「アーバンナイトクルーザー」というお題目を与えられた時、執筆者として真っ先に頭に浮かんだのは、現役レーシングドライバーでありモータージャーナリストとして活躍する木下隆之氏。実際に撮影をしながら深夜の都内をクルーズしてもらい、闘いの場であるニュルブルクリンクから“相棒”たちの印象を随筆してもらった。
ピュアスポーツらしさと抜け感が両立している
マセラティMC20のコクピットに腰を下ろした瞬間に、おおよそこのスーパーカーのキャラクターをよく理解できた。いかにもマセラティ流の筆さばきらしく、どこか艶かしいフォルムでいながらも、バタフライドアを跳ね上げて乗り込めば、コンペティションの香りに包まれる。MC20の語源が、2020年デビューのマセラティ・コルセ、つまりレーシングモデルを意味することなど聞かされていなくとも、ステアリングにしがみつきながらバトルに集中する自分の姿を俯瞰で想像できてしまう。
なぜ、マセラティという高級ブランドであるのにも関わらず、ともすればオイルの焼けた匂いやゴムが擦れた臭気を連想するコンペティションの雰囲気を感じてしまったのか?その理由のひとつは、期待を裏切るほどそっけないコクピットの設えが、無駄を排除した競技マシンの雰囲気と似ているからだ。カーボンモノコック製のコクピットは、バタフライドアと触れ合うバルクヘッドの厚みから、とんでもない剛性を備えていることが想像できるが、その割にはバスタブと呼ぶほどには、コクピットの空間は狭くない。
-
-
走行モードは「GT」「スポーツ」「コルサ」「ウェット」の4種類から選択可能。
-
-
レザー、アルカンターラ、カーボンファイバーなどの高級素材を多用しながらもシンプルにまとめ上げたインテリア。
ふたつめは、運転席だけでなく助手席の足元にも、パッセンジャーが両足で体を支えるためのフットレストが光っている。しかも、軽量素材の分厚いプレートである。なるほど、プラットフォームの設計は、フォーミュラカー開発で高く評価されているダラーラ社だという。華やかな加飾を排除してまでもどこか硬派に徹した素っぷりは、コンペティションの世界に生きるダラーラ社らしい。
ミッドに収まるドライサンプ式3ℓツインターボは、最高出力630ps/最大トルク730Nmを発揮。トランスミッションは8速DCTを組み合わせ、後輪駆動を採用する。
搭載するV型6気筒3lは最高出力630ps を縛り出す。プレミアムスーパーカーとしては……という注釈付きだが、サウンドは勇ましいが官能的ではなく、ステアリングの応答性はキレキレだがどこかそっけない。乗り心地は意外と緩い……。しかし、ナイトクルーズには、ある種その潔さや抜け感が魅力となり、しっくりきた。
そういえばダラーラと関係が深いF1のPU(パワーユニット)も、V型6気筒が基本である。加えて言えば、アストン・マーティンやアルピーヌ、あるいはアルファ・ロメオといった高級スポーツカーメーカーがこぞってF1に進出し好成績を収めている。まさかマセラティも? 根拠もない妄想に興奮してしまうのも、MC20を駆っていると潔くピュアスポーツらしい一面も垣間見えたからだ。
深夜のガレージからこいつを連れ出すならワインデングも良いだろう。助手席のフットレストには照明が当てられている。そこに添えるのはハイヒールかレーシングシューズか……。
【Specification】マセラティMC20
■車両本体価格(税込)=26,500,000円
■全長×全幅×全高=4669×1965×1221mm
■ホイールベース=2700mm
■車両重量=1500kg
■排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/3000cc
■最高出力=630ps(463kW)/7500rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg-m)/3000-
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35ZR20:305/30ZR20