■エンジン:水冷直3DOHC12V
■総排気量:1199cc
■最高出力:82ps/5750rpm
■最大トルク:12.0kg-m/2750rpm
■トランスミッション:5速ETG
■サスペンション(F/R):ストラット/トーションビーム
■ブレーキ(F/R):ベンチレーテッド・ディスク/ドラム
■タイヤ(F&R):205/55R16
この記事を書いた人
1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。
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