今にして思えば、1980年代終盤から1990年代初頭は、輸入ハッチバック車が一番輝いていた時代かも知れない。かつて何台かを所有した経験のある森口将之氏に、こうしたクルマがまだまだ楽しめるのかを検証していただいた! 前編のシトロエンBXに続いてフレンチハッチバックの名車プジョー205をピックアップ!!
GTI譲りのスポーティさをライトな気分で味わえる
続いて乗った205SIには1.6Lと1.9Lがあり、前に書いたように取材車は後者。つまりATを含めてBXと基本的に同じパワートレインを積む。100PSの最高出力も共通だ。
まずはGTIではない、素の205であることに好感を抱いた。日本で販売された205の多くはGTIで、現役時代からBXやゴルフとは逆に、実用グレードのほうが希少になっていたからだ。今はその傾向がさらに強まっているはず。この3台ではもっともマニアックな存在ではないだろうか。
【写真15枚】GTI譲りのスポーティさをライトな気分で味わえる、プジョー205SIの詳細を写真で見る
当時のプジョーのデザインを一手に引き受けていたピニンファリーナによるフォルムは、黒いオーバーフェンダーや太いサイドモール、赤いピンストライプといったGTIのディテールがないと、こんなに丸みがあって愛らしいんだと教えられる。飾り気のないホイールキャップがそこに実用車らしさを加えてくれる。
ボディサイズは最新のコンパクトカーではVWのup!やルノー・トゥインゴに近い。よってキャビンはタイトだが、大きな窓のおかげで狭いとは感じない。シートはBXに劣らぬ座面のふっかり感と、十分なサイドサポートを併せ持つ。伝統的なフレンチテイストとプジョーらしいスポーティさが両方味わえる。
3ドアということで使い勝手を心配する人がいるかもしれない。でも実車に触れたらその印象は薄れるだろう。ウォークインが背もたれだけでなく、座面ごと持ち上がって前に倒れるので現在の3ドアよりアクセスは上ではないかと思えるのだ。
ラゲッジスペースも広い。昔のプジョーはスペアタイヤを床下に吊り下げる方式だったことに加え、リアサスペンションはトーションバースプリングを用いたトレーリングアーム式だったので、両脇の出っ張りがほとんどない。リアシートの折り畳みが最近はあまり見なくなったダブルフォールディング方式で、低く格納できる点もいい。
約900kgのボディに1.9Lだから、4速ATであっても加速はとにかく元気。コンパクトなボディも相まってキビキビ動き回れる。こちらのボディもしっかりしていて、GTIよりまろやかなシャシーが貢献しているのではないかと思った。
おかげで猫足も満喫できる。特にトレーリングアームのしなやかな足さばきは、現在のコンパクトカーが多用するトーションビーム式とは別の形式であることがはっきり実感できる。
ハンドリングはGTIのようなパキッとした身のこなしではなく、サラッと軽やかに曲がっていく。同じエンジンを積むBXよりホイールベースが短いうえに、パワーステアリングが重めなこともあり、今回の3台ではスポーティさはダントツだったけれど、それをGTIのような本気モードではなく、ライトな気分で味わえるところにSIの価値があると思った。
(後編・フォルクスワーゲン・ゴルフに続く)
【SPECIFICATION】1994年式プジョー205 SI
■全長×全幅×全高:3705×1580×1365mm
■ホイールベース:2420mm
■車両重量:910kg
■エンジン:水冷直列4気筒SOHC 8バルブ
■総排気量:1904cc
■最高出力:100PS/6000rpm
■最大トルク:14.4kg-m/3000rpm
■サスペンション(F/R):ストラット/トレーリングアーム
■ブレーキ(F/R):Vディスク/ドラム
■タイヤ(F&R):165/70R13