始まりは昭和27年(1952年)
バスの事故が大きく報じられるようになったこともあってか、社内運転研修会を開催する事業者も増えてきたようで、専門誌やニュースサイトでその模様が紹介されているのを時々目にします。
奈良交通ではこのような風潮になるはるか以前から安全運転研修に力を入れ過去68回開催しています。
警察、運輸支局関係者も来賓として視察する歴史と伝統ある研修会の第69回目は2020年1月20日(月)に開催されました。
奈良交通社史によると、昭和27年(1952年)11月に運輸省および日本乗合自動車協会(現・日本バス協会)主催で開催された第1回全国バス運転競技会に出場する社内代表を決めるために行われたのが始まり。その競技会がなくなったあとも社内研修会は続き、今回で69回目の開催になったとのことです。
いよいよ精鋭の技を見る
研修会出場には、勤続5年以上で勤務成績優秀、大型車の経験を有する、研修会に参加した経験がない(つまり一生に一度しか参加できない)、という3つの資格要件があります。要件を満たす運転者の中から選抜された営業所代表12名で行われました。
研修は学科と実技種目合計1000点満点で評価されます。
場内だけでなく、何が起こるかわからない一般道路上のリアルコンディション下での走行もあることも特徴ではないでしょうか。
それでは一つずつ見ていきましょう。
●日常点検(運行前点検)(使用車両:いすゞKC-LT233J)
定められた時間内で、日常点検(運行前点検)実施要領に従い各点検箇所を順序正しく正確に点検し、仕込まれた不良箇所を発見できるか? 点検箇所にはワンマン、サービス機器も含まれます。
●基本運転
基本運転は、奈良交通自動車教習所コースにロープやポールで作った特設コースで行います。
定められた時間内に、車体前後の空きが狭いスペースを2往復して4.5メートル以上寄せます。タイヤがロープを越えてはなりません。
最後に、車体と並行に設置された黄色いロープから車体までの距離を計測します。前後輪とも計測しきっちり並行になっていることも重要。
2.連続直角(使用車両:いすゞKC-LT233J)
定められた時間内に、切り返し連続直角コースを通り抜けます。右直角そしてすぐの左直角を通過するいわゆるクランクなのですが、普通のクランクと違うのは一度切り返さなければ通過できない狭いコース設定になっていること。
発車したら直後の右直角を曲がって一旦コース端まで進み、バックしてから左直角を曲がる、という手順。
巾寄せと同じく黄色いロープを踏み越えてはなりません。切り返すときのギリギリのロープタッチ、直角の外側のロープすれすれ、内側の角をなめるように通過させる技に息をのみます。
定められた時間内に、一定間隔のポールの間を縫って前進後退します。もちろん、ポールタッチやコースはみ出しは減点。
●街路運転
(使用車両:いすゞQPG-LV234N3(乗合)日野PKG-RU1ESAA(観光)
法規の遵守、運転態度、操作の良否をチェックされます。
1.踏切の通過
教習所常設の仮想踏切の通過です。一旦停止し、窓を開け、「車内ヨシ、警音器ヨシ、左ヨシ、右ヨシ、前方ヨシ、発進ヨシ!」と、確認して通過するのが正規の手順。
2.登坂前進中の円滑な停止および停車位置の良否
坂道中に設定されたポイントで一旦停止し、発車します。ポイントにいかにピタリとショックなく停止させられるか、そこからいかに後退や飛び出しショックなく発車できるか?素早く且つ丁寧な操作が問われる場面です。
3.停留所での円滑な停止及び停車位置の良否(平行停止・乗合運転者)
奈良営業所内特設停留所への滑らかな平行停止。路端までの距離が規定以内且つ全後輪で差がないこと。バックは禁止。
この項目は一般道に出て行います。できる限り等速運転を心がけて指定区間を適切な速度と時分で走行し、加減速および左右ハンドル操作の際のGを測定します。何が起こるかわからない実際の道路上でのあれこれに対応しながらスムーズに走行させ、案内放送も行うという最も実践的な項目。
研修会の講評では、走行速度が遅すぎ、信号予測ミス、合流でのもたつきが見受けられることがあったとの指摘がありました。速度は制限速度以下ならいくら遅くてもいいということではなく他の交通を邪魔しないことが大事だということ、信号予測は主に急ブレーキ防止のため。すべては自車だけでなく他車の安全走行にも配慮するための重要な点。
5.高速走行およびサービスエリアでの駐車、乗客案内(観光バス運転者)
6.“お客様第一”の社是を理解し、乗降案内の際に適切なマイク活用をする(車いす取り扱い(乗合運転者)・乗客への案内誘導(観光運転者)
乗せる→固定する→降ろすという動作をいかにていねいに親切に車いすの乗客を接遇できるか。繊細さが問われる場面。スロープの出し入れ作業前には乗客にその旨予めことわる心配りも。
最優秀運転者の言葉に痺れた
栄えある最優秀運転者の称号を得たのは、京都営業所所属の慶山泰伸運転者。歴代最高得点999点での受賞でした。
優秀運転者には奈良営業所所属の塩入諭運転者、北大和営業所所属の小原達也運転者、平城営業所所属の岩田幸雄運転者が選ばれました。おめでとうございます。
受賞された運転者の方々にお話を伺ったところ、皆さんに共通していたのは、5日間の研修で基本を見直すことができたことが大きく、明日からの業務に新たな気持ちで臨めると仰っていたこと。
インタビューの中で感銘を受けたのは次の言葉でした。
「日常生活には気を付けています。運転業務に影響があるので」(運転業務で最も気を付けている点は?という質問に対する慶山泰伸運転者のお答え)
「緊張していたためシートポジションのセッティングを間違えたことによる細かいミスがありました」(研修会を振り返って反省点は?という質問に対する岩田幸雄運転者のお答え)
プロを感じました。バス運転者は尊敬に値する職業だと再認識した次第です。しかしこれはバス運転者に限らず自家用車のドライバーにも当てはまる大事な心構えだと思います。
バスに乗っているときにいい運転だなと思ったら名札を見てください。もしかしたら優秀運転者の称号をもつ運転者かもしれませんよ!
(取材・写真・文:大田中秀一)
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