ブランドのフラッグシップと言えば、最先端テクノロジーの採用はいうまでもなく、音や振動を抑えた快適な居住空間、さらには上質な乗り心地と卓越したドライビングプレジャーが必須となってくる。アプローチこそ異なるが、この両車のフラッグシップたる所以を紐解いてみる。
ハイテクの塊とドライビングファン
ドイツ御三家がしのぎを削るトップセグメント、その日本での導入状況を振り返ると、アウディA8は2018年にフルモデルチェンジした4代目を販売中、BMW7シリーズは6代目のLCI、すなわちマイナーチェンジ版を2019年に販売開始している。メルセデスのSクラスは本国でこの秋に7代目が発表されており、日本にも来年には上陸する予定だ。今回は端境期となるSクラスを除いた、A8と7シリーズに焦点を当ててその個性と妙味を探ってみた。
ASF=アウディスペースフレームとクワトロ、この2つのキーテクノロジーと進化を共にしてきたA8は、この世代ではそこに乗員の安全性や快適性をサポートする先進技術が加わり、他類のない味わいがもたらされている。その最たるところとして挙げられるのが、プレディクティブサスペンションやダイナミックオールホイールステアリングといったシャシーコントロールデバイスだ。
プレディクティブ、いわば予見的と名付けられたサスは、各輪リンクに装着された高トルクの電動モーターを介して車高を瞬時に制御、この機能を標準装備のアダプティブエアサスとリンクさせることで、高次元なフラットライドを実現する。そこにカメラやレーザー、ソナーなどのセンシングデバイスで得た情報に基づいたフォワード制御を加えることで、新次元のアクティブボディコントロールを実現しているわけだ。
乗員の乗降時には車高を40mm持ち上げ、乗降を容易にするだけでなく、万一側突の危険を感知した際には同じく車高を80mm持ち上げてヒットをサイドシル側に寄せることで衝撃を分散する。いずれにせよ瞬発力が求められる姿勢制御はモーターだからこそ実現したものだ。乗り心地面においてはサーフェススキャンによるダンピング調整に加えて、モーターは入力に応じてロールやバウンドを各輪独立で抑制する機能も担っている。
その効能を象徴するのは、さながらバイクのようにコーナリングしているかと錯覚するほどのアンチロール制御だが、一方でドライブモードをショーファーに設定すれば、ダンパーの減衰力を弱めて路面アタリを穏やかにしながら、乗員を揺する車体の動きを極力軽減する姿勢づくりをモーターの側でアシストする。加えてダイナミックオールホイールステアリングは最大5度の逆相操舵で低速域での小回り性能を高めるのみならず、同相側の制御でヨーの変動を穏やかにして乗員の負荷を緩めている。
これらがシームレスに連携することで生まれた新たな上質感は、乗り心地のあり方に一石を投じるものかもしれない。デバイスを全て装着すれば100万円を超えるオプションフィーが載ることになるわけだが、A8の魅力のあらかたがここに依っているのも確かだ。
対する7シリーズもアーキテクチャーやADASなど技術的革新に満ちたモデルだが、それでも芯にあるのはドライビング・ファンだ。そして最も高価で満艦飾なM760Li xドライブはその魅力を最大化したグレードでもある。
何といってもその特徴は、今や国内仕様のSクラスやA8では選べなくなってしまった12気筒のN74系ユニットを搭載していることだろう。エンジン始動の滑らかさに始まり、低回転域の振動のきめ細かさやじわりと滲み出すように放たれるトルクの感触、そして高回転に至る艷やかな回転フィーリングやパワーの綺麗な伸びなど、完全バランスの多気筒エンジンでしか味わえない官能性をM760Liではしかと味わえる。
そしてこの巨砲を苦もなく受け止めるシャシーのポテンシャルも見事だ。重量を相殺するライトウエイトデザインのモノコックに加えて、自然なフィードバックの4WDシステムのおかげで、高速でもワインディングでも盤石のトレース性能を披露する。平時は2000rpmも回っていれば全てがこと足りるゆとりの塊でありながら、鞭打てば目の覚めるような敏捷さをみせてくれる。物量がもたらす気持ちよさという旧来からの価値に忠実なM760Liに響かないクルマ好きはいないだろう。
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