【比較試乗】ブランドを代表する究極のモデル二台。定番のスポーツカーを駆るなら最強のNAか?最新のターボか?「ポルシェ・911GT3 RS vs BMW・M8クーペ」

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4WDではなく伝統のRRで駆る911のハイパフォーマンスモデルして、992世代で最速・最強を誇る911 GT3 RS。ここでは、同モデルとBMWのレーシングテクノロジーを駆使したフラッグシップスポーツのM8クーペと比較してみた。

9000rpmまでが実用回転域だった

スポーツカーに限らず、パワーユニットはクルマの価値判断において重要な意味を持つ。特に、パワーユニットの電動化が進む中でブランドを代表するこの2モデルは純エンジンを貫いていることに注目したい。ただ、その期限は近い将来に迫っているのだ。

そうした背景があり、ポルシェは現状で実現可能な技術のすべてを投入すべく911 GT3 RSを開発。搭載する4Lの水平対向6気筒エンジンは、クルマ界としても希少なNA(自然吸気式)だ。ポルシェがモータースポーツ活動で培った技術に裏付られているだけに、レブリミットは9000rpmという超高回転型。ベースとなるGT3が積む同系のエンジンに対し、最高出力を15ps上乗せし525psを発揮する。

525psという数値は、スポーツカーとして際立って高いわけではない。だが、刺激の高さはスポーツカーで世界最高レベルだ。なぜかといえば、アクセル操作に対するエンジンの反応が期待を大きく超えているからだ。

PORSCHE 911 GT3 RS/ボディ外板はペイントが施されているので気づかないがフロントリッドとフロントウイングとルーフとドアとリアウイングの一部がCFRP(カーボン繊維強化樹脂)製となり素の911カレラよりも車重は軽量なのだ。

ターボを備えていないため、低回転域から溢れ出すようなトルクが立ち上がることはない。それでも、中回転域になると6300rpmで発揮される最大トルクの465Nm獲得に向けて力強さを一直線で乗せていく。直線の勾配が予想以上に急なだけに、アクセルを踏む足を戻しそうになる。さらに、その先のトルクの落ち込みを抑えることで回転数の上昇によりパワーを稼ぎ出す領域に突入。

そして、加速に弾みがついてくる。同時に、ブォーンという少しばかりフィルターがかかっていたサウンドがコォーンという感じでクリアーになる。正面のタコメーターに視線を飛ばせば、黄色の指針が9000rpmから始まるレッドゾーンを切り裂こうとしているところだ。
実際には、直後にレブリミッターが作動。だが、加速が頭打ちになってもアクセルを踏み続ければ回せるという消極的なリミットではない。弾みがついた加速は、9000rpmまで維持される。つまり、911 GT3 RSのエンジンではパワーがギッシリと詰まり積極的に使えるリミットなのだ。

PORSCHE 911 GT3 RS/走行モードをトラックにすると前後ダンパーの減衰力をステアリング下のダイアル式スイッチにより伸びおよび縮みともに独立して他段階で調整可能だ。

ちなみに、トランスミッションはデュアルクラッチ式の7速PDKを組み合わせる。ファイナルを含めたギア比は911としては高くないので、最高速度は7速で296km/h。7速に入るまでのギア比は超クロスし、9000rpmまでブン回すと1速が80km/hで2速は125km/hに到達。そのため、公道でレブリミットを極める機会はそう多くない。

それでも、このエンジンには価値を見出せる。1度でも超高回転域特性を体験すれば、あの快感を再びと機会を伺うだけでワクワクし続けることができるからだ。そればかりか、実用性さえも期待を超えている。低回転域でも不満のないトルクが得られるため、周囲の流れに合わせて走らせていると1500rpm以下を保つことも日常の場面に含まれる。

PORSCHE 911 GT3 RS/試乗車はセンターロック式の鍛造マグネシウムホイールを含むバイザッハパッケージを装備し4本で8kgの軽量化を実現。パイロットレッド塗装はオプション。

伝統的にMのエンジンは高回転型なのだ

BMWのM8コンペティションクーペが搭載する4.4LのV型8気筒ツインターボも、最後の純エンジンになりそうだ。すでに、最新のMハイパフォーマンスモデルとなるXMはM8と同系のエンジンにモーターを組み合わせるPHEVに進化している。
だが、CO2の排出量のことを考えなければ電動化の必要を感じない。アクセル操作に対する応答性の向上やパワーの上乗せのためにモーターに頼るまでもなく、期待を超える体験が可能だ。

BMW M8 COMPETITION COUPE/M8が積むS63型が純エンジンでいられるのは最後になるかもしれない。XMは同系のS68型にモーターを組み合わせるPHEV。X5 M60iもS68型のマイルドハイブリッドに進化。

応答性については、M8のエンジンはBMWが特許を持つMクロスバンクエキゾーストシステムを採用する。2基のターボチャージャーはVバンクの間に装備され、それぞれに2系統あるタービンの導入口にはバンクをクロスして排気エネエルギーが導かれる。そのため、常に最適な過給効果が維持されるわけだ。
実際に、日常的な場面で走行モードをスポーツ+にすると路面の荒れで足が微妙に動くだけでエンジンが反応。強大なトルクが瞬時に立ち上がり、ギクシャクした走りになることさえある。むしろ、コンフォートのままの方がスムーズに走れるほどだ。

BMW M8 COMPETITION COUPE/M8のインテリアはスポーツカーというよりもラグジャリーカー的に洗練されている。

それでも、アクセルを踏むというよりペダルに与える圧力を少し増すだけで周囲の流れを置き去りにするくらいの加速がこなせる。力強さの圧倒的な余裕は体験できるだけで、その先を試してみたくなり日常から非日常へと移る扉が開いたようなものだ。
こうした積極的な走りへの誘いかけの巧みさは、BMWのエンジンならではの価値だ。誘われるままにアクセルを踏み込めば、中回転域にかけてトルクが一段と盛り上がり刺激の度合いが際立ってくる。しかも、まだその先がある。最大トルクの750Nmは5860rpmまで持続し、高回転域ではパワーが威力を発揮する。

BMW M8 COMPETITION COUPE/エクステリアを含めもう少し見た目のリアルスポーツぶりを際立たせたモデルがあってもいい。

自然吸気式の911 GT3 RSのエンジンと同様に、回転数でパワーを稼ぎ出す領域に突入。同時に、魂動感が効いていたエンジンのサウンドが連続音に変わる。クォーンという胸のすくサウンドを響かせながら、一気に7000rpmオーバーまで到達。ターボを組み合わせても、Mが開発したエンジンは伝統的に高回転型なのだ。
やはり、ブランドを代表する両モデルのエンジンはそれぞれの価値を究極へと昇華させた。電動化を前に、NAかターボかを迷える時間は残りわずかだ。

BMW M8 COMPETITION COUPE/その一方で試乗車は究極といえるMカーボン・セラミック・ブレーキを装備。

【JUDGMENT】ポルシェ 911 GT3 RS
すでに電動化へのカウントダウンに入っているはずという意味では究極のNAエンジンを積む911 GT3 RSを選ぶ最後のチャンスだ。モーターを組み合わせてしまったら9000rpmまでブン回せる超高回転域は期待できない。

【SPECIFICATION】PORSCHE 911 GT3 RS
■車両本体価格(税込)=33,780,000円
■全長×全幅×全高=4572×1900×1322mm
■ホイールベース=2457mm
■車両重量=1450kg
■エンジン種類/排気量=水平対向6DOHC24V/3996cc
■最高出力=525ps(386kW)/8500rpm
■最大トルク=465Nm(47.4kg-m)/6300rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/35ZR20、後:335/30ZR21
問い合わせ先=ポルシェジャパン  0120-846-911

【SPECIFICATION】BMW M8 COMPETITION COUPE
■車両本体価格(税込)=25,260,000円
■全長×全幅×全高=4870×1905×1360mm
■ホイールベース=2825mm
■車両重量=1910kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/4394cc
■最高出力=625ps(460kW)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-5860rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/35ZR20、後:285/35ZR20
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437

フォト=郡 大二郎 ルボラン2024年4月号より転載

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