ブランド初の市販BEV、スペクターから紐解く究極のラグジュアリーカー「ロールス・ロイス スペクター」

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いつの時代もラグジュアリーカーの最高峰として君臨し続けるロールス・ロイス。その最新モデルあるスペクターに触れつつ、同車がなぜ“究極の”ラグジュアリーカーたり得るのかを紐解いていこう。

いつも特別であり続けるロールス・ロイス

そのクルマが特別なオーラを放っていることは、遠く離れたところからでも、ひと目見ればわかるはず。そして歩み寄って子細に眺めれば、そのクルマがこれほどまでに特別な存在であることの理由に気づくだろう。

スペクターは全長約5.5mの伸びやかなスタイリングを持つドライバーズクーペだ。前後ホイールハウスの間に入るキャラクターラインである「ワフトライン」は、ヨットからインスピレーションを受けてデザインされたという。

ロールス・ロイス・スペクターに用いられている素材、そのクラフトマンシップ、そしてデザインは、ほかのどんな自動車メーカーの製品にも見ることのできない、極めて上質なものである。

なにしろ、その優雅で伸びやかなプロポーションからして、ボディサイズに制約があれば実現できない種類のもの。さらにいえばボディパネルや塗装の質感にも目を見張らされるし、そのデザインや仕上がりにしても最上の美意識で作り上げられていることが直観的に理解できる。“パンテノン神殿”に例えられるフロントグリルと、その上に鎮座するマスコットのスピリット・オブ・エクスタシーは、どちらも神々しいばかりだ。

「スペクター(SPECTRE)」の車名は英語で幽霊・妖怪を表す言葉で、過去にはテストカーなどのコードネームにも用いられたが、市販車に命名されるのは初となる。

同様の驚きと発見は、キャビンに乗り込んでからも続くことだろう。まずはレザーのあまりに優しい手触りに感銘を受けるはずだし、あえて大ぶりなサイズで作られたスイッチ、ノブ、エアベントなどもホンモノの素材で手間ひま惜しまずに作られたことが目にした瞬間、もしくは手で触れた瞬間にわかるはず。そして体重を預けたとき、これ以上ないくらい心地よく沈み込むシートに腰掛ければ、まさに天にも昇るような喜びと満足感が味わえるだろう。

象徴ともいえるスピリット・オブ・エクスタシー、スペクター用のものは空力性能の高めるため形状が若干改良された。

どうしてロールス・ロイスはこれほどまで特別な存在なのか?

スカッフプレートの下には重厚な銘板が入る。

その真の理由を理解するには、ロールス・ロイスの創業者であるチャールズ・ロールスとヘンリー・ロイスについて知ることが、いちばんの近道である。

前後に搭載されるモーターは584ps/900Nmを発揮。その気になれば0→100km/hをわずか4.5秒でこなすスペックを誇る。

ロールスとロイスの生い立ちはまったくといっていいくらい対照的で、ロールスは貴族の出身、ロイスは9歳にして仕事に出なければいけないほど貧しい家に生まれた。ただし、早くから自動車に関心を抱いた点では共通していて、ロールスはフランスやベルギーから自動車を輸入・販売する会社を友人のクロード・ジョンソンと立ち上げたほか、エンジニアとして身を立てていたロイスは自分が購入したフランス車の完成度が低いことに驚くと、自らエンジンを開発することを決意。1904年には、自身の手で作った自動車のテスト走行を成功させていた。

タイヤサイズは前後ともに255/40R23だ。

それでも、ロールスとロイスはともに「よりよいクルマを多くの人々に届けたい」という夢を持ち続けていた。ロイスは改良型の“10HP”を開発する構想を温めていたし、ロールスは海外から自動車を輸入することにむなしさを感じ始めていた。そんなとき、ロイスが主宰する自動車メーカーの株主だったヘンリー・エドモンズは友人のロールスをロイスに紹介。ロイスの10HPを目にしたロールスはものの数分でその価値を認め、今後はロイスが製作したクルマをすべてロールスの会社で販売する約束を交わしたという。そしてそのとき、製品に冠するブランドとして考案されたのがロールス・ロイスだったのである。

いつの時代も完璧な自動車を追い求めてきたロールス・ロイス。

そんなふたりが「世界最高のクルマを作ること」を目指したのは当然のことといえる。ライバルが作るどんな製品よりも優れているだけでなく、妥協を許さない理想のクルマを作り上げるというロールス・ロイスの思想は、こうして誕生したのである。

身体全体をやさしく包み込むような、優しく上質なレザーの感触はまさにロールス・ロイスならでは。ヘッドレストにあしらわれる、RRロゴの刺繍ひとつとっても職人の精緻な作業が光る。

自動車黎明期の文化が今に続いている

もうひとつ、ロールス・ロイスのクルマ作りを語るうえで忘れることができないのが“ビスポーク”である。ビスポークとは「誂(あつら)える」ことで、イギリスでは紳士服や靴を誂えるのが上流階級のたしなみとされてきた。

ステアリングレザーも、その手に吸い付くような感触でいつまでも握っていたくなる。シフトレバーはコラム式で、通常のD(ドライブ)レンジのほか、アクセルオフ時の回生力を強めるBレンジが用意されている。

馬車の文化から発展して生まれた高級車の世界も同様で、内装の素材やデザイン、果てはボディの形状に至るまで、顧客が自由にオーダーできるシステムが存在した。ただし、これはシャシーやパワートレインを自動車メーカーが、そしてボディをコーチビルダーが製作していた戦前であれば実現できたことだが、戦後になってボディとシャシーを自動車メーカーが一貫して製作するようになると、ボディをビスポークする文化は急速に廃れていく。

スペクターではロールス・ロイス初となるフル液晶画面のメーターを採用している。液晶化により表示の自由度は増したが、過度な演出には頼らず、アンダーステイトメントに徹している。

しかし、ロールス・ロイスは富裕層の要望に応じて内外装を作り込むビスポークの文化を守り続けた。こうして、自動車ではあまり一般的でない超高級な素材を熟練の職人がひとつひとつ仕上げるクラフツマンシップが理想的な姿で受け継がれたほか、顧客の要望をダイレクトに受け入れる文化が定着。これが、さらなるクオリティやデザイン性の向上に結びついていったことは否定できない。

ラゲッジルームはキャビンとして独立。側面・天面を含めて毛足の長いカーペットが張り巡らされており、荷物保護にも貢献するほか、静粛性の向上にもひと役買っていそうだ。

最後に、スペクターにまつわるエピソードをひとつ披露したい。

センターコンソールのスイッチ類は近年のロールス・ロイスではお馴染みのもの。

創業者のひとりであるロイスは14歳にして鉄道会社に職を得る。そこでエンジニアとしての才能を発揮した彼は、エレクトリック・ライト&パワー・カンパニーへと転職する。つまり、ロイスは電気系技術者としてエンジニアの道を歩み始めたのである。

インフォテイメントには「SPIRIT」という最新デジタルアーキテクチャーを採用。

いっぽう、1900年にまだ黎明期にあった電気自動車を試したロールスはいち早くその将来性を看破すると、次のように語ったと伝えられている。

ルーフに満天の星空を作り出す「スターライト・ヘッドライナー」は近年のロールス・ロイスの中でも人気のオプションだ。職人がひとつひとつ、ルーフレザーに800〜1600の穴をあけ、そこに何百本もの光ファイバーを通すことで、この星空は生まれている。

「電気自動車は騒音が皆無なうえにクリーン。いやな匂いも振動もない。もしも充電施設が充実したら、それはとても役に立つ乗り物になるだろう」
いかがだろうか?

ドア開口部にはお馴染みとなる格納式のアンブレラ(傘)を装備。

完璧な自動車を追い続けてきたロールス・ロイスの100年を越す歴史は、一面において、このスペクターに辿り着くための道のりだったともいえるのだ。

ドアパネルやインストルメントパネルに用いられるのはチューダーオークのベニヤだ。

助手席側のダッシュボードはこれまた美しいイルミネーテッド・フェイシア仕上げ。

高級車の証であるアナログ時計も備わる。

デモカー「シルバー・スペクター」

長いロールス・ロイスの歴史の中で「スペクター」の名が使われたのは、1910年に開発されたデモカー「シルバー・スペクター(写真)」が最初だ。さらに1930年代には後のファントムIIIのテストカーとしてもスペクターのコードネームが使われている。

【SPECIFICATION】ロールス・ロイス・スペクター
■車両本体価格(税込)=48,000,000円
■全長×全幅×全高=5475×2144×1573mm
■ホイールベース=3210mm
■車両重量=2890kg
■モーター形式/種類=ー/交流同期電動機
■モーター最高出力=584ps(430kW)
■モーター最大トルク=900Nm(91.8kg-m)
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■一充電航続可能距離(WLTP)=530km
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/エア、後:マルチリンク/エア
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:255/40R23
問い合わせ先=ロールス・ロイス・モーター・カーズ東京 TEL03-6809-5450 ロールス・ロイス・モーター・カーズ横浜 TEL0120-188-250 ロールス・ロイス・モーター・カーズ大阪 TEL06-4393-8823 ロールス・ロイス・モーター・カーズ名古屋 TEL052-744-0304 ロールス・ロイス・モーター・カーズ広島 TEL080-832-3666 ロールス・ロイス・モーター・カーズ福岡 TEL092-434-3500

フォト=郡 大二郎 ル・ボラン2024年12月号より転載

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