【毎日がスポーツなクルマ】大排気量かつ自然吸気の背徳感を夜、密かに味わいたいあなたに「シボレー コルベット」 アーバンナイトクルーザー#2

「アーバンナイトクルーザー」というお題目を与えられた時、執筆者として真っ先に頭に浮かんだのは、現役レーシングドライバーでありモータージャーナリストとして活躍する木下隆之氏。実際に撮影をしながら深夜の都内をクルーズしてもらい、闘いの場であるニュルブルクリンクから“相棒”たちの印象を随筆してもらった。

FRだMRだの議論はもはや不毛である

初代が誕生した’53年からの8代目のC8型がデビューする前までの67年間、シボレー・コルベットは、巨大なパワーユニットをフロントに搭載し、後輪を駆動させる典型的なアメリカンマッチョなFRスーパースポーツとして君臨してきた。

そんなコルベットの宗旨替えは、いまだに僕の心に棘となって突き刺さったままだ。

かつてはC6型コルベットを所有していたこともあり、ロングノーズ・ショートデッキの、無駄にマッチョなスタイルに恋した身としては、V型8気筒エンジンを失ったノーズは薄く短くなり、それが移動してきた余波でリアセクションが重々しくなった。

「こんなんコルベットじゃない」

ただし、C8デビュー直後は炎上寸前までバッシングを受けたかに思えたものの、次第に世間は比較的優しく受け入れ始めたとの噂を耳にする。GMジャパンが日本に船で運ぶ右ハンドルのコルベットはすべて、すでに収まるべきガレージが決まっていると聞く。「こんなんコルベットじゃない」問題は沈静化し、「これもアリかもね」に変わったというのだ。

実際に深夜にコルベットを連れ出してドライブしてみると、エンジンの搭載位置などかんかんがくがくするほどの意味をなさないことだと不思議に思う。搭載するエンジンはもちろんV型8気筒であり、排気量はいまどき、ダウンサイジングのお題目にまるで唾を吹くように6・2ℓもある。動弁機構はOHVであり、シュンシュンと軽快に吹け上がる。何にも増してNAであるがゆえにアクセルレスポンスに忠実に反応し、素直にパワーが爆発する。もはやFRだMRだと議論したことが、不毛のような気がする。

先代まではFRレイアウトを採用していたが、C8型からミッドシップモデルを採用。6.2LのV型8気筒OHVエンジンを搭載し、トップエンドまで軽快に吹け上がる。

その証拠に、深夜にも及んだ撮影の最中、草木も眠る丑三つ時、アクセルペダルを床踏みしてみた。もちろんトラクションコントロール機能を解除して、である。左足を軽くブレーキペダルに添えたままグイッとやると、最新のC8コルベットは後輪を激しく空転させながら、わずかながらその場に白い煙が立ち込めた。

MR化で荷重が加わっているはずなのに後輪は軽々しく空転した。駆動輪に多少重みを加えたとろで、超絶パワーを発揮するV型8気筒パワーの前では焼け石に水のようだ。垂らした水滴がジュッと音を残して弾けて消えるように、タイヤは激しく路面を掻きむしる。

やっぱりコルベットはコルベットなのだ。とても昼間じゃこの背徳感は味わえない。誰もが寝静まった深夜、ひとりでこっそりとガレージからコルベットを引っ張り出し、ナイトクルージングで味わい尽くす……これがコルベットの正しい愉しみ方だろう。

【Specification】シボレー コルベット
■車両本体価格(税込)=14,000,000円
■全長×全幅×全高=4630×1940×1225mm
■ホイールベース=2725mm
■車両重量=1670kg
■排気量=V8OHV16V/6153cc
■最高出力=502ps(369kW)/6450rpm
■最大トルク=637Nm(65.0kg-m)/5150rpm
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35ZR19:305/30ZR20

フォト=安井宏充 ルボラン2023年7月号より転載

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