「アーバンナイトクルーザー」というお題目を与えられた時、執筆者として真っ先に頭に浮かんだのは、現役レーシングドライバーでありモータージャーナリストとして活躍する木下隆之氏。実際に撮影をしながら深夜の都内をクルーズしてもらい、闘いの場であるニュルブルクリンクから“相棒”たちの印象を随筆してもらった。
流麗でありながら官能で刺激的
レクサス「LF-LCコンセプト」が発表されたのは2012年の北米国際自動車ショーである。カルフォルニア州のレクサス・デザインスタジオが筆を奮ったLF-LCはあまりに美しく、その姿に僕はひと目惚れしてしまった。
あれから5年後の2017年、レクサスLF-LCは「レクサスLC500」に名を変えて誕生して、公道に姿を表した。ショーモデルとして話題を提供しただけで、そのままプロジェクトはお蔵入りするのではないかと覚悟していただけに、市販化されたことに心が躍った記憶がある。
驚かされたのは、北米デトロイトショーのステージで身をくねらせながらスポットライトを浴びていたレクサスLF-LCと実車化されたそれは、デザイン的に近似していたことだ。
ショーモデルが市販化されるとき、その多くの場合は趣を変える。公道走行の認可を取得するために、車高が高くなり、突起物は排除され、タイヤは鐵車のように細くなる。デザインスタディは特にその傾向が強い。搭載するエンジンや組み込むサスペンションも考慮されておらず、ひたすら美しさだけを追求する場合が多いからだ。
だがLC500は、デザイン的な提案が強かったショーモデルであったはずなのに、あまりの美しさに腰を抜かしかけたのである。ここまでショーモデルを忠実に再現した市販車など、それまで目にしたことがなかった。
だから僕はもう、LC500は走らせなくてもいいと思っている。クルマである以上、過剰な猫可愛がりは性分ではないし、カゴの鳥のような気がしてならず、解放するべきだというのが持論だが、LC500に関しては、ガレージの中に佇む姿に見惚れるのも至福のひとときであり新しいカーライフのような気がする。
ただし、LC500はただガラスケースの中に飾っておきたくなるほどの芸術品なのに、走りがいいのだから罪作りである。スペシャリティ性能は高いうえに、ドライバーをとろけさせる術には長けている。エンジンサウンドは力強く官能的だ。地を這うように走る感覚は刺激的である。
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最高出力477ps、最大トルク540Nmを発揮する自然吸気の5lV8エンジン「2UR-GSE」を搭載。’21年の改良では、パワートレイン特性の熟成が図られた。
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今回の撮影は、深夜の羽田空港周辺で行なった。上空では、深夜便が頻繁に離着陸を繰り返していた。翼の先のナビゲーションライトが、夜空に点滅していた。ジェットタービンの金属質なサウンドと、レクサスLC500の図太い低音質が、ころあいよくシンクロしているのが印象的であった。
夜空の深夜便はデトロイトへ向かうのだろうか。向かい風を受けてC滑走路から西に離陸した機体は大きく東京湾側に旋回していった。その先はアメリカだからもしかして……。
【Specification】レクサス LC500
■車両本体価格(税込)=13,270,000円
■全長×全幅×全高=4770×1920×1345mm
■ホイールベース=2870mm
■車両重量=1940kg
■排気量=V8DOHC32V/4968cc
■最高出力=477ps(351kW)/7100rpm
■最大トルク=540Nm(55.1kg-m)/4800rpm
■トランスミッション=10速AT
■サスペンション(F:R)=マルチリンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/45RF 21:275/35RF 21