いったい何がはじまったんです!?「710型系・日産バイオレット」【魅惑の自動車カタログ・レミニセンス】第30回

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サニーとブルUの間を埋める新車種

日本の自動車にとって1970年代とは、やたらに新車種が増えて犇めき合っていた時代だったように思われる。車種ごとのクラス分けが曖昧となって重複し、また同じクラスであっても”スポーティ”や”ラグジュアリー”といったユーザーの嗜好に合わせて、異なるモデルが生まれていった。特に、吸収合併した旧プリンス系の車種を抱え込む日産は、その傾向が強かったような気がする。

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1973年1月に登場した710型系バイオレットも、そんな1970年代国産車をある意味代表する車種ではなかっただろうか。それまでのブルーバードがモデルチェンジでブルーバードUとなり(1971年)、車格も少々上級へ移行したことを受けて、サニーとブルーバードUの隙間を埋めるために開発されたのが、この初代バイオレットという訳である。簡単に排気量から考えれば下はサニー(エクセレント)と重なり、上はブルーバードUとも重なるのが、バイオレットであった。しかも1977年の二代目からは、ほぼ同じポジションのまま、スタンザやオースターという兄弟車にまで細胞分裂を起こすのである。

話を初代・710型に戻すと、ブルーバードUがデビューした後も、その先代にあたる510型ブルーバードが併売されていたのだが、バイオレットはそのポジションを引き継いだ形であり、エンジンやドライブトレインも510型のそれを踏襲したものとなっていた。ブルーバードUには営業車が設定されなかったため、その任を受け持ったのも710型系の特徴である。

ボディサイズ的にはブルーバードUよりはもちろん小さいが、510よりも若干大きく、その余裕を活かした丸みのあるスタイリングを採用。特に、ボディサイドを走る優雅な曲線を「ストリームライン」と名付けてアピールした。ボディ形式は2ドアと4ドアのセダン、そして2ドア・ハードトップがあり、セダンとハードトップでは前後グリルのデザインを微妙に作り分けていた。また、ハードトップはリアウィンドウに凹状のガラスを使用していたのが特徴である。

搭載エンジンは直列4気筒OHCのL型のみで、1.4L、1.6Lが存在。シングルキャブ仕様が基本だが、後者にはツインキャブと電子制御インジェクションの各仕様も用意された。レイアウトはむろんFRで、前ストラット/後ろセミトレのサスペンションは510譲りであるが、GLやデラックス、スタンダードといったグレードではリアサスペンションがリーフリジッドとなる。

こうして華々しく登場したバイオレットは、デビュー1年後の1974年1月にバンを加え(これも510ブルーバード・バンの後継である)、バリエーションを充実させるのだが、販売成績はいまひとつ振るわなかったようだ。これは、セダンとしては傾斜の強いリアウィンドウがもたらす居住性の悪さが嫌われたためと言われる。1974年1月にはマイナーチェンジでセダンのリア周りをデザイン変更、L字型のテールランプを横一線の形状に改めた。

1975年9、10月には排ガス規制適合に伴う変更を行ったのち、1976年2月にマイナーチェンジを実施。このとき4ドア・セダンのキャビン後半からトランクにかけてを大きく形状変更し、それまでのファストバック・スタイルから、常識的なノッチバック・スタイルへと改修を施している。ただし、この時点でデビューから3年経過していただけに後期型の生産期間は短く、同年5月に1.4L車の排ガス規制適合を果たしたのち、1977年5月にフルモデルチェンジを行い二代目へと移行したのである。

L字型テールが特徴の最初期型のカタログ
さて、ここでお見せしているのは、前期型バイオレットのセダンのみを掲載したカタログである。発行年月の記載はないが(「3011K」のコードが記されているので、カタログコレクターの方なら判別はつくであろうか?)、その内容からしてデビュー当時のものと思われる。サイズは300×250mm(縦×横)、ページ数は表紙を含めて全30ページ。主要諸元のページが折り畳みになっている以外、特に変わった部分はない。

710型のバイオレットと言えば個人的に思い出すのは、イメージカラーでもある濃いグリーンを纏った4ドア・セダンだ。子供心に、「クーペのような形をした4ドア」という珍しいクルマとしてそれなりにインパクトは強く、立ち止まってじっくり眺めていた記憶があるのだが、その時点ですでに大分古いクルマとなっていたはずである(1980年代前半のことだ)。

子供の頃の記憶では710バイオレットのグリーンはとても濃く暗い色で、「黒板を濡れ雑巾で拭いたときのような色」として覚えていたのだが、カタログで見ると実際のイメージカラーは、深みはありつつも鮮やかなメタリックグリーンだったようである。記憶というものがいかに当てにならないかというその証拠とも思えるが、実際に日差しの具合いでそういう色に見えていたのか、あるいはその個体がそういう色に塗り直されたものだったのか、今となってはわからない。

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