横浜工場がエンジン生産累計4000万基を達成
日産創業の地、横浜工場(横浜市神奈川区)で2023年6月、工場稼働の1935年以来、生産エンジンが累積4000万基を突破した。これに伴い、報道陣向けに横浜工場の生産現場が公開された。
筆者(桃田健史)はこれまで、「GT-R(R35)」用の「VR38DETT」に関する取材などで横浜工場を取材したり、工場敷地内のゲストホールにあるエンジン博物館を個人的に訪れる機会が何度かあった。
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今回の工場視察の目玉は、「VC-ターボ」の生産工程だ。「VC-ターボ」は、バリアブル・コンプレション・レシオ(可変圧縮比)を持つターボエンジンの略称だ。現在、排気量2Lの「KR20DDET」と、1.5Lの「KR15DDT 」の2種類がある。
前者は、インフィニティ「QX-50」、「QX-55」、「QX-60」、そして「アルティマ」といった海外市場向けとして先行開発されたため、日本ではあまり馴染みがなかった。
一方、後者は日本ではシリーズハイブリッドのe-Powerを採用する新型「エクストレイル」に搭載されたことで注目が集まるエンジンである。
VC-ターボのキモは、マルチリンク式の可変圧縮比機構だ。マルチのリンクと称するように、U-リンク(アッパーリンク)、L-リンク(ローワーリンク)、そしてC-リンク(コントロールリンク)の3つのリンクが連動する仕組みだ。
周知の通り、通常のガソリンエンジンではピストンの上限運動がコンロッドに介してクランクシャフトの回転運動に変換される。これに対して、VC-ターボは、エンジンの補器類であるVCRアクチュエーターからA-リンク(アクチュエーターリンク)が作動することで、圧縮比を可変する仕組みだ。
開発担当者によると、4気筒のKR20DDTEと3気筒のKR15DDTでは、それぞれの運動特性に対応してアクチュエーターの仕様などが若干違うという。
また、Lリンクでは高強度材 SCR440Hと真空侵炭を用い、応力集中に対応するため高精度の加工を施すこと、またLリンクではオイル用3mm穴の高精度な加工の重要性について説明を受けた。
さらに、U、L、Cの3リンクの組付け工程を見たり、クランクシャフトのクリアランス調整を実機を触って体験したり、また溶かした鉄をシリンダーボア内部に吹き付けてから鏡面仕上げをする工程を見ることで、生産技術としての「匠の技」の凄みを実感した。
こうした工程を経て最終組付けされる、KR15DDTをe-Power向けの発電機用ユニットで採用したことについて、開発担当者は次のように話す。
「(欧米で先行して普及した)48Vマイルドハイブリッドを飛び越えて(燃費と使い勝手を高めた)電動車を導入することが目的」。
可変圧縮比機構を持つエンジンは、メルセデス・ベンツやボルボ等が試作はしたが、量産では「技術の日産」のみだ。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。
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