ここで登場するMBAの3台は、エンジンもボディタイプも3車3様だ。だが、それぞれは各ブランドの中において、スポーツ濃度の高いモデルたち。そんな憧れの存在でもラグジャリースーパースポーツ3台を大胆に比較しよう。
R8は2024年限りで歴史を締めくくる
3ブランドともに、ラグジャリースーパースポーツにおいては注目すべき動向がある。メルセデス・ベンツは、従来型まで同ブランドで手がけていたSLの開発がメルセデスAMGに移行。BMWは、Mハイパフォーマンス・モデル専用だったS系のV型8気筒エンジンを他モデルにも展開。アウディは、自然吸気式のV型10気筒エンジンの締めくくりを図る。
まず、SLは’22年に2Lの直列4気筒エンジンを積む43から日本市場に投入を開始した。高齢のご夫婦が乗る姿が似合うラグジャリー感があった従来型とは一転、荒削りとも言えるエキサイティング感を急上昇させた。
だが、2023年に追加された63は軌道を修正。4LのV型8気筒ツインターボを搭載し585psを発揮するものの、スーパースポーツぶりを重視することはなくラグジャリー感を取り戻してきたのだ。エンジンは低回転域から溢れ出すようなトルクを立ち上げることはなく、力強さを余裕として活用できる設定となる。43ではギクシャクした9速ATのシフト制御も洗練度が大幅に向上し、繋がりはスムーズだ。
サスペンションの設定は、走行モードがコンフォートでも硬めでタイヤがドスッというインパクトノイズを発することがある。それでも、荒れた路面で突き上げを伴うほどではなく高齢のご夫婦が乗っても我慢を強いることはない。ロードノイズについては、ソフトトップのメリットで車内の反響が抑制され耳障りに感じない。
もちろん、スーパースポーツぶりを隠し続けることはない。アクセルを踏み込むと4000rpmまでは、ブ厚くフラットなトルクが持続。その先は、エンジン回転数でパワーを稼ぐ領域に入る。そして、加速が伸びるだけではなく回転数の上昇に合わせて勢いづいてくる。同時にビードを効かせた迫力あるエンジン音が響き、一気にレブリミットの7000rpmに到達。走行モードがスポーツ+なら、アクセルを戻すとバリバリッという破裂音さえ発する。
駆動方式は4WDの4マチックを採用するだけに、日常的な場面ではスタビリティの高さが実感できる。それでいて、ステアリングの切れ味にはダイレクト感があるだけに、コーナーが連続する場面も間違いなく得意だ。
続いてMハイパフォーマンス・モデルは、パワーユニットを再構築中だ。XMは、S系エンジンにモーターを組み合わせたPHEVとなる。そのエンジンは、Mパフォーマンス・モデルのX7とX5のM60iに48Vマイルド・ハイブリッド化して搭載済み。すでにMを冠したモデルは電動化を開始しているわけだが、今回試乗したM8コンペティションは最後になりそうなピュアなエンジン車だ。
4.4LのV型8気筒ツインターボは、625psを発揮する。BMWが特許を持つクロス・バンク・エキゾースト・マニホールドを採用することで、日常的な場面でもアクセル操作に対する応答遅れとは無縁でいられモーターのアシストも必要ナシ。むしろ、走行モードをスポーツにすると応答性が際立ちすぎて路面の荒れで足がわずかに動くだけで余計なトルク変動が起きかねない。
積極的にアクセルを踏み込む場面では、低いギアなら一瞬で7000rpmオーバーに達するほど吹け上がりがシャープだ。シフトアップの瞬間には、ババッという排気の脈動音が重なる。8速ATはデュアルクラッチ式ほど電光石火的ではないが、音の演出によりそのあたりを巧みに補う。
サスペンションの設定は、かなり硬めだ。スポーツでは目視できないような路面の起伏が体に伝わり、スポーツ+にするとヒョコヒョコと縦揺れを起こすこともあるが不快感を覚えるほどではない。
M8でラグジャリー感を望むならグランクーペも選べるため、クーペはスーパースポーツぶりを重視している。それでいて、歯を食いしばって挙動をねじ伏せるようなスパルタンさは要求されない。ステアリングの手応えは走行モードを問わず軽めで、操作に対してシャープな反応を示す。前後重量配分は55対45とBMWとしてはフロントヘビーだが、その負担は少しも感じない。
しかも、駆動方式は4WDのMxDriveを採用しFRも選択可能。そうまでしなくても、4WDスポーツでもオーバーステアに持ち込める。M8は、ドリフト上等のスーパースポーツでもある。
最後は、ミッドシップのスーパースポーツであるR8だ。アウディは最終限定モデルとしてR8クーペジャパンファイナルエディションを投入し、’24年限りで歴史を締めくくる。
今回は、フルオープンになるスパイダーに試乗。エンジンは5.2LのV型10気筒を搭載し、620psを発揮する。ターボを組み合わせず電動化もしていない超ピュアユニットだが、身構える必要はまったくない。低回転域から充実したトルクを発揮するだけに、7速デュアルクラッチ式ATをDレンジにしておくと市街地では1500rpmあたりでシフトアップが繰り返えされる。
前方視界が開けているので、日常の足として使えるほど運転がラクだ。さらに、ソフトトップを開け放てばフロントウインドーに遮られない素通しの視界が得られるだけに開放感も高い。ただ、トップ収納スペース確保のためにシートのスライド量が限られるので大柄な人は運転姿勢が制約される。
サスペンションは、ラグジャリー感を期待しても応えてくれる設定だ。走行モードがダイナミックでも、路面の継ぎ目を通過する際の衝撃をしなやかにいなしてくれる。ペダル操作やステアリング操作に対する荷重移動がわかりやすく、意のままに走らせている実感も高い。そのため、前後重量配分は42対58とリアヘビーだがフロントの荷重が足りなそうな不安感を覚えずに済む。
エンジンは、5000rpmを超えてから自然吸気式ならではの実力を発揮する。パワーは二次曲線的に立ち上がり刺激が高まるだけに、その先を試したくなり自ずとアクセルを踏み続けてしまう。その過程でエンジン音はボリュームを増すだけではなく、トップエンドが迫るとレーシーな機械音が重なってくる。レブリミットの8200rpmまでパワーが炸裂し、2速で110km/hなので公道でも試す機会もある。
それぞれに風当たりが強そうな時代に突入しているが、勢いを失わずに駆けぬけてほしいものだ。
【PERSONAL CHOICE】
AUDI R8 COUPE
ラグジャリースーパースポーツは勢いを失わずに駆けぬけてほしい。スパイダーも魅力的だが男性としては大柄なリポーターは運転姿勢が合わないのでクーペを選択。アクセルを踏み続ければ8000rpmオーバーまでブン回せることができレーシーな快音を聞けば脳内麻薬物質ドバドバ状態になる。
【SPECIFICATION】MERCEDES-AMG SL63 4MATIC+
■車両本体価格(税込)=28,900,000円
■全長×全幅×全高=4705×1915×1365mm
■ホイールベース=2700mm
■車両重量=1940kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc
■最高出力=585ps(430kW)/5500ー6500rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/2500ー5000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:マルチリンク、後:5リンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/35R21、後:305/30R21
問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610
【SPECIFICATION】BMW M8 COUPE COMPETITION
■車両本体価格(税込)=25,260,000円
■全長×全幅×全高=4870×1905×1360mm
■ホイールベース=2825mm
■車両重量=1910kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/4394cc
■最高出力=625ps(460kW)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-5860rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/35ZR20、後:285/35ZR20
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437
【SPECIFICATION】AUDI R8 SPYDER V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO S TRONIC
■車両本体価格(税込)=33,370,000円
■全長×全幅×全高=4430×1940×1240mm
■ホイールベース=2650mm
■車両重量=1760kg
■エンジン種類/排気量=V10DOHC40V/5204cc
■最高出力=620ps(456kW)/8000rpm
■最大トルク=580Nm(59.1kg-m)/6600rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前後:Wウイッシュボーン
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:245/30ZR20、後:305/30ZR20
問い合わせ先=アウディジャパン TEL0120-598-106