30年前に発売されたNAロードスターは大ヒットを飛ばし、フォロワーも続々と登場。また同時期に、BMWやロータスも、新世代のライトウェイト・オープン2シーターを模索し、意欲的なクルマをデビューさせていたのだった。
安くて楽しい、FRスポーツの楽しさ満載
1989年という年は、日本自動車史における黄金期。スカイラインGT-Rが絶対的な速さを、NSXが新時代のスポーツカー像を、トヨタ・セルシオが世界一の静粛性をもって世界にジャパン・パワーを問いかけた年だった。もうこんな時代は、二度と訪れないだろうと思う。
だけどそんな浮かれた世界の片隅で、マツダはボクたちに全く新しい価値観を教えてくれた。それが初代ロードスターという存在だと、ボクは思っている。そのアーキテクチャーは明らかにエランやMG-Bといったブリティッシュ・ライトウェイトの伝統を継承した結果だ。でもエランなんて知らない当時の若者たちの目には、これがモーレツに新しく映ったのである。
ここからが大切だ。そんな初代が教えてくれたことって何か? それは「世の中金じゃないぜ!」ってことだ。パワーに頼らない走りはヤンチャ坊主たちにAE86以来の、FRスポーツの本質を教えてくれた。その一方でトコトコ行きたいマイペース派にだって、その乗りやすさとオープントップが笑顔を与えてくれた。
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そもそもオープンカーってのは贅沢な乗りものだ。けれどマツダはGT-Rが445万円した時代に170万円でこれを発売してくれた。余計なものを付けないこと、即ちライトウェイトスポーツの魂! といわんばかりにチープさを味方に付け、走ることの楽しさを第一に抽出してくれたのである。MG-Bの素朴さや手に入れやすさと、エランのハンドリングを融合させたお洒落センスは相当なものだ。
そういう思いで今一度初代に乗ると、「本当にこれでいいんだよな」って思う。機能的にはこのシャシーの完成形であるNBのサスペンションパーツでアップデートして……なんてことがすぐ頭に浮かぶが、初代はこれでいい。ボヨンボヨンのダンパー&スプリングはリアサス周りの剛性不足を補う敢えての処置であり、前後重量配分50:50のボディでこのボヨンボヨンをバランスさせるのは乗り手の仕事。粗野ながらもダイレクトなFR用ミッションを超ショートストロークなシフトノブでゴクゴク操作して、風に吹かれながら走れば“あぁ、生きてるなぁ!”って気持ちになれるんだ。
現行ロードスターは原点回帰という意味で一つの集大成を実現した。しかしそれは構造的な踏襲であり、初代が持っていた、チープさを味方に付けたクルマ造りは失われた。代を重ねるごとに洗練を帯びるのは宿命だがNDロードスターにもう一つ背中を押されないのは、「これでも頑張ってるんだ!」と言われるのを覚悟で言えば今のボクたちには端的に高いからだ。
世界基準で見れば適正価格でも、ベースモデルで255万円強(執筆時)という価格は二極化が進んだ日本では高級車。電動化をはらむ進化はその姿を変貌させるかもしれないが、ロードスターが“日本車であるならば”、初代の魂であったチープながらも胸を張れる素晴らしさを今一度模索して欲しい。そういう意味で今NAロードスターに乗ることは、大いに価値がある。
(中編・BMW Z1に続く)
【SPECIFICATION】ユーノス・ロードスター
■全長×全幅×全高:3970×1675×1235㎜
■ホイールベース:2265mm
■トレッド(F/R):1405/1420mm
■車両重量:940kg
■エンジン:直列4気筒DOHC
■総排気量:1597cc
■最高出力:120PS/6500rpm
■最大トルク:14.0kg-m/5500rpm
■サスペンション(F&R):ダブルウイッシュボーン
■ブレーキ(F/R):Vディスク/ディスク
■タイヤ(F&R):185/60R14
■新車時価格:170万円