今でこそランボルギーニやジャガーなどのスポーツカーメイクスがSUVをラインアップするが、SUVにスポーツカーの概念を持ち込んだのは、紛れもなくポルシェ・カイエンだ。その最高位カイエン・ターボは、我々にどのような世界を見せてくれるのか? レヴァンテ・トロフェオをライバルに向かえ入れ、俊足SUVの世界を覗いてみよう。
並みのスポーツカーなど凌駕するほどの速さ!
SUVに250km/hを楽々超える最高速も3秒台に入る0→100km/h加速タイムも必要ない、と考える人は少なくないだろう。僕もそのひとりだ。でも、それは理性の範囲での話。好きか嫌いかになると様子が違うのだから、クルマ好きってヤツは……である。
マセラティ・レヴァンテの最強版“トロフェオ”は、控えめに表現しても素晴らしく気持ちいいクルマだった。エンジンフードの下に収まるのは、マラネロ謹製の3.8L V8ツインターボ。590psに730Nm。これが強烈に気をそそる。“ノーマル”モードで高速クルージングをしているときなどは猛々しさを露わにすることなく、低速域からたっぷりとトルクを沸き立たせ、優雅で快適なラグジャリーSUVとしての乗り味の演出に貢献しているが、ひとたびワインディングロードに滑り込んでモードを“コルサ”に切り替えでもすると、様相は一変する。
レスポンスは一気に切れ味を増し、車速も予想を超える勢いでグイグイと伸びていく。このモードではエアサスが車高を35mmも低め、ダンパーやAWD、スタビリティ系などを含む車両統合制御システムの全てが瞬時に疾走へ備えた構えとなることもあって、2.3トン超えの車体が面白いように曲がる。とても素直に、気持ちよく曲がる。けれど、そそられるのはそこじゃない。そのときのエンジンの音色や感触の、何と美しいことか! 管楽器の響き。ヴェルヴェットの滑らかさ。これに心を持っていかれないなんて嘘だ。現時点における世界で最もセンシュアルなSUV。そう断言してもバチは当たらないだろう。
対するポルシェ・カイエン・ターボは、控えめに表現しても狂おしいほど馬鹿っ速だった。ポルシェにとって特別な“ターボ”の名前は伊達じゃない。とはいえ、こちらも右足に手心を加えてクルージングしてる分には、レヴァンテ・トロフェオ同様スペックから想像すると拍子抜けするほどに快適で、ふわっと心地好い。が、モードを切り替えて鞭を入れてみると、そこからの豹変ぶりがレヴァンテ以上に激しいのだ。4L V8ツインターボは550psに770Nmとパワーで譲りトルクに優っているわけだが、そのトルクが一気に炸裂するかのように、2.3トン近い車体を容赦なく加速させる。
そしてコーナーでは巧みな制御の効いたエアサスとアクティブアンチロールバー、後輪ステア、そして細かくトルク配分を可変させるAWDのなどの組み合わせが、重量級SUV“っぽさ”の全く感じられないコーナリングパフォーマンスとスーパースポーツカー的なソリッドなフィールを、これでもか! といわんばかりに味わせてくれる。
レヴァンテ・トロフェオのような心の琴線を弾く類の快感こそ薄いが、むしろそうしたロマンティシズムの世界を横目で見ながらあらゆる要素を冷徹にスピードへと繋げるクルマ作りには感服する。その徹底ぶりと得られた結果が何ともいえずポルシェらしい。現時点における最もスピードとの親和性が高いSUVなのは、間違いない。大きく重く重心高も高いSUVはクルマでスポーツするには不向き、楽しく気持ちよく走るのは無理、というのは今や昔の話なのだ。
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