ポルシェの市販車の歴史で初めて、V8エンジン搭載車として計画された928。一方、ロータス・エスプリの長いモデルライフの最後を飾るように登場したエスプリV8。これらでしか味わえない世界観を、感じてほしい。まずはポルシェ1991年式の928 S4から見ていこう。
ポルシェ渾身の高速ツアラー
ともに70年代の基本設計を持ち、多くの空力付加物を追加し、リファインを繰り返した最終型に近く、そして何より専用設計のV8エンジンを搭載する。共通項の多いポルシェ928 S4とロータス・エスプリV8は、世紀末のスポーツカーシーンを象徴するスポーツモデルである。
「昔憧れたよ~」と言うなかれ。どちらのモデルも現代に通用するスタイリングやドライバビリティの持ち主というだけでなく、現代のスポーツカーを凌駕するほどのコストが掛けられ熟成された両雄なのである。
ポルシェ928 S4というクルマを理解するのに、スペックシートを読み込む必要はない。硬質な革巻きステアリングを握って少し走らせるだけでこのクルマが秘めたとてつもない「密度」がわかるはずだ。928のエンジンは水冷だが、冷たい鉄が車両全体に行き渡ったような密度は空冷の911と肩を並べるものなのである。
【写真12枚】“神は細部に宿る”を具現化したハイクオリティ。ポルシェ928 S4の詳細を写真で見る
現代のクルマは7年ほどでフルモデルチェンジを迎えることが多いが、20世紀の末頃は違った。特にスポーツカーは長い期間熟成されていくのが常で、ポルシェ928の場合1977年にデビューしてから1995年の販売終了まで、実に18年もの長きに渡って作り続けられ、リファインが繰り返されたのである。928の優れたポイントは、その長いモデルライフを全うしてもなお新鮮さを失わなかったスタイリングの優秀性だろう。
今でこそ2シーターから4ドアサルーン、SUVまで何でも揃っているポルシェだが、1980~90年代当時のラインナップはエントリーモデルの944、伝統的な911、そしてグランドツアラーの928という3本立てだった。どのモデルも基本は2+2シーターだが、確かに928のリアシートは、荷物置きにしか見えなかった911のそれと比べればいくぶんラグジュアリーに見える。
外観と同様に、928 S4はドライバーズシートに座り周囲を見渡してみた場合でもあまり古さを感じさせない。全体がなだらかに傾斜し、そのままダッシュパネル中央がセンタートンネルのラインに繋がっていくコクピットは1990年代の国産スポーツカーによくあるスタイルだが、その元祖が928であることは容易にわかる。メーターナセル全体がステアリングチルトに合わせて上下するアイデアも多くのコピーを生んでいる。
今回の928 S4はオプション満載なのか上質な革内装を与えられていたのだが、製造から30年近い歳月が過ぎ、7万3千キロを走行したあとでも、内装のヤレは全くと言っていいほど感じられなかった。やはりポルシェのクオリティはとてつもないのだ。
スポーティなボアストローク比を持ったV8エンジンだが、始動させてみると音、振動共に少なく迫力は感じられない。ATのシフトレバーをDに入れ走り出すと、なんともゆったりと加速しはじめる。それもそのはず、ポルシェ928に用いられるATはメルセデス製であり、ギアは4速あるがメルセデスの定石通り2速発進の設定になっているのである。
だから高速道路に合流して、80km/hを越えるまでは少し待つが、そこから先はトップギアのまま面白いようにスピードが伸びていく。その際の振動や風切り音も驚くほど少ない。スピードメーターに300km/hまで目盛りが振られた928 S4はアウトバーンを駆け抜けるための超高速ツアラーなのである。
(後編『ロータス・エスプリV8へ続く)
【SPECIFICATION】ポルシェ928 S4(1991)
全長×全幅×全高:4520×1836×1282mm
ホイールベース:2500mm
トレッド( F/R):1551/1546mm
車両重量:1600kg
エンジン:水冷V型8気筒DOHC
総排気量:4957cc
最高出力:320PS/6000rpm
最大トルク:43.9kg-m/3000rpm
サスペンション(F/R):ダブルウイッシュボーン/セミトレーリングアーム
ブレーキ (F&R):Vディスク
タイヤ(F/R):225-50ZR16/245-45ZR16
新車時価格:1390万円
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