Così così(コジコジ)とはイタリア語で「まあまあ」のこと。この国の人々がよく口にする表現である。毎日のなかで出会ったもの・シアワセに感じたもの・マジメに考えたことを、在住25年の筆者の視点で綴ってゆく。
10秒以下で320km/hに達する加速性能
イタリアの新興EVコンストラクター「エストレーマ」は2021年5月13日トリノで、超高性能ピュアEV「フルミーネア」のコンセプトモデルを公開した。世界初の全固体電池と大容量コンデンサーの組み合わせによるロードゴーイング車両を目指す。
想定スペック上のバッテリー容量は最大100kW。モーター4基によるAWDで、最大出力は1.5メガワット(2040HP)に達する。0-320km/h加速も10秒以下という高スペックを誇る。航続距離は欧州WLTPモードで450kmである。Kgあたり500Whの高密度リチウムイオン全固体電池は、新興テック集団「アビー」と共同開発を進める。
エクステリアデザインは、ロンドンで「エプタデザイン」を主宰するルイージ・メモーラによる。サイドのジグザグ状キャラクターラインは、ブランドのシンボルである稲妻をイメージしたものだ。ボディサイズは全長4683×全幅2052×全高1148mm。前述の全固体電池の軽量性と最新のカーボンファイバーによって、車両重量は1500kgに抑える。価格は196万1千ユーロ(約2億5959万円)である。
開発を手掛けるエストレーマの正式名称は「アウトモービリ・エストレーマ」で、実業家ジャンフランコ・ピッツート氏によって2020年に設立された。同氏はイタリアで建機メーカーを設立したのち、2007年にスポーツカーブランド「フィスカー」の共同設立者であるとともに、同車のイタリアおよび近隣諸国のディストリビューターを2013年まで務めた人物である。
いっぽう、アビーはノシン・オマール教授によって2019年にブリュッセルに設立された企業。次世代の電池として注目されている全固体電池の設計、検証および製造に関する研究を続けている。法人としてのエストレーマとアビーは2021年3月に合併。新たな持ち株会社「エストレーマ・アビー・テクノロジーズ」の傘下となった。
イタリア版ギガファクトリー構想
今回のフルミーネアによるコンセプトモデル公開は、2021年2月に映像とスペックが配信されたのに続くものとして行われた。展示したトリノ自動車博物館からライブストリーミング形式がとられた。会場にはピッツート氏とCOOを務めるロベルト・オリーヴォ氏が出席し、オンラインによる質疑応答が行われた。
車体製造に関してオリーヴォ氏は、モデナ周辺のスペシャリスト企業をふんだんに活用することで、「従来の自動車工場のような施設は必要ない」と説明した。2022年中に試験的な生産体制を整える。並行して、プロジェクトの目玉といえる全固体電池の開発も進める計画だ。
ピッツート氏が明かしたところによると今日の試算では、全固体電池の価格は1kWhあたり3000ユーロ(約40万円)。「電池だけでスーパーカーが買える値段」だという。ただし、従来のリチウムイオン電池と比較して、kWhあたり重量は半分にできる可能性がある。実際の重量は300kgに留める。
続いて2023年第3四半期から少量生産を開始する。約20台の年産を3年間繰り返して、目標である61台を達成する計画だ。
参加した記者の「経営資金の調達先は」との質問に対してピッツート氏は、当初あるフランスの資本家一族や国際的投資グループの関心を獲得することができたものの、構成メンバーにイタリア人が含まれていないことから断念した。
判断の背景としてピッツート氏は「今日、電池生産の90%はアジア地域に依存している」ことを強調。完全なイタリア人によるオペレーションによって、イタリアのテック産業育成に貢献したい考えをにじませた。そのため引き続き国内系の出資者を模索中だ。
同時にカレラは2025年に全固体電池のギガファクトリーを国内に建設する構想を立てている。
「立地は?」との質問に対してピッツート氏は、未定としながらも「トリノとイタリアの“モーターバレー”モデナの間が物流の観点から適切だろう」と示唆した。建築物に関しては「イーロン・マスクのように真四角なファクトリーにはしない」とコメント。よりイタリアの景観に相応しいものを想定していることを匂わせた。
日本でも限定イベント近し?
フルミーネアの販売方法や想定顧客についても、質問が行われた。それによると彼らは、主要市場は米国カリフォルニア、日本、中国、北ヨーロッパ地域に顧客層を見込む。
ただし、ピッツート氏はフィスカー時代の経験から、このようなカテゴリーの自動車に販売ネットワークは不要で「1拠点のショールームと、各地で企画するイベントで充分」と話した。
最後に「日本での顧客開拓について、どのように考えているか?」との筆者の質問にピッツート氏は、まず「フィスカー時代に訪れて以来、大好きな国。ある日本人コレクターのため、ミュンヘン空港からフィスカー・カルマをジャンボ機のカーゴ部分にすっぽり入れて見送ったのも良い思い出だ」と回想。そのうえでフルミーネアについて「イタリアン・デザインへの評価が高い日本で、1年以内にファン限定イベントを企画したい」とのプランを明らかにした。
インビテーションを受け取るオーナーがどのような人物なのかは知らない。だが想像できるのは、このクルマをガレージに迎える人々―エストレーマの2人が予想するように、大きなソーラーパネルを備えた邸宅の主だろう−−は、既存ブランドの威光にすがるよりも、自動車史の新たな一歩に立ち会うことを楽しむ、真に余裕ある人ということだ。
文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Automobili Estrema
この記事を書いた人
イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを学び、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK「ラジオ深夜便」の現地リポーターも今日まで21年にわたり務めている。著書・訳書多数。近著は『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)。
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