レーシングモデル直系、そして自然吸気エンジンのダイレクトな刺激を日常でも味わえる稀有な存在! 「ポルシェ911 GT3」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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まさにピュアなスポーツドライビングを体験したい貴方に!

スポーツカーのベンチマークとして君臨し続けるポルシェ911シリーズの中でも、GT3に乗る時は毎回のように緊張感を伴う。新型が登場するたびにそう思わされる理由は、言うまでもなく身構えが必要なほどの本気度がうかがえるからだ。驚くことに最新のGT3がニュルブルクリンク北コースで叩き出したラップタイムは驚異の7分切り! 6分59秒927という記録を、自然吸気エンジンで達成してみせたのである。

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そんなリアルな数値を事前に知ってしまうと、これまで以上に覚悟が必要だったが、いざ試乗してみると、あまりの乗りやすさに拍子抜けしてしまった。レーシングモデル直系ということを常に感じさせてきた過去のモデルから比べれば、あえて大げさにたとえると、日常の足としても十分に使えそうなほど、新型は扱いやすさが際立つ。

フロントリッドやスワンネック型リアウイングをはじめボディワークには随所にCFRPを採用。軽量化への手立てはウインドーガラスやバッテリーにまでおよぶ。

こう記してしまうと誤解を招くので予めお伝えしておくと、これはあくまでも第一印象。走り慣れたいつものワインディングで徐々にペースを上げていくと、やはり素性は隠せない。生きている! このエンジン、タダモノではない! まるで生き物のような脈動感をドライバーに訴えかけてくるのだ。レーシングマシンのエンジンを究極的に調教するとこうなるというような、まさに高性能ユニットのお手本のような仕上がりに度肝を抜かされた。

エンジンは510ps/470Nmを発揮するNAの4L水平対向6気筒を搭載。トランスミッションは6速MT/7速PDKから選択できる。

510psという最高出力は、年々激化するスーパースポーツカー界においては特別驚くような数値ではないものの、新型911GT3に搭載される4Lフラット6は、レブリミットの9000rpmに向けて果てしなく加速が続くと同時に高揚感を増していくから、速度感を麻痺させる点は要注意。すなわち、車両の安定性がこれまでとは桁違いで、公道では速度計を確認しながらドライブしないと、すぐに“御用”になることは間違いない。

これだけ高い走行安定性が得られる理由は、フロントサスペンションに911シリーズとしては初採用となるダブルウイッシュボーンが奢られていることにある。これはWECに参戦しているミッドシップマシンの911RSRに由来するものだ。長時間レースに向けた対策ということが功を奏しているから、これだけ安定性が高く、しかも乗り心地が悪くないのだろう。何時間も周回を重ねるためにはドライバーへの負担を軽減させることこそ重要と考える今のレースシーンだからこそ、このようなセッティングには納得させられる。今にして思えば、常に上下に身体が揺さぶられた過去のGT3が懐かしく思えるほどだ。

試乗車はフルバケットシートとロールケージを含むオプションのクラブスポーツパッケージを搭載。ドライバー正面のメーターパネルにはトラックスクリーンを採用、サーキット走行に必要なミニマムな情報だけを表示することができる。

とはいえ、車両全体の仕様はレーシングそのもの! 特に今回の試乗車にはクラブスポーツパッケージが装着されているからなおさらだった。シート背後のロールゲージや6点式シートベルトを備えたカーボン製フルバケットシート、さらに消化器までセットされているほか、4段階まで調整可能なRSR譲りのスワンネック式リアウイングや、カーボンルーフ&カーボンボンネットを採用するなど戦闘モード全開だ。
そういう意味では、ポルシェ自慢のPCCB=カーボンセラミックブレーキも相変わらずその制動力は凄まじく、以前から言われるように“宇宙イチ”の効きを実感する。しかし、フロントのローター径が先代の380mmから408mmと強化されているにも関わらず、ブレーキタッチを含めた初期制動がこれまでのGT3よりも扱いやすくなっているのは朗報だろう。エンジンをさほど回さなければ、街中を普通にドライブすることも苦にならないほどだから、かえってその高いフレキシビリティに“本当にGT3なのか?”と時々問いたくなってくる。

それにしてもこのエンジン、今や911シリーズでは唯一の自然吸気式であるとはいえ、そのフィーリングだけを味わうだけでも惚れ惚れしてしまう。先代比で10ps&10Nm(510ps&470Nm)とわずかに上乗せされただけに映るかもしれないが、シャシー性能が驚異的に優れているだけに慣れていくにつれ、自分を抑えるほうが大変。高次元での人馬一体感が得られるだけでなく、実速度と向き合いたくなるから逆にたちが悪いかもしれない。

何しろ、フロントのダブルウイッシュボーンもさることながら、リアアクスルステアが功を奏し、自分が思っている以上にコーナリングが上手くキマる! これを繰り返すから止められないのだろう。しかもコーナーからコーナーへと向かう直進時の安定感も抜群! 一気にブレーキングしてから旋回、そして脱出へのアプローチなどすべてにおいて余裕を感じさせるから当然、公道では物足りなくなる。そう、サーキットで“ビシッ”とニュートラルステアを決めたくなる仕上がりだ。旋回時におけるコントロールも相当、奥が深そうな気がしてならならない。
ゆえに正直、公道では常に欲求不満気味とはなるが、時代の流れから思えば、これは間違いなく正解。なんて偉そうなことを言ってしまい恐縮だが、ライバルの存在を前提に今の時代と重ねて911シリーズ内のヒエラルキーとポルシェの狙いを考えれば、意外にも分かりやすくなった気もする。つまり、カレラシリーズ(カレラS、GTSを含む)は日常からスポーツ走行までバランスよく楽しめる存在。豪快なGT的要素を兼ね備えたのがターボ&ターボS。それらとは別に、よりサーキット志向が強いオーナーに向けてGT3は存在してきたのだが、より明確にGT3RSとの差を設けることで、サーキットとの距離感のようなものを表したかったのだと思う。さらに言えば、GTSからGT3への乗り換えも検討しやすくなったとも例えられるかもしれない。
いずれにしても、これまでポルシェを熟知するベテランオーナーがいずれ辿り着く先がGT3という存在だったが、今回の試乗で少なくともその神話が遠い過去の概念になった気がしてならない。その一方で、“跳ね馬”や“猛牛”のスパルタンモデル(いわゆるスペチアーレ)をこよなく愛してきたオーナーこそ、新型911GT3を試してもらいたいと願う。今まで知りえなかった、真のパフォーマンスと、ドライビングの極意を学ぶことになるだろう。ましてや、自然吸気エンジン搭載車は絶滅危惧種である。しかもGT3はその真髄を味わえるのだから。

【SPECIFICATION】PORSCHE 911 GT3/ポルシェ911 GT3
■車両本体価格=26,280,000円(税込)
■全長×全幅×全高=4573×1852×1279mm
■ホイールベース=2457mm
■トレッド=前1601、後1553mm
■車両重量=1435kg
■エンジン種類=水平対向6気筒24V
■内径×行程=102.0×81.5mm
■総排気量=3996cc
■圧縮比=-
■最高出力=510ps(375kW)/8400rpm
■最大トルク=470Nm(47.9kg-m)/6100rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=前ダブルウイッシュボーン/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前255/35ZR20(9.5J)、後315/30ZR21(12J)

フォト=篠原晃一/K.Shinohara

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2023/06/19 12:00

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