【国産旧車再発見】宇宙まで届くかのように上り詰めるロータリーエンジン、マツダ初ピュアスポーツの到達点『マツダ・コスモスポーツ』

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自動車メーカーの統合が叫ばれた戦後日本の方針に対して東洋工業(現マツダ)は威信をかけてロータリーエンジンを開発。世界に先駆けて量産体制を整え、以来唯一無二の存在となった。ロータリーあればこそ存続し得たマツダの記念碑を振り返る。

この技術なくしてピュアスポーツカーは生まれ得なかった

名神を始め高速道路の建設ラッシュだった時代を反映して、後期型のコスモスポーツはリアサスペンション支持部を変更。前期型からホイールベースを150mm延長。ドア後方のパネル長が異なる。

2012年に生産を終了したマツダRX-8。ロータリーエンジン搭載車の歴史が途絶えて早くも11年の月日が流れた。2015年の東京モーターショーにはRX-VISIONと名付けられたロータリー・スポーツが参考出品されるも、未だ市販される見通しは立っていない。それは世界的にスポーツカーが売れない時代を反映した事態で、ロータリーという特殊なエンジンが生き残るには、さらに道は険しい。

ロータリーエンジンの特殊性を紐解くには、その始祖であるコスモスポーツを再確認するのが最適だ。1957年、当時の西ドイツでNSUとヴァンケル研究所が共同でヴァンケル式ロータリーエンジンを開発する。一般的に内燃機関は筒の中でピストンが上下運動を繰り返すことで燃料が爆発され動力を得る。だが、ヴァンケル式ロータリーエンジンは楕円の筒の中でおむすび型のローターが回転運動する。通常の4ストロークエンジンはクランクシャフトが2回転することで燃料を圧縮・爆発されるが、ロータリーエンジンはローターが1回転するだけで同じ行程を消化する。つまり回転ロスが少なく、燃焼効率に優れることになる。

その先進性に目をつけ、世界各社がヴァンケル式ロータリーエンジンの開発に乗り出す。だが、ローターが回転するハウジング内に装着されるアペックスシールが共振してしまい、ハウジング内壁に偏摩耗を発生。このチャターマークを解消しない限り実用化は難しく、量産化を各社断念している。

ところがマツダは開発を続けた。1960年にNSUと提携してロータリーエンジン開発に乗り出すと、翌年には試作1号機を完成。1963年には全日本自動車ショー(東京モーターショー)で試作エンジンを公開。翌1964年にはコスモスポーツのプロトタイプを完成。このプロトタイプを発展させた試作車が、1966年に全国のマツダディーラーへ渡され耐久テストに供された。

テストの結果に自信を深めたマツダは1967年、ついに市販型を発売。4年もの間、モーターショーに展示して話題をさらい、当時最も市販が待たれたスポーツカーの1台となる。これは発売前から耐久レースや世界速度記録に挑戦し続けたトヨタ2000GTと似た経緯であり、両車をライバル視するのは自然なこと。ちなみにコスモスポーツ発表翌日、慌てるように2000GTの発売が発表された。

発売が開始されたコスモスポーツには10A型と呼ばれる2ローター方式のロータリーエンジンが採用された。組み合わされたトランスミッションは4速M/Tのみだが、940kgしかない車両重量のため最高速度は185km/h、0-400m加速は16.3秒と発表された。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リヤがド・ディオンアクスルという凝った形式。フロントにはディスクブレーキが採用され、リアは放熱性に優れるアルフィンドラムとなっていた。

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注目すべきは前後の重量配分。マツダの歴代スポーツカーはいずれも前後重量配分に優れたものが多いが、その歴史はコスモスポーツから始まっている。エンジンを前車軸から室内側に搭載するフロント・ミッドシップの概念が取り入れられ、バッテリーをトランクに配置。エンジン自体が小さなロータリーだからこそ可能な技だと言えるだろう。

自信を持って発売したコスモスポーツではあるが、やはり市販後には種々の問題に直面。エンジンの放熱性に難があり、またライバル各車が5速M/Tを採用するなか4速とハンディがあった。そこで発売からわずか1年後の1968年に改良が施されることとなった。

後期型となったコスモスポーツは前期のL10AからL10Bへ型式が変更される。同じ10A型ロータリーエンジンは前期の110psから128psへパワーアップが図られ、トランスミッションも待望の5速化。またドアの後ろから後車軸までのボディが延長され、ホイールベースが2200mmから2350mmへ変更された。ラジアルタイヤが標準装備されるなどの結果、最高速度は200km/h、0 –400m加速は15.8秒と大幅な性能向上を果たした。

外観で最も変わったのはラジエーターグリルとウインカー下に設けられたダクト。これらはエンジンとブレーキの冷却性を向上させるための処置。グリルが薄い前期型がオーバーヒート症状を起こす条件下で、開口部が広げられた後期型は問題ないことをオーナーズクラブのツーリングなどで確認されている。

後期型のエポックはまだある。クーラーがオプション設定に加わったのだ。これはライバルであるトヨタ2000GTに先んじた装備であり、高級スポーツカーとしての資質を向上させている。狭い室内のどこにと思われるだろう。大きなクーラーユニットはシート後ろの小物置き場に配置され、冷風は乗員の後ろから吹き付けてくる。

未知のエンジンに相応しいパッケージとして海外の模倣ではない独創的スタイルが生み出された

アメリカ調でもヨーロッパ調でもないデザインは1959年にマツダへ入社した小林平治の作品。小林は入社前に日本工業デザインの巨匠、GKデザイン代表の榮久庵憲司に自動車デザインを学んだひとりだ。

コスモスポーツというより、筆者にはマット・ビハイクルがこのクルマの思い出。テレビ番組『帰ってきたウルトラマン』に登場するウルトラ警備隊の車両名で、子供心に未来を感じさせるスタイルに釘付けだった。だから免許を取得してスポーツカーを買おうと思った時、コスモスポーツとトヨタ2000GTは筆頭候補だった。実際にコスモスポーツの販売車両を今から30年近く前に見にいった。その車両、見た目はいいのだが肝心のエンジンの調子が良くなく、4000r.p.m.近くでクラッチミートしなければならなかった。今思えばエンジンの圧縮が抜けていたとわかるが、当時はそんな知識もなく、夢は夢で終わってしまった。

では、調子の良いコスモスポーツに乗るとどう感じるのだろう。確かに低速トルクは薄く、発進時の回転数を2000r.p.m.以上に保ってクラッチミートしないとグズつく。2ストロークエンジンのバイクに乗るような感覚だ。発進のコツさえつかめば、あとはロータリーエンジンの特性を存分に味わえる。エンジンはギアを問わずイエローゾーンとなる6500r.p.m.へ向けストレスなく回る。しかも回転数とシンクロするように振動が大きくなる4ストロークエンジンと異なり、振動はほぼ一定だ。

エンジンがストレスなく回っても、シャシー性能はどうだろう。幸いにもドイツのアウトバーンでステアリングを握らせていただいたことがある。その経験から、無理な操作をしない限り極めて安定したクルージングが楽しめるとお伝えしよう。国産車としては先進的だったラック・ピニオン式ステアリングのため、舵角に対してフロントタイヤの反応はとてもリニア。エンジンが軽いことも作用して、FR駆動のクルマであるものの鼻先の感覚は軽く好印象。

1960年代の国産車といえばブレーキ性能が不安要素。確かにフロント・ディスクとはいえ、現代のような効きは示さない。だが、軽い車重には必要十分な能力で、止まらなくて怖い思いをすることはない。ホイールベースが長い後期型ではピュアスポーツカーというよりGT的な性格にも感じられる。サバンナ、そしてRX-7の時代はハンドリングマシーンに特化していく。前後重量配分の徹底と前後オーバーハングを切り詰めたからだ。ハンドリングに特化するなら、コスモスポーツはこれほど伸びやかなスタイリングにはならなかっただろう。それは夢のエンジンを載せるクルマには宇宙を駆けるような夢のあるスタイルであってほしいと願った、当時の開発陣の想いの表れでもある。

【Specification】マツダ・コスモスポーツ
●全長×全幅×前高=4130×1595×1165mm
●ホイールベース=2350mm
●トレッド=1260/1250mm
●車両重量=960kg
●エンジン形式=水冷直列2ローター
●総排気量=982cc(491cc×2)
●圧縮比=9.4:1
●最高出力=128ps/7000r.p.m.
●最大トルク=14.2kg-m/5000r.p.m.
●変速機=5速M/T(オールシンクロ)
●懸架装置(F:R)=ダブルウィッシュボーン:ド・ディオン
●制動装置(F:R)=ディスク:ドラム
●タイヤ=155HR15
●新車当時価格=158万円

Text:増田 満 PHOTO:内藤敬仁 カー・マガジン483号より転載

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2023/04/07 17:30

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