常に時代に先駆けて革新的な技術を採り入れ、世界のプレミアムセダンの指標とされてきたEクラス。日本におけるラインナップも出揃ったところで(AMGを除く)いったいどのモデルを買ったらよいのかお悩みのアナタに、コンシェルジュが優しくアドバイスいたしましょう。
メルセデスにとって起死回生のモデル
そもそも「Eクラス」と呼ばれるようになったのは、124シリーズの途中からだった。1993年に190Eがフルモデルチェンジをして「Cクラス」と名乗るようになり、それに合わせて例えばそれまでの“500E”は“E500″となった。190Eが登場するまでは、Eクラスの先祖といわれるW120(ポントン)から123シリーズまでがメルセデスのもっともコンパクトなモデルとしての役割を担ってきた。ただ、“Eクラス”の初代となると124シリーズということになる。
そこから数えて6代目となるのが現行のEクラス(214シリーズ)である。プラットフォームはSクラスやCクラスと同じMRAIIを共有しワゴンも同時発表。パワートレインはすべて電動化され、EQシリーズのMBUXハイパースクリーンをややコンパクト化したMBUXスーパースクリーンが選べるようになっている。また、最新のメルセデス専用OSを採用し、ZOOMなど幅広い種類のアプリを使えるようにもなった。
いまやC/E/Sクラスに昔のような明確なボディサイズと価格の差が消滅し、真ん中にいるEクラスの存在は希薄になっていた。そんな折りに満を持して登場した現行Eクラスは、メルセデスにとって起死回生のモデルなのである。
乗り心地の面ではE220dに軍配
現行Eクラスの日本仕様のエンジンは、現時点で実はたった2種類しかない。ガソリンはE200もE300もE350eもすべて「254M20」の型式を持つ1997ccの直列4気筒、ディーゼルはE220dが積む「654M」、1992ccの直列4気筒のみとなる。PHEVのE350eを除くエンジンはすべてISG仕様で、ガソリン仕様は制御プログラムによって出力とトルクの値を変えている(ISGのモーターの出力/トルクはすべて同値)。
E200アヴァンギャルドはEクラスのいわゆる廉価モデルという位置づけである。そうはいっても車両本体価格はかろうじて900万円を下回る894万円。いっぽうディーゼルのE220dアヴァンギャルドは921万円。標準装備品目もまったく同じで、今回の試乗車は2台ともオプション装備品まで同一であった。
E200のパワースペックは最高出力204ps/5800rpm、最大トルク320Nm /1600-4000rpm、E220dは197ps/3600rpmと440Nm /1800 -2800rpm。最高出力はE200のほうが7ps上回るが最大トルクはE220dのほうが120Nm上回る。一般的に出力は最高速に、トルクは加速に効くと言われていて、「力強い」と人間が感じるのは加速のほうである。この2台の動力性能を比べると、確かにE220dには力強い加速感を感じることができる。E200のほうが最大トルクに達する回転数が低いもののその差はわずか200rpmに過ぎず、おそらくその時点の回転数ならE220dのほうがすでにE200の320Nmよりも多くのトルクを発生しているだろう。ガソリンの4気筒エンジンの魅力のひとつに、吹け上がりの気持ちよさなどが挙げられるが、残念ながらE200の4気筒はシュンシュンと軽々回るタイプではない。
しかし、操縦性に関してはE200のほうが軽快だ。実際、試乗車両重量はE220dが1920kgであるのに対してE200は1840kgで80kg軽い。前後重量を見てもE220dは1010kg/910kg、E200は970kg/870kgで、特にステアリングを切ってすぐに向きを変え始める鼻先の軽さをE200には感じる。ステアリングレスポンスという観点ならE200に軍配が上がる。
判断に困ったのは乗り心地である。同じタイヤ銘柄とサイズで、サスペンションも同じはずなのに、E200のほうがばね上の動きが明らかに多かった。重量差が原因かとも思ったが、80kgの違いでここまで乗り心地に差が生じるとは考えにくく、個体差の可能性も捨てきれない。E220dは上質な乗り心地を実現していた。
ステーションワゴンに何を望むかで選ぶべし
E200ステーションワゴン・アヴァンギャルドとE220d4MATICオールテレインのボディスペックを見比べてみると、全長と全幅は同値でありながら、全高はオールテレインのほうが25mm高い。これはエアマチック・サスペンションと呼ばれるエアサスを含む専用セッティングにより、145mmの最低地上高を確保しているからである。
そもそも“オールテレイン”は先代のEクラスから導入されたグレードで、キャンプや釣りなどでオフロードを走る機会の多いユーザーからの声に応える形で登場した。現行Cクラスにもオールテレインがラインナップされているけれど、あちらにはエアサスペンションが装備されていない。それでもノーマルのワゴンよりも最低地上高は高いので、そこそこのオフロード走行は楽しめる。“オールテレイン”を名乗るならエアサスを装備してもいいのではと思ったけれど、実はCクラスだとエアサスを組み込むスペースが構造上確保できないのである。
E200のサスペンションは電子制御式ダンパーと金属ばねを組み合わせたアジリティコントロールサスペンションが標準装備となる。ただし、リアサスのみ金属ばねの代わりに空気ばねが採用されている。これは、ラゲッジスペースの積載量によってリアの車高が落ちたり、乗り心地に大きな変化が出ないようにするための配慮となっている。
足周りや最低地上高の他にも、オールテレインにしかない装備がある。日本仕様のEクラスの中で、4マチックの4輪駆動形式を備えているのは唯一オールテレインだけなのだ。したがって、“Eクラスのヨンク”が欲しいとなると、現時点ではオールテレインの一択しかない。
Eクラスのエアサスはセルフレベリング機構のみならず、120km/h以上で自動的に車高を下げたりする。電子制御式ダンパーとの組み合わせにより、快適な乗り心地も提供してくれる。実際、今回の6台の中ではもっとも乗り心地がよく、同じくエアサス装備の350eよりも快適だった。E200にセダンのような乗り心地は見られず、これならEクラスの名に恥じないレベルだと感じた。
動力性能の差は、前述のセダンの2台と同じ印象である。アイドリング時には基本的にエンジンがストップするが、始動中の振動はややディーゼルのほうが多い。それも気になるほどのレベルではなく、メルセデスはガソリンエンジンでもそこそこの音がするので、騒音に関しては大差ない。そして当然のことながら燃費はディーゼルのほうがよく、満タン時の航続距離は約1000kmと表示されていた。
セダンとワゴンのトップレンジ対決
E350eスポーツ・エディション・スターとE300ステーションワゴン・エクスクルーシブは、セダンとワゴンのトップレンジの仕様である。
E350の車名の「e」はPHEVを示しており、Eクラスではセダンにしか設定がない。他のガソリンモデルと同じ直列4気筒にモーターを組み合わせ、モーターだけで129ps/440Nmを発生。EVモードでの最大航続距離は112kmと公表されている。日本の急速充電システム“チャデモ”にも対応するほか、車外へ電力を供給できる給電機能も備えている。試乗車はオプションのエアサスと後輪操舵も備え、装備も充実していた。
当たり前だけれど、EVモードで走行している時は、パワートレイン由来の振動とノイズがほぼないので心地よい。快適性を重視した高級セダンを作るにあたり、メーカーがもっとも苦労するのはNV対策であり、EVだとこれが自動的に解消できる。エアサスの効果がもたらす優れた乗り心地と相まって、EV走行時は快適至極だ。
エンジンが始動したとしても、途端に騒々しくなるわけではない。室内へのノイズ対策の優先順位がそんなに高くなかった昔と比べると、EVを作るようになって以来メルセデスの静粛性は全般的に飛躍的に向上したと思う。これはワゴンでも同じで、荷室あたりのこもり音などもしっかり対策が施されているようだった。
E350eのシステム出力は312psで、トルクも500Nmは優に超えているだろうから、動力性能自体に不満はまったくない。ただし、ステアリングを左右に素早く切るような場面だと、やはり2・2トン強の車両重量を意識せざるを得なくなる。車両の物理的な動きの重ったるさを軽減するためにも、オプションの後輪操舵は装着する価値がある。
ちなみにBMWのi5の価格は998万円からで、E350eのほうが10万円安い。いざとなればガソリンでも走行できるPHEVのほうが現時点では何かと安心だ。
E300ステーションワゴンにもオールテレインと同様にエアサスが標準装備され、快適性はかなり高い。Eクラスのワゴンは後輪操舵機構は採用されていない。ただし、それでも最小回転半径は5.4mなので、ボディサイズの割によく切れる(後輪操舵付きのE350eは5.0m)。
Eクラスに何を求めるのかは人によって異なると思うけれど、高級セダン/ワゴンとして上質な乗り味を期待するならば、今回の中ではオールテレインやE300ステーションワゴンがそれに近いだろう。セダンのE300もワゴンと同等の装備なので、似たような乗り味になっているはずだ。
【S.Watanabe’s パーソナルチョイス】E220d アバンギャルド
E300ステーションワゴンはEクラスらしい乗り味で、スリーポインテッドスターがボンネットにそそり立つ顔も好みだ。でも、ワゴンは必要ないしディーゼルの燃費は魅力的なので、E220dセダンに惹かれる。
【SPECIFICATION】E200 AVANTGARDE
■車両本体価格(税込)=8,940,000円
■全長×全幅×全高=4960×1880×1470mm
■ホイールベース=2960mm
■車両重量=1790kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1997cc
■最高出力=204ps(150kw)/5800rpm
■最大トルク=320Nm(32.6kg-m)/1600-4000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/55R18
【SPECIFICATION】E220d AVANTGARDE
■車両本体価格(税込)=9,210,000円
■全長×全幅×全高=4960×1880×1470mm
■ホイールベース=2960mm
■車両重量=1870kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1992cc
■最高出力=197ps(145kw)/3600rpm
■最大トルク=440Nm(44.8kg-m)/1800-2800rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/55R18
【SPECIFICATION】E200 STATIONWAGON AVANTGARDE
■車両本体価格(税込)=9,280,000円
■全長×全幅×全高=4960×1880×1470mm
■ホイールベース=2960mm
■車両重量=1860kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1997cc
■最高出力=204ps(150kw)/5800rpm
■最大トルク=320Nm(32.6kg-m)/1600-4000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/55R18
【SPECIFICATION】E220d 4MATIC ALL-TERRAIN
■車両本体価格(税込)=10,980,000円
■全長×全幅×全高=4960×1880×1495mm
■ホイールベース=2960mm
■車両重量=2020kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1992cc
■最高出力=197ps(145kw)/3600rpm
■最大トルク=440Nm(44.8kg-m)/1800-2800rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後255/45R19
【SPECIFICATION】E300 STATIONWAGON EXCLUSIVE
■車両本体価格(税込)=11,390,000円
■全長×全幅×全高=4960×1880×1480mm
■ホイールベース=2960mm
■車両重量=1950kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1997cc
■最高出力=258ps(190kw)/5800rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/2000-3200rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/55R18
【SPECIFICATION】E350e SPORTS EDITION STAR
■車両本体価格(税込)=9,880,000円
■全長×全幅×全高=4960×1880×1485mm
■ホイールベース=2960mm
■車両重量=2170kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1997cc
■最高出力=204ps(150kw)/6100rpm
■最大トルク=320Nm(32.6kg-m)/2000-4000rpm
■モーター最高出力=129ps(95kw)/2100-6800rpm
■モーター最大トルク=440Nm(44.8kg-m)/0-2100rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:245/40R20、後:275/35R20
■関連記事
- 【比較試乗】両ブランドを代表するアッパーミドル。ベンチマークの座は譲れない!「メルセデス・ベンツ Eクラス vs BMW 5シリーズ」
- 【国内試乗】ブランドの先進技術を満載した盤石のアッパーミドル。SもCもいいけれどあえて“Eクラス”を推す理由「メルセデス・ベンツ Eクラス」
TAG :
関連記事
愛車の売却、なんとなく下取りにしてませんか?
複数社を比較して、最高値で売却しよう!
車を乗り換える際、今乗っている愛車はどうしていますか? 販売店に言われるがまま下取りに出してしまったらもったいないかも。 1 社だけに査定を依頼せず、複数社に査定してもらい最高値での売却を目 指しましょう。
手間は少なく!売値は高く!楽に最高値で愛車を売却しましょう!
一括査定でよくある最も嫌なものが「何社もの買取店からの一斉営業電話」。 MOTA 車買取は、この営業不特定多数の業者からの大量電話をなくした画期的なサービスです。 最大20 社の査定額がネット上でわかるうえに、高値の3 社だけと交渉で きるので、過剰な営業電話はありません!
【無料】 MOTA車買取の査定依頼はこちら >>