復活した自動車リアルイベントとその将来像【自動車業界の研究】

今回は、開催が復活した「自動車リアルイベント」の人々が集うリアルならではの価値、実際にクルマを見たり乗ったりといった魅力について、イベントが企画に始まり会場選定から設営と各種制作、クルマの展示や試乗といった準備から当日のオペレーションまでをプロフェッショナルがそれぞれの役割をきっちり担うことで実現していて、来場者も最終的にイベントの成功に影響をあたえていること。
さらに、一発勝負の「ステージイベント」で数多くMCを担われてきた「岡嶋 泰子」氏と同じく通訳を担われてきた「門谷 彩香」氏にお話しを伺い「自動車リアルイベント」の現在と将来像を中心にコラムをお届けします。

バリエーションに富む「自動車イベント」

一言で「自動車イベント」と言っても様々な種類が存在しており、モーターショーやオートサロンといった主に大都市圏で開催される「大規模イベント」、サーキットを貸し切って走行する「サーキットイベント」、商業施設(東京の六本木ヒルズや横浜の赤レンガ倉庫、大阪のうめきた広場など)に特設会場を設けて行われる「展示イベント」、常設のイベント施設やホテルなどで行われる「発表イベント」、販売会社がショッピングモールなどで行う「販売イベント」、旅行しながら楽しむ「ツアーイベント」、目抜き通りなどをゆったりと走行する「パレード」、そして、オンラインによる「オンラインイベント」など、新型車の発表や展示、試乗といったクルマ関連のPRを中心にイベントを盛り上げる趣向を凝らしたトークショーやミュージシャンによる音楽ライブといった「ステージイベント」、グッズや部品の販売など様々な催しが行われます。
近年はリアルとオンラインで併催されることも増えて、より多くの参加者が楽しめるように工夫されています。

東京モーターショー2015の様子(MAZDA BLOG)

東京オートサロンの様子(東京オートサロン)

イオンモール土浦展示会(茨木トヨタ)

華やかなイベントを支えるプロフェッショナル

「リアルイベント」では来場者が現地で体感するライブ感、瞬間瞬間の感動が大きな魅力でミュージシャンによるライブなどが代表例ですが、その場所でその瞬間を共有した人だけが味わえる一体感や雰囲気、満足感はリアルでなければなかなか味わうことができません。
また、イベントには多くのプロフェッショナルが携わっていて、きっちりとそれぞれの役割として仕事を担うことでイベントは実現されています。

おおまかな「リアルイベント」のプロセスは、先ず企画にあたってイベントを実施する目的や目標を定めてコンセプトが決定され、来場して欲しい対象者や人数から会場を選定、人の導線、展示パネルと什器(設置物)やサイネージ、ステージ、告知(宣伝)など、そして、安全について入念に検討を重ね企画されてイベントの予算が固まります。
イベントの成功には良い企画が欠かせず、数多くのイベントを手掛けてきた責任者やプロデューサーなどを中心に全体企画が検討され、その後、関係者によって綿密に運営スキームやオペレーションの詳細を計画、最終的にはイベントの主催者、経営者の実行及び予算の承認がなされて準備がスタートします。

「自動車リアルイベント」においては、特に展示や試乗に用いるクルマの準備がポイントで搬送や展示に向けた整備やクリーニング、試乗車の適切なタイミングでの給油など、クルマに関わる部分で多くのプロフェッショナルの技が必要とされ、例えば車両搬送時の積み込みから会場への設置、来場者の駅や駐車場、会場内の誘導なども大変難易度の高い職人技と言えるオペレーションが要求されます。
そして、来場者のマナーや催しへの参画、満足によって「自動車リアルイベント」が最終的に成功するかどうかは決定されます。

LEXUS 車両のクリーニング(ジャパンモビリティショー2023)

来場者の誘導(ジャパンモビリティショー2023)

一発勝負の「ステージイベント」

「リアルイベント」では多くの場合において「ステージイベント」も開催されており、商品の発表や紹介などのプレゼンテーションからトークショー、音楽ライブといった様々な催しが実施され、それらは詳細な計画によってそれぞれの役割をプロフェッショナルである各スタッフが担います。
ステージ上ではMCを中心に催しが進行され、テレビの生放送と同様に一発勝負であるため、詳細に検討された香盤表で進行が管理され、会場設営や照明、音響、映像、来場者誘導、ステージの変換や撤収から再準備、他におけるまでスケジュール通りに遂行するスタッフの総合力が問われます。
「ステージイベント」本番では進行を担うMCのスキルや経験、ノウハウが“伝えること”“楽しいこと”“感動すること”などといったイベントの目的や意図、趣をきちんと表現、実現できるかにも大きく影響しますので、お客さまである来場者の満足度やイベントが成功するかどうかに直結すると言って良いかもしれません。

補足までにMCとは「Master of Ceremonies(マスター・オブ・セレモニーズ)」の略称で司会者よりも少し進行運営に自由度と権限を持っている方を示すニュアンスを持ちます。

今回、数々の「ステージイベント」でMCを担われてきた「岡嶋 泰子」氏にお話しを伺ったところ『トークショーなどでは事前に出演者とお打ち合わせができないこともあるため、進行の状況やステージ上の流れに合わせてMCが入る場面を見極めて臨機応変に対応することが必要です』。
また『あくまでもMCはトークショーなどに出演される方をお迎えする側の立場であるため出演者の皆さまには常に気を配り、いかにパーソナリティーを引き出せるかが重要、例えば少しシャイで積極的にお話しにならない出演者の方がいらっしゃれば、MCから先に話し出すことで、その方ができるだけお話ししやすいように話しの流れや場の雰囲気を作っていきます』。
さらに『お客さまや出演者の皆さまをお迎えする側の立場として、毎回、何ができるかをチームで一緒に考えてより良いイベントにできるよう心がけており、今後はリアルだからこそ得られる魅力や楽しさをよりいっそうお客さまに体験していただけるように少しでもお役に立ちたい!』とのことでした。

来場者の立場からすると、ストレス無くスムーズで有意義な楽しい「ステージイベント」であるかどうかはイベント全体の満足度にも関わるため、MCのプロフェッショナルな技や個性は非常に重要です。

MC「岡嶋 泰子」氏

自動車マーケティングとブランド(自動車メーカー)主催イベント

自動車マーケティングの種類を大別すると、マスメディアであるテレビ、ラジオ、新聞、マガジン等の広告によるAbove The Line (ATL)とイベントやダイレクトメール、チラシ、屋外や交通広告〔Out Of Home(OOH)メディア〕、店頭施策等によるBelow The Line (BTL)があります。
さらにはATLとBTLの双方の性質をあわせ持つインターネット、SNSといった手法も存在していて、その中でイベントはBTLのひとつとして自動車ブランドの「マーケティングアクティビティ」として重要です。

各ブランドにおいては、ブランドの理念や商品、サービスの特長や特色、魅力や価値などを訴求するためのイベントが独自に実施されていて、例えばサーキットを貸切って実施される「ハイパフォーマンスモデルのドライビング・レッスンイベント」、贅沢で優雅な旅行をドライブしながら満喫する「ツアーイベント」、イベント会場に最新モデルを展示、試乗もできる「体感イベント」といった具合に数多くの様々なイベントがブランドの戦略に合わせて実施されています。

M ワンメイク・ドライビング・レッスン(BMW)

LEXUS Experience(LEXUS)

そして、イベントの実施には広告代理店の存在が欠かせませんが、同じ広告代理店が異なる様々な業界とブランドを担うにもかかわらず、きちんと各ブランドに合致した企画によってイベントの内容を構成するところもプロフェッショナルの技と言えます。

ブランディング×マーケティング×セールス(ABeam Consulting)

「自動車リアルイベント」の代表格「ジャパンモビリティショー2023」

2023年10月26日(木)~11月5日(日)に「ジャパンモビリティショー2023」が「東京ビッグサイト」で開催されました。
新名称である「ジャパンモビリティショー」としては初めての開催ですが、「東京モーターショー」時代の知見も存分に活かされて、スムーズ且つ混乱も無く終了したと思えます。
名称が「モーター」から「モビリティ」へと変わったことに現在の自動車業界の状況が象徴されていると感じますが、実際に会場には「空飛ぶクルマ」や「船外機」、さらには「グランツーリスモによるe-Motorsports(eスポーツ=エレクトリックスポーツ)」といった多種多様で新しい展示や催しが行われ、モビリティ社会を体現する内容でした。

今回のショーの特徴として、どのブランドにおいてもカーボンニュートラルに沿った電動化などの施策を強調していて、今後は「鉄道車両、電車」も?モビリティショーに入って来るのか?と来場者視点で思わずにはいられませんでしたが、「鉄道車両」の重量や大きさ、さらには業界の概念といった観点からも、そう簡単に融合して次回の開催からとは行かないのかもしれません。

SUBARU AIR MOBILITY Concept(ジャパンモビリティショー2023)

Joby Aviation e-VTOL S4(ジャパンモビリティショー2023)

SUZUKI 4輪×2輪展示(ジャパンモビリティショー2023)

e-Motorsports(ジャパンモビリティショー2023)

今回、「乗りたい未来を、探しに行こう!」をテーマに掲げて自動車業界のみならず他産業やスタートアップも含めて475もの企業や団体によって実施された「ジャパンモビリティショー」は来場者数が1,112,000人に上り、2023-2024「日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会特別賞」も受賞しています。

「ジャパンモビリティショー」および「日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会特別賞」ロゴ(JAMA)

初公開の次世代モデルやコンセプトカー、華やかな「ステージイベント」といった「東京モーターショー」時代からの素敵な催しは受け継がれ、たくさんの来場者が楽しんでいた様相は「リアルイベント」ならではです。

NISSAN ハイパーパンク(ジャパンモビリティショー2023)

TOYOTA 賑わう会場(ジャパンモビリティショー2023)

DAIHATSU 「ステージイベント」(ジャパンモビリティショー2023)

HONDA BEVの活用(ジャパンモビリティショー2023)

ISUZU&HONDA GIGA FUEL CELL(ジャパンモビリティショー2023)

日本を代表する「自動車リアルイベント」として発展、進化していくことが業界内外から期待されている「ジャパンモビリティショー」の次の開催は、これまでの慣例からすると2025年ですが、次はどういった内容で来場者を楽しませてくれるのか?今から楽しみです。

緊張感みなぎる多言語対応

「自動車イベント」では海外からの要人を迎えることも多く、通訳 を介しての説明やディスカッションなどがライブで頻繁に実施されます。
話し手の発言の本質や微妙なニュアンスを来場者(観客)に的確に伝えるためには通訳者の実力や個性が問われ、この点は会場の雰囲気、来場者の満足度にも大きな影響を与えます。

今回、数々の「リアルイベント」で英語、イタリア語、日本語間の通訳を行う「門谷 彩香」氏にお話しを伺ったところ『物事の本質や微妙なニュアンスを的確に伝える通訳を行うためには、まず発言者への理解が必要』、『事前の十分な資料読み込みのみならず、顔合わせを通して、専門的概念、用語、登壇者の方のお人柄やお話しの仕方に慣れ親しむ必要がある』。
また『通訳は語学力以前に、好きな分野や専門性を持つことで初めて効果的になし得る業務』、『ファシリテーション力その他、持ち得るあらゆる能力をその場で組み合わせて発揮する柔軟性も要求される』とのことでした。

これまでに様々な通訳を行ってきた門谷氏らしく『イベントには楽しさが重要で笑いを共有することで人間は最も知能的に繋がり合うことができ、それが楽しさとして知覚される、そのためステージで不意に放たれるウィットやユーモアに富む発言は特に素早く漏れなく最も早く効果的に訳すよう努めていて、会場全体がひとつの暖かみを共有できるようにすることによって、全員が一堂に会する意味、喜びが生まれていく』。
さらに『瞬発力が要求されるという意味ではアスリートに似た感覚』、『次から次へと違ったイベントでの通訳を行うためには毎回次の現場に向けて頭を切り替えられるようにすることも必要』とのことで、人間らしさや人間の魅力を惹き立てるセンスについてのお話しも印象的でした。

瞬間瞬間で問われる通訳のプロフェッショナルスキルにも意識しながら一発勝負のイベントを聴講すると、また違った魅力が見えてくるのではないでしょうか。

通訳「門谷 彩香」氏

「自動車リアルイベント」の将来像

これからの「自動車リアルイベント」はどうなっていくのだろうか? と予想するにあたって「ジャパンモビリティショー(旧 東京モーターショー)」の歴史を例にとって考察してみると、初めて開催されたのは1954年(昭和29年)で当時の名称は「全日本自動車ショウ」、まだテレビ放送が始まって間も無いころ(日本のテレビ放送は昭和28年2月に開始)でクルマについて知るには、モーター誌は存在していたもののクルマが展示されている現地に行って実車を見ることが重要であったため「リアルイベント」は情報伝達において今よりも大きな役割を持っていたと思われますが、インターネットの普及によって情報を誰でもオンラインで手に入れられる時代が到来したことで位置付けが変化してきたと思われます。

しかし、オンラインによる詳細情報の入手や3Dデザイン、動画を見ることが誰でも手軽にできるようになってきた現在においても「リアルイベント」は多数開催され多くの来場者が存在することを鑑みれば、人やクルマがリアルに存在する魅力へのニーズは音楽ライブなどと同様に不変的で、リアルであることの更なる魅力や価値が今後は求められるであろうと捉えています。

では、リアルであることを軸に「自動車リアルイベント」の将来像を検討すると体験できることやその場でしか知り得ない情報、つまり、オンラインで知り得ない情報が得られることなどが今後の「自動車リアルイベント」ではよりいっそう求められると考えられ、音楽ライブのように撮影録音の禁止や他では試乗できないといった秘匿感がポイントになってくると想定されます。

しかし、秘匿感と規模は反比例する傾向にあるため大規模「自動車リアルイベント」は存在意義が問われると考えがちですが、現地に行かなければ情報を得られにくいパーツや物販も多い大規模な「東京オートサロン」の一貫した趣向や根強い人気も納得でき、大規模「自動車リアルイベント」も十分に将来も発展する可能性があると考えられます。

つまり、「自動車リアルイベント」の将来像は現地でしか得られない「モノ」や「コト」がより重要になると想定され、例えば来場者と経営者やエンジニアとのディスカッション、有名人とクルマの撮影会、会場限定のクルマやパーツの販売、自動運転車両や次世代モデルの試乗といった趣向の催しが必然的に増えると予想され、結果的にイベントの定例開催やネームバリューで人気を維持することは難しく、実施内容のプロモーションがこれまで以上に来場者数や人気へ影響を与えると想定されます。

時代の変化に沿って「自動車リアルイベント」の内容が変化、進化することと自動車の内容が変化、進化することは相互に影響するため従来以上に内容が多角化していて来場者のターゲットをどこに置くのか?やコンセプト、特色によって趣向を凝らした「リアルイベント」が今後は求められ、新たなトレンドが生まれると捉えています。

今後も来場者のニーズに応えるため絶えず進化を続けていく「自動車リアルイベント」に期待が膨らみ注目していきたいです。

MITSUBISHI デリ丸(ジャパンモビリティショー2023)

参考リンク)
東京モーターショー2015 MAZDA BLOG
https://blog.mazda.com/archive/20151112_01.html

東京オートサロン
http://www.tokyoautosalon.jp/2024/

茨木トヨタ イオンモール土浦展示会
https://www.ibaraki-toyota.jp/blog/company/detail/1887

BMW M ワンメイク・ドライビング・レッスン
https://www.bmw.co.jp/ja/topics/brand-and-technology/experience/m_onemake_driving_lesson_2023_fsw.html

LEXUS Experience
https://lexus.jp/models/bev/experience/lexus_dining_journey/

JAMA ニュースリリース ジャパンモビリティショー2023が「日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会特別賞」を受賞
https://www.jama.or.jp/release/news_release/2023/2386/

ジャパンモビリティショー
https://www.japan-mobility-show.com/

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