フルサイズ銀河に連なったスラントバック
1960年代前半のアメリカ車には、その前の世代と同様の、滑らかに傾斜したルーフラインを持つ2ドア・ハードトップがいくつかあった。スクエアなスタイリングが主流となってきた1960年代においてそのようなボディを持つ理由、それはストックカーレースにおける空力性能を重視したためだと言われている。1963年型フォード・ギャラクシー500XLに用意されたスポーツ・ハードトップも、その好例である。
【画像23枚】赤ボディに黒ルーフが小粋な500XLとその詳細を見る!
1950年代後半、フォードもご多分に漏れずテールフィンスタイルを採用していたが、低くワイドに生まれ変わった1957年型からのちは、年ごとの変更で四角く、かつ複雑なプレスラインのスタイリングへと徐々に変貌していった。しかし、全面的にデザインを変更した1960年型では、一転してシンプルなスタイリングへとチェンジ。翌年登場する三代目サンダーバードのそれに通じる弾丸のような形のサイドビュー、横向きの鋭いテールフィン、半円形のテールランプなどが特徴のそのスタイルは、それまでのフォードのイメージを一変させるものだった。
だが、1961年型では早くも平凡なスタイリングに路線変更。特徴のないフロントと大きな丸テールのリアというフォードらしいスタイルとなった。これは1962年型でも同様であったが、ここでテールフィンが完全に消滅している。また、それまで使われてきたフェアレーンの名が、この年からは、新たに登場したインターミディエイトのものとなり、フルサイズのフォードは全てギャラクシーを名乗ることとなった。ギャラクシーの上級モデルとしてギャラクシー500を設定、またワゴンについてはランチワゴン/カントリーセダンが車名で、ギャラクシーとは呼ばれない。
1962年の途中でシリーズに加わったのがギャラクシー500XLである。これはバケットシートとフロアシフトを装備するスポーツモデルであり、2ドア・ハードトップとコンバーチブルに設定された。XLの名は「extra lively(超強力)」の意味とされたが、「extra luxury(超豪華)」とも受け取れた。同時に、フォード初のオーバー400-cidエンジンである406ユニット(6.7L、385hpと405hpの2仕様)もデビューしている。
1963年型のギャラクシーは、前年型のスタイリングをより低く、スマートにした形で、ボディ外板だけでなくフロントウィンドウの形状も一新されている。ワゴンもシリーズに含められた一方で、フルサイズの廉価モデルとして、ギャラクシーを名乗らないフォード300というモデルも新設。ギャラクシー系のシリーズ構成は前年同様で、ベーシックなギャラクシー、上級のギャラクシー500、そしてスポーティかつ最上級のギャラクシー500XLからなるが、この年は500XLに4ドア・ハードトップも加わっているのが目新しい。
この年の2ドア・ハードトップはギャラクシー500XLだけでなくギャラクシー500にも設定されていたが、いずれも四角く太いリアピラーのグリーンハウスを持つものである。フォードでは1959年型から同種の形状のルーフを採用していたが(サンダーバード・スタイルなどと称した)、レースでの戦闘力つまり空力性能を重視して、低く滑らかなラインのルーフを持つ2ドア・ハードトップも、1960-1961年型ではラインナップされていた。1962年型ではコンバーチブルに流線形のハードトップを装着することで対処しようとしたが、安全性の問題から、NASCARでは一戦限りで締め出されている。
こうした経緯から、1963年の途中において、スラントバック・タイプの新たな2ドア・ハードトップ、”スポーツ・ハードトップ”が加わったのである。リアウィンドウの傾斜を強め、細いリアピラーを持ったこのルーフは、ギャラクシー500および500XLに設定され、オプションでブラックあるいはホワイトのバイナル・ルーフを選ぶこともできた。
搭載エンジンは、406を拡大した427-cid(7L)がいよいよ登場、これは410hpと425hpの2種類があった。このほか前年と同じ406-cid、390cid(6.4L、300p)、352-cid(5.8L、220p)、289-cid(4.7L、195p)などが存在。289はシーズン途中に、それまでの260-cid(4.3L、164hp)に代わる形で加わったものである。
アニュアルの様相を現代に伝える名作キット
さて、この1963年型フォード・ギャラクシー500XLスポーツ・ハードトップは、AMTから1/25スケールでプラモデル化されている。ここでご覧いただいているのは、このキットを丁寧に制作したものだ。作例については以下、作者・周東氏による解説をお読みいただこう。
「1963年型フォードのカタログ表紙を飾る、赤ボディ/黒ルーフのギャラクシー。いつかはこのカラーで作りたいと思っていた車だ。キットはAMTの1/25。作例で用いたのは、初版と同じパッケージ・デザインで1995年に再販されたもの(No.6003)。かなりのベテラン・キットなので、メッキパーツに荒れ等が目立つのは仕方がないだろう。カスタムパーツが盛り沢山なのはこの時代のキットならではだ。
ボディの全体の感じはとても良い。ワイパーやドアハンドルがボディと一体なのは、この時代のキットでは普通のことだが、それらのモールドもキッチリしていて良い感じだ。パーティングラインはリアピラーの所に若干段差が見られる程度で、特に大きな修正を要する箇所はない。欠点としては、トランクリッドの後端にあるはずの『GALAXIE』の文字が無いこと、テールライトのメッキ・トリムが三角形となっていること(実車は十字型をしている)などだ。これらを修正するとなると少々厄介である。
ボディは右下側のゲート部分が荒れているので、パテ等を用いて整形した。右フロント前端のボンネットと接する部分に段差があるので、ここはプラ板を接着して整えてやると良い。ファイアウォールは中央にヒンジ用の大きな穴があるので、プラ板などを用いて塞いでおこう。作例ではこのファイアウォールを1.2mmのプラ板で作り直し、補器類を移植したものを使用した。
インテリアはバスタブ形式のパーツとなっているが、コンバーチブルと兼用のため、リアシートに幌骨収納部の張り出しがある。クーペの場合はもちろんこの張り出しは無いので、削り取って修正したいところだが、その場合はシートの拡幅が必要となる。フロントシートも前下部が成型の都合でおかしな形となっているので、切り取ってプラ板で塞ぎ、整形してやると良い。
エンジンはいちおう補器類も揃っていて程々の感じに仕上がるのだが、フロントアクスルのシャフトが貫通するパーツ構成なので、このシャフトの通る穴をプラ板で塞がなければならない。好みにもよるだろうが、このキットの場合、ボンネットをボディへ接着してエンジンをオミットしてしまうのもひとつの方法だと思う。
シャシーはエキパイやサス等も含めた一体モールドの物だ。小さなバリがかなりあるので、これらを丁寧に取り除き、塗り分けをキチンと行えば良い。トレッドが若干広く感じるので、インナーホイールを1mm弱削ると良いだろう」