ミュンヘンのトヨタディーラーにインタビュー
こちらヨーロッパは夏時間となり、1時間早起きとなりました。久しぶりに夏時間になる瞬間に時計を見ましたが、午前2時を飛ばして3時になるところがやっぱりフシギです(笑)。
11月2日から始まった2回目のロックダウンは延長に延長を重ね、いまのところ3月28日までとなりました。しかし、こちらミュンヘン市は一部緩和策が取られ、入場制限や予約制ではありますが、お店の営業が開始となりました。早速、大型家電量販店に行きましたが、お店の規模が大きいので予約なしでも買い物ができましたが、入り口でひとりずつ氏名と電話番号の登録があり、入場者数によって多少の待ち時間がありましたが、長らく通販以外での買い物が出来なかっただけに、やっとお店に入れるのは嬉しいものですね。
自動車販売店でも再びショールームにも入れるようになり、対面販売も可能となりました。友人はロックダウン中にポルシェを新車で購入したのですが、全てオンラインで発注となり、担当のセールスマンとは対面なしで電話とメールのみのやりとりだったそうです。
さて、少し緩和されたロックダウンという事もあり、友人が経営をするトヨタの販売店へドライブがてらお邪魔してきました。友人は以前に日本のスーパーGTに谷口信輝選手と組んでタイサンポルシェをドライブしていたドミニク・ファーンバッハ選手。みなさんの中でもご存知の方もいらっしゃるかも知れませんね。いまは実家のトヨタやヒュンダイのディーラーを継いで、代表取締役の傍ら、レーシングドライバーやポルシェのオフィシャルインストラクターとしても活躍しています。
ドイツはヨーロッパの中でも一番ではないかと思うくらいに、販売されている自動車のメーカーや車種が多いのが特徴で、購入者には非常に多くの選択肢があり嬉しい限りです。アウディ、BMW、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、オペルをはじめ、自国の自動車メーカーも国の経済を支える大きな産業の要となっています。そんな中で、せっかくトヨタディーラーにお邪魔しましたので、数多くあるメーカーの中でトヨタを選ぶお客様はどんな方かな? と興味津々で聞いてきました。—私はBMWのお膝元ミュンヘン市に住んでいますが、最近は街中で小型のハイブリッド車を見掛ける事も増えてきました。タクシーもプリウスが大活躍です。
ドミニク社長:トヨタのハイブリッド車は都市部にお住まいになる方には理想的だと思います。特にミュンヘンやシュトゥットゥガルトの朝夕の大渋滞はドイツでも有名ですので、コンパクトなハイブリッド車は理想的なクルマと言えるでしょうね。
—ドイツでは販売されているメーカーや車種が非常に多く、選ぶ楽しさも大きいです。国の大きな産業でもありますので、ユーザーの目も厳しそうですが、ドイツ人がクルマに求めるものは何でしょう?
ドミニク社長:ドイツ人がクルマを選ぶ際に一番大切にするのは、エモーショナルである事でしょう。ですから、個人的な好みは分かれるのは当然ですが、デザイン性にはとても厳しい目を持っていると思いますし、もちろん用途に合わせて性能に重点を置く方も多いです。クルマは単なる移動手段としてではなく、ある意味、自分を映す存在でもありますから。
—その多くの選択肢の中であえてトヨタ車を選ぶ方は何を求めておられるのでしょうか?
ドミニク社長:まずは価格ですね。性能に対してトヨタ車はお手頃な価格帯のクルマが多く、長年トヨタ車を乗り継がれておられる方も多くいらっしゃいます。ドイツでのトヨタ車の購入層は高めで、毎日の買い物や自宅近辺で乗られる方が多く、長距離を移動する方はさほど多くはありません。また、環境問題に高い関心をお持ちの方からは強い支持を得ていますね。
—若者に受け入れられにくい原因は何でしょうか?
ドミニク社長:様々車種が揃う日本と違い、ドイツに入っている車種のラインアップは多くはありません。販売されているのがコンパクトカーやセダンが中心なので一概には言えませんが、それらから見ると若者に受け入れられない一因はデザインでしょうか。シンプルで飽きのこない無難なデザインに統一されていて、愛車にエモーショナル、特別感を求めるユーザーには少し物足りないのかも知れません。かつて80年~90年代に多くのドイツの若者を虜にした憧れのトヨタ車からは遠のいてしまっていた時期が長く続き、その間に残念ながら顧客が他社へ移ってしまったのも現実です。
—日本ではGRのヤリスやスープラ、C-HRが大人気ですが、ドイツでの評判はいかがでしょうか?
ドミニク社長:GRヤリスは売れ行き好調で、問い合わせも多く入っています。コンパクトでハイパワー、運転して楽しいクルマでドイツのトヨタ購買層を少し若返らせてくれる事を強く願っていますね。GRヤリスの唯一の欠点はシートポジションが下げられない事です。僕は身長が180㎝以上あり、アタマがつっかえるので長時間の運転は厳しいですね(笑)。スープラはドイツ市場では若干苦戦しています。スポーティでかっこよいのですが、ドイツで販売されている一般的なトヨタ車の価格帯よりは随分高価である事もネックかも知れません。C-HRは車高が高く、コンパクトで運転しやすい事から女性に人気です。
—日本ではトヨタといえば、若者からご高齢者までプリウスが大変支持されていますが、ドイツではタクシー以外では殆ど見掛けません。
ドミニク社長:みなさんご存知の通り、ドイツには速度制限解除区間があるアウトバーンがあり、日常的に走行します。僕自身がプリウスで何度もアウトバーンを走った経験上、長距離走行はちょっと厳しいかな、と感じています。それにはプリウスのギアがCVTという事もあるでしょう。時速130㎞位までなら何とか問題ありませんが、それ以上のスピードで走るにはとても煩い上に乗り心地もよくなく、非常に疲れます。燃費も悪くなりますので、せっかくのハイブリッドの利点が生かし切れません。それに比べて、ライバルモデルのヒュンダイのアイオニックはデュアルクラッチトランスミッションを採用していて、ドライブフィーリングや乗り心地は悪くありません。プリウスは日本のように高速道路の制限速度が100~120㎞では非常によいポテンシャルを発揮してくれるのがよく分かりますが、アウトバーンの速度制限解除区域では流れに乗って走らなければならないので、普段あまりスピードを出さない方でも150㎞位は出す事もありますので、少ししんどいでしょうね。
—あなたはトヨタの隣でヒュンダイのディーラーも経営されていますね。
ドミニク社長:ヒュンダイはここ数年でドイツの市場を大きく拡大しました。デザイナーをBMWから引き抜き、ドイツにデザインセンターを開設。アジアのメーカーにはない斬新なデザインで勝負しています。ニュルブルクリンクのレース村にも開発拠点を建設するなど、自動車王国に乗り込むにあたり、徹底的にドイツユーザーの好みを調査していると思います。また、車両保証が5年と長く、故障や不具合の際に支払う金額はほぼゼロです。その上、トヨタよりも若干価格が低く設定されているのも、同じような価格帯の車両を購入する顧客層に入り込んだのでしょう。ドイツ人の多くは5年位でクルマの買い替えを考えますので、それを考慮しての5年保証付きなのでしょうね。
—価格や保証期間の面でトヨタからヒュンダイに乗り換える顧客もいるという事ですか?
ドミニク社長:その場合もありますが、逆にヒュンダイからトヨタに乗り換えるお客様もいらっしゃいますよ。
—ドイツやヨーロッパはEV化へとまっしぐらですが、やはり電気自動車やプラグインハイブリッド車へのお問合せや購入は増えていますか?
ドミニク社長:実際のところ、インフラや航続距離の問題もあり、まだあまり多くはありません。内燃機関が禁止されるギリギリまで乗り続けるとおっしゃるお客様が大半ですね。水素で動くMIRAIへのお問合せはいまのところはありません。
つい15年程前までは、自動車だけではなく家電も日本製品が重宝されてドイツ市場で大きな販売規模を誇っていましたが、いまやそのポジションは韓国製品に代わってしまったのを肌で感じています。ドミニク社長とレーシングドライバーの弟マリオ(ホンダのワークスドライバー)は幼少期から日本車の大ファンで、スープラRZやMR2、LFA等をはじめ、スバル インプレッサ22B STI、三菱ランサーエボリューションVIトミー・マキネンエディションや日産R32型スカイラインGT-R V-SpecⅡ、R34型スカイラインGT-R V-SpecⅡNürなど、9台の日本車を全てナンバー登記してコレクションしているのだそう。かつて日本車に憧れたドイツ人の夢が詰まっていており、免許を取ったら絶対に乗りたいと、幼い頃に憧れたクルマを買う事を目標に二人でコツコツ貯金をしていたと言います。まさしく自動車とはエモーショナル! いまも80~90年代の日本車を大切に乗り続けているドイツ人は多いんですよ。
この記事を書いた人
武蔵野音楽大学および、オーストリア国立モーツアルテウム音楽院卒業。フリーランスの演奏家を経て、ドイツ国立ミュンヘン大学へ入学。ミュンヘン大学時代にしていた広告代理店でのアルバイトがきっかけでモータースポーツの世界と出会い、異色の転身へ。DTM、ル・マン/スパ/ニュルブルクリンクの欧州三大24hレースを中心に取材・執筆・撮影を行う。趣味は愛車のオープンカーでヨーロッパのアルプスの峠をひたすら走りまくる事。蚤の市散策。
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