【国産旧車再発見】コロナをベースにDOHCエンジンを新開発、スカGに代わるツーリングカーの王者『トヨタ・1600GT』

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2000GTで国際的スポーツカーを提案したトヨタ。だが当時238万円という価格は一般的とはいえなかった。そこで半額以下でツインカムエンジンが手に入るという夢を、コロナベースで仕立て直したトヨタ1600GTで実現させた。量産ツインカムといえど、侮れない実力の持ち主だ。

コロナ1600SをベースにDOHCエンジンを新開発したスカGに代わるツーリングカーの王者

以前紹介したプリンス・スカイライン2000GT-Bは、レースに勝つために生まれたモデルだ。1964年の第2回日本グランプリでポルシェ904カレラGTSに敗れはしたものの、1周だけトップを走ったことで実力を誇示した。1965年からのレースシーズンでは連戦連勝。時にいすゞベレット1600GTに敗れることはあったが、誰もが最強のツーリングカーであることを疑わなかった。

だが、どんな絶対王者にも陥落する瞬間が訪れる。クラスこそ違うが、1966年3月の第4回クラブマンレース富士大会に現れたトヨタRTXは初参戦で初優勝を遂げる。その後も順調に勝ち星を挙げたRTXはプロトタイプモデルではあったが、内容はトヨタ1600GTそのもの。1967年8月に1600GTが発売されるとエントリー名も車名となり、快進撃を始める。

そして迎えた1968年5月の日本グランプリ。2台のトヨタ1600GTが、スカイラインGTの前に立ち塞がりワンツーフィニッシュを達成。スカイラインに代わる新王者誕生の瞬間だった。ではなぜ、1600GTはそこまで速かったのか。それは1トン程度の軽量ボディに、新開発したDOHCエンジン、空力性能とハンドリングに優れていたからだ。

そもそもトヨタ2000GTが存在したわけだが、トヨタとしては238万円もする高額車ではなく、より一般的なDOHCエンジンによるスポーツカーが必要と考えていた。そこで’64年に発売した3代目コロナの高性能版である1600Sをベースに、2000GTと同じ手法でエンジンをDOHC化したのだ。

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ベースは1587ccの4気筒OHVである4R型エンジン。そのシリンダーブロックにヤマハと共同開発したDOHCヘッドを載せたのが9R型エンジンだ。排気量は同じながら1600Sの90psから110psへと大きく出力を向上させる。レースに出場したワークスカーでは150psまでチューニングされていたにも関わらず、耐久性に優れたことで強さを発揮。また組み合わされたトランスミッションは通常の4速のほかに、トヨタ2000GTと共通の5速M/Tが用意された。4速仕様車が1600GT4、5速が1600GT5と区別された。

1600GTが優れていたのは性能だけではない。2000GTが238万円という高額車だったことに対して、GT4が96万円、GT5でも100万円という販売価格を実現。これにより2000GTが337台しか生産されなかったことに対して、1600GTは2222台が生産される。しかも2000GTは1967年から1970年まで市販されたことに対して、1600GTは1967年8月からコロナ・マークⅡが登場する1968年9月までの1年強しか生産されていない。いかに価格が重要だったかということの証だろう。

ではこの1600GTが2000GTに対して安いだけの廉価モデルなのかといえば、そうではない。ベースとなったコロナ1600Sからしておしゃれで端正な佇まい。ウッドを多用した豪華な雰囲気はないが、メッキで縁取られたメーターパネルは実に雰囲気がいい。トランスミッションだけではなくフロントシートも2000GTと共通だったため、座り心地やホールド性も同じ。何よりハードトップボディによる爽快感は2000GTにはない美点で、ドライビングがより華やぐのだ。

2000GTと同じミラーやエンブレムがコロナとの違いを主張する

外観は、コロナのハードトップモデルである1600Sと基本的に共通だ。専用デザインのラジエーターグリルに、2000GTと同じデザインの七宝焼きエンブレムを持つ。撮影車両のフロントはサスペンション変更でわずかに下げられている。

運転してみるとどうだろう。エンジンはアイドリングからDOHCらしい鼓動を感じさせてくれる。アクセルをひと踏みすれば、このエンジンの素性の良さが伝わる。スチールマフラー特有の重さを伴った排気音は、瞬く間に迫力を伴って高回転へ達する。2000GTの6気筒より明らかにレスポンスが良く感じるのは4気筒ならではの軽さだろう。

クラッチは程よい重さで、長距離運転が苦にならないレベル。そのままシフトレバーを操作すれば、2000GTと共通の5速ミッションは節度のあるフィーリングで確実に決まってくれる。だから走ることが実に楽しい。

サスペンションはフロントこそダブルウイッシュボーンだが、リアはこの時代の国産車らしくリジッドアクスルとリーフスプリング。キレイな舗装路を走る分には粗さを感じないが、コーナーではフロントの動きと微妙にシンクロしないのは否めない。

ステアリング形式はラック&ピニオンではなくリサーキュレーティングボール式で、やはりレスポンスは穏やか。古典的な国産スポーツカーの味わいと言え、サスペンションやステアリングの特性を理解して御すことが楽しみになることだろう。

とは言え、やはりコロナと同じスタイルは若い世代にはアピールしない。30年ほど前の若い時期、2000GTは気になる存在だったものの、1600GTに魅力は感じなかった。アローラインと呼ばれるスタイルがどうにも馴染めなかったのだ。けれど年齢を重ねるにつれ、1600GTの良さがジワジワと理解されてきた。スポーツカーとは呼びがたいスタイルだが、品のある佇まいとサイドが全開になるハードトップボディは洒落者といった印象。それなのにエンジンに鞭入れれば、スポーツカーとしか表現しようがないレスポンスとパワー。改めて見直したい1台なのだ。

今回の1600GTのオーナーであるMさんは高校時代、後にレーシングドライバーとなる中野雅晴選手と同級生だった。ともにオートバイを乗り回して青春時代を謳歌した仲。だから中野選手がトヨタTMSC入りを果たしツーリングカーレースに参戦すると、サーキットまで同行するようになる。ところが1973年の富士GCでシェブロンに乗る中野選手は事故死してしまう。だからこそ、彼がTMSC時代に乗ったスポーツ800や1600GTに深い思い入れがあり、いずれ乗りたいと思っていたそうだ。

この1600GTは過去に前のオーナーがレストアをしている。すでに1600GTを手に入れていたが、たまたま縁あってこのクルマに乗り換えた。それからは念入りなメンテナンスを施しているためトラブルや立ち往生とは無縁。黄色やシルバー、赤があったボディカラーだが、大きく見える白いカラーがお気に入りだという。

【specification】トヨタ1600GT5(1968年型)
●全長×全幅×前高=4115×1565×1375mm
●ホイールベース=2420mm
●トレッド(F:R)=1290:1270mm
●車両重量=1035kg
●エンジン形式=水冷直列4気筒DOHC
●総排気量=1587cc
●圧縮比=9.0:1
●最高出力=110ps/6200r.p.m.
●最大トルク=14.0kgm/5000r.p.m.
●変速機=5速M/T
●懸架装置(F:R)=ウィッシュボーン:リジッド
●制動装置(F:R)=ディスク:ドラム
●タイヤ(F&R)=6.45S-14-4PR
●新車当時価格=100万円

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Text:増田 満 PHOTO:内藤敬仁 カー・マガジン491号より転載

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