まるで砂の海を舞うがごとく!
冒頭の通り、試乗会の舞台はモロッコ南部、アトラス山脈を望む荒野だ。まずは地図にもない未舗装道路に分け入って行く。実は、ここはダカール・ラリーのエントラントがトレーニングをすることでも知られたエリアで、岩肌は剥き出し、普通の乗用車、少なくともスポーツカーならばすでにギブアップというロケーションだ。そこを、911ダカールは100km/hで平然として駆けて行く。
もちろん、乗員はフロアの動きに合わせて揺すられるが、ステアリングには路面からの情報が正確に伝わってくるので不安感はない。さらに4輪がしっかりと路面をトレース、目の前に多少の鋭利な岩や小石が転がっていようとも、前後左右のアンダーガードがフロアを守ってくれるという安心感もある。これならば、本当にオフロード・モードで170km/hに届くのではないかと思わせるほど、不思議と自信が漲ってくる。
やがて前方に砂丘が近づいてくると、インストラクターからタイヤの空気圧を1.2barまで下げるように指示が入る。ほどなくして、目の前には広大なスケールの砂の海が広がる。「ここを911で走るの?」と思わず躊躇するが、インストラクターからは「絶対にスロットルを緩めないこと!」という指示が入り、覚悟を決めて飛び込んで行く。すると、911ダカールは、まるで砂の表面を舞うかのような軽快な身のこなしで駆け抜けて行くではないか! 19度のアプローチアングルが与えられ、さらに新設定されたPTMが提供するそのトラクションは圧巻のひと言で、怯むことなく勢いをつけて砂の流れに乗るようにすれば、30m級の砂丘も制覇することが可能だ。ただし、過信は禁物で、急斜面を誤った姿勢とラインで突っ込めばスタックは必至。911ダカールは、カイエンほどの本格的なオフローダーではないのだ。とはいえ、時間を忘れて夢中になって遊んでしまったが。
帰路のアスファルト上では、アウトバーンで鍛えられたサラブレッドの片鱗を見せて、姿勢変化が少ない安定した高速クルージングで疲れた身体を癒してくれる。「はたして911のオフローダーなど必要なのか?」と首をかしげていた筆者だが、試乗後には「こんなにユニークなオールラウンダーは存在しない!」と確信してしまうほど痛快。最新のポルシェは最良なだけでなく、最高のエンターティナーでもあるのだ。同時に、911のポテンシャル、懐の深さは底知れないとあらためて実感した。
日本での911ダカールの価格は3099万円で、全世界に向けて2500台の限定生産と発表される。いずれにせよ、将来的にコレクターズアイテムになることは必須で、ポルシェは相変わらず巧いビジネスを展開する。ただし、このテストを行なった時点で、すでに完売と発表されているが――。
【Specification】ポルシェ911ダカール
■全長/全幅/全高=4530/1864/1338mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド(前/後)=1617/1572mm
■車両重量=1605kg
■エンジン型式/種類=水平対向6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=91.0×76.4mm
■総排気量=2981cc
■圧縮比=10.2
■最高出力=480ps(353kW)/6500rpm
■最大トルク=570Nm(58.1kg-m)/2300-5000rpm
■燃料タンク容量=67L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式(F:R)=ストラット/コイル:マルチリンク/コイル
■ブレーキ(F&R)=Vディスク/Vディスク
■タイヤ(F:R)=245/45ZR19(8J):295/40ZR20(11.5J)
■車両本体価格(税込)=¥30,990,000
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