ゼファーをベースに似て非なるボディを構築
アメリカの高級車を代表する存在である、リンカーン。その中でもリンカーン・コンチネンタルは長い伝統を持つネーミングだが、その性格は一定せず、同ブランドの中でも様々なモデルに用いられてきた車名である。しかし、その最初のモデルは、高価なパーソナルカー、ラグジュアリークーペ/コンバーチブルというジャンルを確立した存在であり、二代目までは確かにその方向性で統一されていた。
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リンカーンはフォードが擁するブランドであるが、このコンチネンタル誕生にあたっては、創業者ヘンリー・フォードの息子にして二代目社長であるエドセル・フォードが果たした役割が大きい。父とは違い美的センスに優れたエドセルの、そのセンスが発揮されて生まれたのがコンチネンタルだったのである。エドセルは自分のレジャー用の自動車として、リンカーン・ゼファーをベースにした2ドア・コンバーチブルを造ることを思いつき、このアイデアを実現。彼の友人たちの反応から市販化を決定し……というのが、コンチネンタル誕生について、よく知られている逸話だ。
ホイールベース125インチ(3175mm)、前後とも横置きリーフのサスペンションなど、シャシーはゼファーと同一であったが、その上に載るボディは、単にゼファーを2ドア・コンバーチブルにしたものではない(ゼファーのコンバーチブルやクーペは別に存在する)。ゼファーは流線形を特徴としており、キャビンを前進させたプロポーションやなだらかに傾斜したフロントエンドを持っていたが、コンチネンタルはむしろ前端を直立させた、スクエアなフォルムを持つ。代わりにエンジンフードやウィンドシールドは低く抑えられ、ワイドに広がったボディからはステップが廃されている。
なだらかなゼファーのリアとは違ってトランクも四角い形で確保され、リアエンドにはカバーで覆われたスペアタイヤが付く。このスペアタイヤこそが「コンチネンタル」、つまり大陸風という名の由来だ。アメリカ本土ではすでにスペアタイヤはトランク内などに収められており、背後に背負った形はヨーロッパ車のもの、という認識があったわけである。
1940年型として1939年末に市販化されたコンチネンタルには、クーペも加えられていた。ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションは、コンバーチブルよりクーペの方が一層分かりやすい。のちに1956年型として登場した二代目モデルであるコンチネンタル・マークⅡも、そのプロファイルはこの初代クーペのそれをモダンに仕立て直したものであった。ついでに言えば、同時期の初代サンダーバードも、1964年に登場した初代マスタングも、横から見たプロポーションは同じである。初代コンチネンタルがいかに普遍的な美しさを持っていたかが窺われる。
ベースであるゼファーも、1940年型では垂直に切り落とされたフロントエンドへとデザインを改めており、コンチネンタルのスタイリングがいかに支持を集めたか、その証拠と言えるだろう。すでに述べたようにシャシーはゼファーとコンチネンタルで共通で、エンジンは292-cid(4.8L)のV8と、これも同一である。オリジナルのコンチネンタルは1940年型と1941年型のみで、その違いはフロントフェンダー上のスモールランプの有無(1940年型にはない)にて識別可能だ。1942年型ではフロントマスクを大きく変更、戦後もこれをさらにオーバーデコレーションにして、コンチネンタルは1946-1948年型とラインナップされた。
クーペボディがない不幸――ならば作るしかない!
この初代リンカーン・コンチネンタル初期型は、モノグラムから1/24スケールでプラモデル化されている。名作の誉れの高いキットで、ボディフォルムからインテリア、エンジン、シャシーと、的確に再現されたものだ。必要以上にパーツを分割しすぎず、しかも完成したときの見栄えは最大限に計算されている。ヘッドライトがきちんとクリアーパーツ化されていたり、ボディ裾のクロームモールディングが別体のメッキパーツとなっていたりと、細かな配慮もうれしい。
しかし、このモノグラムのキットには大きな問題がひとつある。それは、コンバーチブルしか存在しないということだ。クーペの歴史に欠かせない初代コンチネンタルのプラモデルがないとは、なんと不幸なことであろうか。不思議なことに、海外のモデラーによる改造例なども見掛けないようである。そこで、このモノグラムのキットをベースにクーペへと改造を行ったのが、ここでお目にかけている作品だ。
キャビンは木型を削り出し、これを原型にしてヒートプレスで作っている。ヒートプレスとは、熱して柔らかくなったプラ板を原型に押し付けて変形させる技法のことだ。近年では3Dプリントなども徐々に普及を見せているが、経年変化などを考慮すると、ヒートプレスにもまだまだ一日の長があると言うべきではなかろうか。工程の写真に付したキャプション、そして後編の記事でそのあたりを細かく解説するので、じっくりとお読みいただきたい。