コンパクト&後輪駆動のドライビングプレジャーは伊達じゃない!
Mモデルの中で最もコンパクトな一番機として2016年に登場した「BMW M2」。2代目となる新型は、2022年10月にデビューを果たし、ついにアメリカ・アリゾナの地で国際試乗会が開催された。ドライビングプレジャーが凝縮された、FRスポーツの真髄をお届けしよう!
ポルシェ911に迫る動力性能が備わる
純然たるMモデル群の中では車格も値札も最もコンパクトなエントリーポジションにあるのが’16年に登場したM2だ。その成り立ちはMマニアの多いここ日本でも大いに歓迎され、世界的にみてもドイツ・アメリカ・イギリス・中国に次ぐ五番目のマーケットになっているという。それゆえ、期待も大きいだろう新しいG87型M2の上陸がいよいよ間近に迫っている。まずは新型のアウトラインを追ってみよう。
新型M2の全長は4,580mm、全幅は1,885mm、全高は1,410mm、そしてホイールベースは2,745mmとなる。これは初代F87型M2に比べると、全長で105mm、全幅で30mm、全高同じのホイールベースが50mmと、それぞれ拡大していることになる。現行M4クーペに対すれば全幅は同じだが、全長225mm、ホイールベースは110mm短い。ひと回り以上は小さいという両車の関係は保たれた。
注目すべきはまったく同じ全幅だ。車格に対してやたらとマッシブにみえるタイヤのサイズもまたM4と同じ。新型M2は足元が俄然どしりと強固な設定となっている。すなわち新型M2の前輪幅は初代M2の後輪幅をも上回る。そんな足元を包み込む新型M2のエクステリアは強烈な存在感を放っている。フロントアーチのフレアは往年の2002ターボを、リアブリスターの膨らみはこれまた往年の3.0CSLバットモービルを思い起こさせるといえば大袈裟だろうか。
【写真14枚】FRスポーツの真髄を味わい尽くせるベストパッケージ。
さりとてそのシルエットだけでも別物感はプンプン漂ってくる。フロントフェイスはM4ほどのエグ味はないが、クーリングチャンネル用の事務的な形状のダクトがかえって凄みを高めているかのようだ。キドニーグリルの内側は直近の他のM銘柄と同様、横スリットが配される。
装備は最新のBMWのフォーマットに倣っており、12.3インチのメータークラスターと14.9インチのタッチパネルモニターを一体化したカーブドディスプレイが備わる。インフォテインメントのOSもBMW曰く第8世代の最新フェーズが搭載されており、実際に触ってみてもその操作レスポンスや情報量に不満はない。
新型M2で賛否を呼びそうな進化のひとつに電動パーキングブレーキが挙げられるが、それによって2ペダルモデルの側は全車速追従ACCを含むADASもフルスペックが配されることとなった。試乗車にはオプションのMカーボンバケットシートが装着されていたが、標準のスポーツシートに対して約10kgの軽量化が果たせるというこれは、市販のセミバケットに準ずるほどタイトなホールド感を実現していた。そのぶん用途を吟味して決めるべき選択肢といえるだろう。
初代M2もマイナーチェンジで搭載エンジンをM謹製のS55系に切り替えていたが、新型M2はデフォルトで現行M3/M4が搭載するツインターボのS58型が奢られている。アウトプットの数値的にはM4のスタンダードモデルより20ps小さい460ps、トルクは同じ550Nmだ。トランスミッションは6速MTと8速Mステップトロニックが選択可能で、後者の0→100km/h加速は4.1秒と、M4のスタンダードモデルに対して0.1秒ながら速い。いずれにせよ、動力性能的にはポルシェ911カレラをも食ってしまうほどのパフォーマンスだ。
手に入れた速さはもはやスーパースポーツの域
今回試乗したのは6速MTモデルのみだが、走りはじめのライド感は初代と同様で、けっこう引き締まった印象だ。よく言えばがっちりした塊感が前面に押し出されているともいえるが、新型では電子制御ダンパーが採用されていることを思うと、もう少し滑らかさが欲しいところだが、履いているタイヤのサイズを鑑みれば善戦しているというところだろうか。
ただしそれは街乗り域の50〜60kM/hくらいまでの印象で、さらに速度域が高まれば、足回りは俄然活き活きと応答し始め、上屋の動きにはフラットさが高まっていく。日本の高速巡航で多用する100〜120km/hの域ではGT的な側面もうかがえてくるなど、快適さは充分確保されているといえそうだ。と、この域に達すればともあれ履いているタイヤからの応答はM4と同じとは思えないほど従順で、操舵ゲインの立ち上がりも望外に丸い。直進時の据わりの良さやバネ下の路面追従性などはM4よりも洗練されているのではないだろうか。そう思いながらワインディングへと滑り込む。
460psの大パワーをFRで受け止めるのはさすがに一筋縄ではいかないが、標準状態でもトラクションコントロールやDSCの介入は思いのほか深く、骨格面からのトラクション能力がかなり高いことが伝わってくる。旋回時はMスポーツディファレンシャルの効能もあらかたで、パワーオンでもやすやすと駆動力を発散させてしまうことがない。
それにしても不思議なのはつづら折れの切り返しのような場面でもごついバネ下がまったく気にならないことだ。むしろ切り返しの動きに軽快ささえ感じるのはスクエア寄りのホイールベース/トレッド比によるところだろうか。速さ的にはもうスポーツカーというよりはスーパースポーツの域に片足を突っ込んでいるがゆえ、さすがに公道でその全部を引き出すことはかなわない。
が、スポーツモードで山道をキビキビと走らせるくらいのドライブでも充分に心昂ぶるのは、やはり搭載されるエンジンの色香によるところだろう。7,000rpmあたりまできっちりパワーの乗りが感じられるストレート6の滑らかな回転感や澄んだサウンドは、やはり何者にも代えがたい魅力の核心だ。新しいM2は相変わらずBMWの標榜するドライビングプレジャーを味わい尽くすためのベストパッケージといえるだろう。