実際の購入時に、この2台を比較検討することはないかもしれない。しかし、威風堂々としたデザインと、ラグジュアリーモデルに相応しい乗り心地、最大7人乗りを可能とする高い実用性といったラージSUVの魅力は共通。というわけで、その実力を検証するべく、都内を出発しショートトリップに出かけてみた。
アメ車らしい高級感が満載のエスカレード
「大きなボディで3列シートのSUV」というくくりに入っているからといって、キャデラック・エスカレードとBMW X7の資料を並べて腕組みしながら、どちらにしようか思い悩む方はほとんどおられないだろう。けれど、エスカレードの廉価版の価格は1640万円で、X7のM60i xDriveは1698万円だから、ほぼ同額の予算内の商品として「こんな選択肢もあるのか?」と、ちょっとしたお驚きや発見は見出せるかもしれない。
なお今回の試乗車は、エスカレードが「エスカレード・スポーツ・25アニバーサリーエディション」と呼ばれる限定15台の特別仕様車で、価格は1810万円。X7はX7 xDrive 40d エクセレンスで、本体価格は1390万円。これに例によって小さいクルマ1台分くらいのオプションが付いていて、総額は1623万9000円。エスカレードとの差は、「わずか」187万円である。
初めて現行のX7と対面した時の第一印象は「デカいなあ」だった。全長は5mを超え、全幅は2m、全高も1.8m強で、ホイールベースは3m以上もある。ところがエスカレードと並べてみたらその印象は「小さっ」に取って代わり、「デカいなあ」の印象はエスカレードへ移行した。人の印象なんて相対比較でいとも簡単に逆転するものなんだなと改めて実感した。
エスカレードのボディスペックは全長5400mm、全幅2065mm、全高1930mm、ホイールベース3060mm。大きいと思っていたX7よりもさらに230mm長く65mm広く95mm高い。このボリューム感は、エスカレードの乗り心地や操縦性といったすべての性能の印象を根こそぎ置き去りにしてしまうほど圧倒的だ。特に日本の道路環境下では常にその大きさを意識せざるを得ない。まるでこのクルマにはそぐわない場所に無理矢理入り込んでしまったみたいな感覚に陥ってしまう。6畳のワンルームで100インチのテレビを見ているようでもある。
キャデラックといえばかつてはアメリカの高級フルサイズセダンの象徴だった。アメリカ人のみならず日本人だって映画やドラマの中で、その伸びやかでエレガントなスタイルに憧れたものだった。ところが現在はラインナップのほとんどがSUVを占めており、エスカレードはいつの間にかキャデラックのフラッグシップとなった。
車内には本革とリアルウッドがふんだんに使用されている。高級感の演出としてはもはやひと世代前のやり方と言えなくはないものの、“アメ車”らしい空気感が広い空間に充満している。いっぽうで、すべて合わせると38インチもの面積になるOLED(有機発光ダイオード)を採用し、先進技術の投与にも積極的だ。3列目シートへアクセスするために2列目シートを畳むことができるが、2列目はキャプテンシートで両脚の間には十分なウォークスルーのスペースがあるので、そこを歩いて3列目へアプローチしたほうが早い。ボディが大きいと、こういうメリットもある。
意外と知られていないようだけれど、エスカレードが搭載する6.2LのV8はシボレー・コルベットのユニットと同型である。コルベットのそれはドライサンプで、OHVとは思えないほど気持ちいい吹け上がりを示すスポーツカーにふさわしいユニットだが、エスカレードのV8はジワジワとトルクが染み出てくるようなOHVらしい質感を備えている。遮音/吸音が徹底されているので、エンジン音はあまり聞こえず、10速ATもいつ変速したのか、いま何速に入っているのかまったくわからない。それでも2.7トンを超える車体を悠々と運んでくれる。
マグネティックライドコントロールのダンパーと空気ばねを組み合わせたエアサスは、凪の洋上にかぶヨットのような乗り心地をもたらす。いっぽうで、路面状況によっては22インチのタイヤ&ホイールが途端にバタバタするし、操縦性は早い切り返しなどでリアの追従性に若干の遅れが生じたりもする。重さやサイズといった物理的要因によるものと推測できるが、それを「やむを得まい」としてそのままよしとしている大らかさもアメ車らしい。
“駆けぬける歓び”はX7に乗っても味わえる
そこからX7に乗り換えると、「やっぱりなんだかちゃんとしているなあ」と思ってしまう。3Lの直列6気筒ディーゼルは組み合わされたモーターがディーゼルの苦手な領域をカバーすることで、低回転域からシームレスな加速を実現。エスカレードと同じエアサス+22インチ(オプション)にもかかわらず、バタつきはほとんど感じられない。大きなボディのばね上の動きは、カメラを使って迫り来る路面の状況に対して最適な減衰力で対処するエグゼクティブ・ドライブ・プロや、ロール方向の動きを緻密に制御するアクティブ・ロール・スタビライザーなどにより最適化が図られている。そして長いホイールベースは後輪操舵が対応するなど、物理的に不利な部分のほとんどを、電子デバイスを使って相殺している。
ここまでやられると、電子デバイスがないとまともに走れないのか? と勘ぐりたくもなるけれどそれはともかく、おかげで例えば形もサイズもまったく異なる3シリーズから乗り換えても、X7は似たような臭いのする乗り味にきちんと仕上がっている。まさしくこれこそが、「駆けぬける歓び」はどれに乗っても味わえるというBMWのコンセプトを具現し証明している。
内装の仕立ても上等だ。メルセデスを意識しているのかもしれないが、昨今のBMWの室内は以前に増してラグジュアリーな雰囲気に溢れている。個人的にはちょっとキラキラし過ぎな感じもするけれど、彼の国の人たちにはきっと大歓迎されるのだろう。
この2台を比べると、X7は正真正銘の優秀なクルマだが、エスカレードはクルマというよりも“エスカレードという乗り物”のような気がした。通常のクルマの評価軸が通用しない、あるいはそもそも通常の評価軸ではかること自体があまり意味をなさないのでは? とすら思ってしまう。これらからの時代を想うとX7のようなクルマの台頭は必然だろう。それでもOHVと最小限の先進技術で勝負しているエスカレードには、少しでも長生きして欲しいと願う。
【SPECIFICATION】CADILLAC ESCALADE SPORT 25th Anniversary Edition
■車両本体価格(税込)=18,100,000円
■全長×全幅×全高=5400×2065×1930mm
■ホイールベース=3060mm
■車両重量=2730kg
■エンジン種類/排気量=V8OHV16V/6156cc
■最高出力=416ps(306kw)/5800rpm
■最大トルク=624Nm(63.6kg-m)/4000rpm
■トランスミッション=10速AT
■サスペンション(F:R)=ダブルウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=275/50R22:275/50R22
問い合わせ先=GMジャパン TEL0120-711-276
【SPECIFICATION】BMW X7 xDrive 40d Excellence
■車両本体価格(税込)=13,900,000円
■全長×全幅×全高=5170×2000×1835mm
■ホイールベース=3105mm
■車両重量=2560kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2992cc
■最高出力=340ps(250kw)/4400rpm
■最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/1750-2250rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ダブルウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=285/45R21:285/45R21
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437
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